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エピローグ

 ベレーム卿の使者が出立する。


 ジロワとマイエンヌ卿が門まで見送りに出ていた。

 

 マイエンヌ卿は、使者が帰り際に漏らしていたベレームとメーヌとの講和条件を聞き、最初「しまった……」と考え、その次に「いやいや、ちょっと待て」と自らを抑えた。

 

 メーヌ伯は『ベレーム卿はすみやかにマイエンヌ卿アモンを解放すること。身代金は適切な相場の額による』と条件を付け、ベレーム卿もそれを飲む意向らしい。


 だが、マイエンヌ卿の身柄を抑えているのはあくまでジロワだ。使者の用向きは、身代金の額についてのジロワの意向を確かめるものであった。


 『身代金は適切な相場の額による』という条件は、ベレーム側で履行しなければならない条件である。だが、ベレーム卿はそれを云々する立場になく、身代金の額はあくまでジロワと自分との間での交渉で決まる。

 

 ここで、仮にジロワが身代金の額を吹っ掛け、また自分がそれを了承したとしよう。


 いかに両者の間の合意とはいえ、前の条件を順守するならベレーム卿が相場との差額を負担することになる可能性が出てくるのではないか? 本来、捕虜に取った側と取られた側で交渉すべき身代金の額が講和条件に含まれたことで、妙な可能性が生まれてきた。


 ここに、ジロワとの間で合意した件が影響してくる。『身代金の半額を、貴殿の助力への礼としてお贈りしたい』という申し出だ。


 仮に相場の倍額を合意したとしよう。そして、その場合に差額となる相場分の身代金はベレーム卿が負担したとする。だが、その差額分(半額)は前のジロワの申し出により、丸々マイエンヌ卿の懐に戻ってくる。


 つまり、マイエンヌ卿の身代金をベレーム卿が負担するという図式になるのだ。マイエンヌ卿の出費は差し引きで帳消し、ジロワは相場分の身代金を獲得し、ベレーム卿は条件を成就できて皆が満足するのではないか?


 そこまでが「しまった……」である。


 そして、「いやいや、ちょっと待て」というのは以下の思考であった。

 

 差額をベレーム卿が負担する、というのはあくまで可能性だ(実際そのつもりになっていたが)。もし、ベレーム卿がゴネれば交渉が長期化する可能性がある。

 それは、ベレーム方面の脅威を取り除き、アンジュー伯方面に力を集結しようとする(あるじ)メーヌ伯の構想の足を引っ張りかねない。

 ここは、黙っておかねばならぬ。しかし、だ。


 ジロワ殿は気付いているのか?

 

 そっと横目で隣を盗み見たマイエンヌ卿だったが、ばっちりジロワと目が合ってしまった。

 

 ああ! これは……。

 

 だが、ジロワはふっ、と苦笑いを一つ残し、

「さて、マイエンヌ卿。戻りましょうか」

そう言葉を掛け、館へ向けて歩み始める。


 その背に、マイエンヌ卿は感謝を込めて頭を垂れた。

 

 

 マイエンヌ卿の領地から身代金を伴った卿の家臣たちが到着したのは、それから十日と少しのちの事であった。

 


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