異能者(ターレント)
もし、自分に異能があればと、何度思ったことだろう。彼女からすれば、仕方ないといえば仕方ない!!!
実際、異能があるかないかで、立場が変わってしまう世の中だからだ。強いて言うならば、貴族と奴隷のような主従関係になるといっても過言ではない!!!
だが、彼女には立場的には、奴隷に近いものにしかなりえなかった…
正直言うと、顔やスタイルは、悪くない方だと思う。髪は、高校デビューで金髪だけど、周りの女子には美人だからと嫌味を言われることなんて日常茶飯事だ。むしろ、第三者にそう言われることで、彼女は、自分が美人なんだと再認識できていた!!!
無能力者でさえなければ、こんな仕打ちを受けずに済んだのだろうと心の底から思う。
異能者になりたいと切実に望んでいた!!!
―そして!!!―
彼女、神崎 愛海の運命の歯車は定めに歯向かうように狂いだすのだった!!!
愛海は今、教室に一人立っている…
愛海以外のクラスメイトはみんな、倒れている…
というより、死んでいる!!!
何が起きたのか、分からず、ただただ、愛海は立ち尽くしていた。窓ガラスが割れ、まるでセカイにたった一人生き残ったようなそんな感覚だった。
制服は、誰ともわからない血で真っ赤に染まっていた。
無意識に手や頬に付いている赤いものを舐めてみる。やはり、鉄の味がする…外から吹き抜ける風が、立ち尽くす金髪少女の髪をゆらした。
愛海のすぐ近くに、元凶が倒れていた。血で一色になっている教室を何事もないような顔つきで出て、お手洗で、制服を脱ぎ、ジャージに着替えた。といっても、自分のではない。クラスメートの誰かのだ。ただ、サイズが小さいのか胸のあたりが少し苦しかった。なので、チャックは開けた状態にしておいた。
どうやら、事は相当、深刻なものだった。沢山の救急車が外に止まっている。てっきり、自分たちのクラスだけかと思っていたが、違っていた!!!学校全体でこんな現象が起きていたのだ!!!
愛海は、事の次第を理解するのに頭を抱えている状態だ。
「突然の出来事に、ついていけていないみたいだね。」
後ろを振り向くと、制服を着た女子が立っていた。制服はウチのものではないみたいだが…
愛海が真っ先に目が行く部分が一か所あった。同じ高校生とは思えないプロポーションだったからだ。
「出来事も整理できていないけど、あなたのそのスタイルも理解に苦しむわ」
不意な一言に、少女は笑う。「なるほどね。確かに、男子からはいやらしい目で見られることは多いよ。正直、服とかも合うサイズが少なくて困るくらいだしね(笑)愛海もボクに負けず劣らずのスタイルだと思うけどね。背が高くて羨ましいよ。」
おそらく、愛海とこの子どっちが好きか決めてもらうと大半はこの子にいくだろう。背が小さくて巨乳は間違いなく、男子は好きだといえる。正直、羨ましすぎる。スタイル維持で早寝早起きを習慣づけたのがミスだった…と愕然となってしまう。
「とはいえ、自己紹介が遅れたね。ボクは、柊 水蓮。よろしく神崎 愛海さん。」
柊は笑顔で、手を差しのべた。その手を握り、「こちらこそよろしく。神崎です。」と社交辞令のような返答。
よりにもよって『ボクっ娘』か…ますます、絡み方に困惑してしまう。
「正直言っちゃうと、こうなる前に会うつもりだったんだ。ただ、来る途中でちょっとヤボ用ができてしまって、遅れてしまいこのありさまってわけさ。」
「それって、この事態が人道的に起こされたものって言いたいの?」
「そうだよ!!!その異能者を保護するのがボクの目的だったんだ。まあ、案の定早く見つかって良かったけどね。」
今回のこの一件は、異能によるものだったの分かったが、どんな異能なのかは想像もつかなかった。今まで異能とは無縁だったため知りたくもないと思っていたからだ。
「まあ、早く見つかったなら良かったわ。あたしが生き残ったのも奇跡に近いものだし、まあ、学校側からすれば、無能力者なんていらない存在だろうけどね。」
愛海の言葉を聞き、柊は不思議そうな顔をしている。
「いや、愛海が生き残っているのは当たり前だよ。言ったでしょ?異能者によるものだって」
「ボクがここに来た目的は、神崎 愛海!!!君を捕まえるためだよ。君が今回の一件を引き起こしたんだから!!!」
彼女の口から出た真実は、受け止めがたい真実だった…