第一話「チーハー勇者参上!」
小説の投稿はほとんど初めてです。
誤字脱字も多いと思いますがよろしくお願いします。
(お気軽にご指摘ください)
僕の名前はセージ。アリハンの町でナカジーマ堂という魔道具屋を営んでいる。数年前までは父さんの店だったけど今では僕が店主だ。
魔道具って何? そんなことも知らないのかい?
魔道具って言うのは『魔法』の効果を発揮する特別なアイテムのことさ。
例えば、この水晶型の魔道具は『光の道標』っていう魔道具でどんな複雑な構造をしたダンジョンも構造を映しだしてくれるのさ。とても高価なものだよ。
20年前、王国の公営オークションで2億エーンで取引が成立している。最近、隣国のトナームのブラックマーケットでは3億エーンで売買されたらしい。
まあ『光の道標』は店に飾っているだけの非売品だから売り物じゃないけど君もナカジーマ堂に来てごらん。
ファイアーボールが簡単に出せる『火蜥蜴のミイラ』とか、掘り出し物の魔道具が他にも沢山あるよ。
◇◆◇◆◇◇◆◇◆◇
「セージ君……なにこの説明調の変なチラシは……?」
幼なじみのマユちゃんが僕の作ったチラシに文句を言っている。マユちゃんはナカジーマ堂の押しかけ従業員でもある。
「世界が平和になってからお客さんが全然来なくなっちゃったからチラシでも撒こうと思ってさあ」
アリハンの町はヴォリス王国の西にある町だ。ヴォリス王国はつい1年前まで魔王軍に侵攻されていた。いやヴォリス王国だけではない。世界中の国々と人々が魔王に率いられた魔物の軍隊に苦しめられていた。
父も魔王軍に殺され……僕は16歳という身空で店を継いで働いた。そんな子供は世界中に何処にでもいた。
そんな時だった。世界中が絶望していた頃、二ホーンという異世界からイチロー様という人が現れたのだ。なんでも凄い能力を神からいくつも授かった勇者様で、彼によってついに魔王は倒されたのだ。
世界中の人が、そしてこの僕も父のカタキをとってくれた勇者様に感謝した。ただ、平和になったおかげで魔道具の売れ行きがずいぶん減ってしまったけれども。
「魔物と戦うための魔道具が売れなくなったのは分かるけど……セージ君が作ったこのチラシはどうなのかなあ?」
マユちゃんは僕が作ったチラシがお気に召さないようだ。ちょっと変わったチラシで目を引くと思うんだけどなあ。
「説明調なのも変だし……それに非売品で飾ってあるだけの『光の道標』のことを書いたって自慢になるだけだよ」
「そ、そうかなあ」
マユちゃんは可愛いんだけど気が強い。
「セージ君は前回の鑑定士大会でも優勝しているんだからそれを書けば?」
「それこそ自慢っぽくて嫌だよ」
僕はヴォリス王国が主催している『魔道具鑑定士大会』の前回優勝者だ。魔道具の種類は多岐に渡り、同じ魔道具でも魔法の効果を発揮できる回数が違うこともよくある。
そのため魔道具の鑑定士は専門職でかなり難しい職業とされている。僕は死んだ父が、やはり魔道具の鑑定士だったため、赤ん坊の頃から魔道具を玩具として育ったのだ。魔道具の知識はかなり自信がある。
「まあセージ君はどんな魔道具でも音で鑑定しちゃうしね」
そう僕は魔道具の知識だけでなく、魔道具がどれだけの魔力を残しているか音で感覚的に分かるのだ。知識とこの能力を駆使して、僕は前回の『魔道具鑑定大会』で優勝することができた。
今では『何でも鑑定士』と言われることもあるちょっとした有名鑑定士さ。だからチラシで宣伝すれば、お客さんはまたきっと……。
ドガガガガ! ガンガンガン! ドンドンドン! ギンギンギン!
その時、店の外から轟音が響き渡った。一体、何の音だ?
「な、なに?」
マユちゃんが驚きの声をあげる。そう言えば、このアリハンの町は交通の要所で大きな商業都市なのだがナカジーマ堂の周りは空き地がある。
魔王も倒れ平和になったので再開発でもはじまったのだろうか?
そんなことを思っていると「カランカラーン」と店のドアに付けたベルが鳴り響いた。
ドアの方を見ると如何にも大工さんという感じの人が入って来た。やはり工事がはじまるから挨拶に来たらしい。
「すいません。今日からしばらく建物を建てるための工事させてもらいやす。少々うるさいと思いますがご勘弁を」
それは仕方ないけど振動があるなら、ウチは魔道具屋なのだから事前に教えて欲しかった。陳列している魔道具が棚から落ちたら壊れてしまうかもしれない。
「ああ、そうなんですか。分かりました~」
「ありがとうございます。ところでアッシは知らなかったんですがここも魔道具屋さんだったんですか?」
へっ? 今この大工さん、『ここも』って言わなかったか?
「魔道具って高価なんでしょう? 儲かってるんでしょうなあ。いやあ羨ましいです」
いや、これっぽっちも儲かってないですよ。この店は父の代から何十年もやっているけど実は貸し店舗でテナント代を払うことすら苦労しているのだ。忙しくもないのに勝手に店員になったマユちゃんの給料を払うのも大変だし。
そんなことより……。
「あの……大工さん」
「大工の親方です」
ただの大工さんじゃなくて親方だと主張された。そんなことどっちでも良いじゃないか。
「親方さん……新しく建てる建物ってひょっとして……」
「え? いや、その……知らなかったんですかい? 魔道具屋ですけど」
な、ななななな、なんだって?
