人形(ドール)
神崎 愛海(かんざき なるみ)…反射の異能を持つ少女
白凪 茉莉(しらなぎ まつり)…愛海と同じ反射の異能を持つ謎の少年
あたしの頬を一滴の血が流れている…
血を見るのは、慣れているから、動揺するようなことはない。ただ、【普通の女子】なら、泣いたり、わめいたりするだろう。
そういう意味では、あたしは、【普通】ではないのかもしれない…
海未を目の前で失ったとき、あたしは、動揺を隠せなかった…あの時、もっと冷静になっていれば、海未を失わずに済んだかもしれないのに…今でも、あたしは、自分が嫌いだ!!!
だから、あたしは【泣くこと】をやめた!!!
もっと強くなりたいと心から思ったからだ!!!
だからこそ、今、この状況で動揺してはならない。
愛海は、白凪から目を一切そらさずに、見つめている。白凪は、愛海のさっきの行動に驚いていた。
―まさか、確信があったとはいえ、迷わず行動に出るとはね。少しの手がかりから結論を導く洞察力もなかなかだ―
そして、同じくらい、期待もしていた!!!
「驚いたよ。まさか、ほんの数時間で、ここまで分かってしまうなんてね。愛海ちゃんの推測通り、僕と君は、【同じ】だよ」
「だとしたら、一つ疑問が生じるわ。異能は、【同じもの】は、存在できないというのが原則にある」
「愛海ちゃんは、能力開発でできた人形のことを知っているかい?」
白凪が笑顔で、問いかける。
「噂程度なら、聞いたことあるわ。確か、上位能力の異能の開発のために、人工的に異能者を作り出した事例が過去にあったって。でも、計画は凍結して白紙となったって聞いたけど…」
「そう、【一度】は凍結した計画だった。だが、水面下で計画は進行していたんだ。そして、実験を重ねた結果、ある一つの異能の異能者を作り出すことに成功した。その異能とは―」
―反射ー!!!
驚いている愛海を見ながら、白凪は淡々とした口調で、話を続ける。
「その後、政府は、異能者を作れることを公表し、いくつもの人形を作り出した。そして、人形には一つの【可能性】があることが分かった。それは―――」
白凪の話を聞いて、愛海は、冷静でいようと思っていたが、動揺を抑えられなかった。自分が【それ】だと認めたくなかったからだ。
「それが、本当だとしたら、あたしとあなたが、同じだということは、あたし
たちは…」
「思っている通りだよ。僕と愛海ちゃんは、政府によってつくられた人形だ!!!」
「そして、この計画を人形計画と呼んでいる」
白凪の言葉の一つ一つが、愛海の心に鋭い刃のように突き刺さった…
愛海の存在は、【作られた】存在だとわかったからだ…