失敗作
安西 愛実(あんざい つぐみ)…柏崎 海未の遺伝子によってつくられたクローン
愛実が目を覚ました時、目の前に広がる光景は、多くの白衣を着た人々の歓喜にあふれた声だった!!!
―上層部に報告してきます― ―研究が続けられるぞ―そのような声が飛び交っていた。
最初は、感謝されたが、それは長くは続かなかった……
愛実は、【失敗作】だったからだ。柏崎 海未の遺伝子を使って作ったとはいえ、完璧なクローンを作ることはできなかったからだ。
愛実が作られた後も、研究は続けられたが、成功には至らなかった…
多くのクローンが作られ、処分されを繰り返された。そして、研究は【凍結】することになった!!!
愛実が生きているのは、彼女も悪運が強いと思わざるを得ないと今となっては思う。
「つまり、海未の遺伝子は科学者たちにとっては貴重なもので、その遺伝子で愛実は作られた。だけど、研究は失敗に終わってしまったというわけね…」
「そういうことになるわ。こうして私が生きていられるのもちょっとした【神様の気まぐれ】のようなものだから、ホントに人生って分からないわね(笑)」
そう言って、愛実は愛海をみて、微笑んだ。
「私の場合は、人形と違って、【特例】だった。それくらい、彼女の遺伝子は貴重なものだということになるわね。まあ、もう研究は行われることはないだろうから心配ないでしょうけど」
彼女の言葉には嘘偽りのようなものは感じなかった。もう確信しているということになる。
「そう言えば、生きているのは、運が良かったって言ってたけど、それが関係しているの?」
「この施設に来たんなら、もう、気づいているんじゃないの?愛海、あなたと同じよ。私の施設にも人形がいたのよ。その子が助けてくれたってわけ。私が作られたのが、七年前だからその頃からすでに、人形が研究されていたことになるわね。たしか名前は―――」
∞
キャリーケースを持って額に汗を流しながら、歩く少女。疲れているのか、軽く息切れをしている。まあ、それもそのはず。左手でキャリーを持って、右肩には別のバックを持っているためである。
お持ちしましょうか?という取り巻きの言葉にも、大丈夫ですよと一言。今となっては、その一言を言ってしまったことを後悔しつつある…
「何で、見栄張ったんだよ。頼めばよかったじゃないか」
そんな彼女のすぐ後ろをついてくる少年が一人。
「う、うるさいわね。あたしにも意地ってものがあるのよ。七年ぶりに戻ってきたんだし、友達にも顔を合わせておきたいじゃない!!!」
「似たような境遇で仲良くなったんだったっけ?まあ、幸康とはタイプが違ってたしな。安西、元気にしてるといいな」
「いいから、しゃべってないで、早く歩きなさいよ。日が暮れちゃうでしょ!!!」
少女は、そう言って、汗をぬぐいながら、長い道を歩いてゆく…