「ちょっちょっと魔道具屋の隣になんで魔道具屋建てるのよ!?」
マユちゃんが怒鳴ってる。大工の親方さんに怒っても仕方ないが確かにあんまりだ。気持ちは分かる。
「そんなことアッシに言われても……それに隣って言うよりかは」
ん? 親方さんの言いぶりだと隣に建つのではないのだろうか?
隣に建つのではないなら、まあ仕方無いかもしれない。変な格好した女の子が接客するバーが乱立してしまって歓楽街になってしまったアキーバという町もあるしね。
「完成予定図見ますか?」
「見せてください!」
大工の親方さんが出した完成予想図をマユちゃんが僕よりも早くもぎ取る。
「な、なによこれー!!!」
完成予定図を見たマユちゃんが叫んでいる。僕も叫びたくなる。何故なら新しく魔道具屋になるという建物は雪で作ったかまくらのようなドーム型をしていた。
その小さな穴からは僕のナカジーマ堂がわずかに見える。
「建物の形も知ってるものかと思っていましたぜ」
大工の親方さんは弱々しく呟く。僕が返事も出きずに放心していると「カランカラーン」と店のドアのベルが新たな来客を知らせる。
「こんにちは。お取り込み中でしたか?」
「あ、いえ。え? え?」
久しぶりのお客さんだ。新しい建物の件はさて置き営業をしなければと思ったがそのお客さんには営業が出来なかった。いや出来ないわけではない。
どうして営業をためらってしまったのか?
「す、凄い美人……」
そうなのだ。マユちゃんが呟いたように訪問した客は金髪碧眼の物凄い美人で女の子に慣れてない僕には声をかけるのも難しいほどだった。非の打ち所の無い顔立ちである。いや、あまりに美し過ぎてちょっと冷たく感じるほどだ。
しかも、長身でナイスバディーある。マユちゃんも可愛いいけどつるぺったんだし、その顔立ちは現実の範疇だった。このお客さんの美しさは現実感すらない。 そして何度も比べて申し訳ないがマユちゃんと比べて気品がある。マユちゃんは庶民的だ。
「耳が……」
大工の親方さんが呟く。耳? 耳がどうしたって。あっ。
お客さんを見ると少し耳が尖っている。僕はつい「ハイエルフだ」と呟いてしまった。
このお客さんはエルフだ。しかも純粋度の高いハイエルフに間違いない。しまった!
折角のお客さんなのに気難しいとされるエルフに対して失礼なことを呟いてしまったかもしれない。
「はい。わたくしハイエルフのティータと申します。よろしくお願いしますね」
ところがティータさんと名乗るハイエルフは微笑んで丁寧に挨拶をした。冷たく見えるほどの美人顔がとても優しくなった。親方は顔を赤くしてエロそうに愛想笑いをしていた。
でも親方のことを言えない。だって自分もそんな顔をしてしまっているような気がしてならない。
「なによ!」
「いでででででで!」
隣にいたマユちゃんに思いっきりお尻をツネられた。やはり親方と同じような顔をしていたらしい。
「と、ところで魔道具をご入用ですか?」
森に住むことを好むエルフが人間の町で魔道具の購入とは珍しいなと思いながら聞いてみる。
「いえ、実は連れ合いと挨拶に来たのです。もう来るかと思いますが遅れていて」
え? 客じゃないのか。それはどうでも良いとして挨拶? 連れ合い?
「カランカラーン」と店のドアが、三度の来客を知らせる。入って来たのは僕と同じぐらいの歳で長身の若い男だった。髪は黒髪、肌は少しだけ浅黒い。黄色と言っても良い。
僕と同じように白い肌の人が多いこの国では南方の異国の人なのかもしれない。イケメンではあるんだと思う。
「ごめんごめん。ティータ。待った? アクアが飴玉を選ぶのに時間がかかってさ」
「もう! 遅いよ!」
新しい来客は気軽にティータさんの名前を呼ぶ。ティータさんも気品を保ちながら僕達に対応した時と違って、何と言うか女の子のような可愛らしい返事をした。
なるほど。この男がティータさんと挨拶に来た連れ合いということか。きっと二人は恋人か何かでこの近所に引っ越して来たんだろう。
ティータさんと親しげな様子を見ると別にこの男に何かをされた訳でもないのに、カウンターにたまたま置いてあった『雷竜のヒゲ』で電撃を喰らわしたくなる。僕がそんなことを考えていると男は言った。
「へえ~『雷竜のヒゲ』かあ。まだ4回ぐらい電撃の魔法効果を発動できるな。評価はBか」
な、なんだと!? この男、何処にでも有る革製のヒモにしか見えないだろう『雷竜のヒゲ』を一目で見抜いたぞ。しかも正確に魔法効果の残りの発動数まで言い当てた。僕ですら4回と断言するのはかなり入念に品定めをしなければならない。評価はBとか言うのは何のことか分からないがこの男も鑑定士なのか!?
「イチロ~早く引っ越しソバとやらを渡して宿に戻ろうなのじゃ~」
若い男が長身だったので気が付かなかったが、男の足元をよく見ると可愛らしい小さな女の子が隠れていた。
うぇっ!? 僕は女の子の装備品に驚く。女の子が体にフィットするブルーの下着のような服を着せられているのも驚いたが、そんなことより驚いたのは頭にかぶっている帽子と持っている杖だ。
「『神蚕の三角帽』と『億年樹の杖』!? いや、よく見ると靴も『天馬の革靴』じゃないか!?」
少女が身につけていたのは、神代にいたという黄金の蚕の生糸で編まれたという三角帽、聖域に繁っていると言われる大樹の枝で作られたとされる杖、天翔ける馬の革から作られた革靴。
超絶レアな魔道具ばかりだった。
「へえ~アンタよく見抜いたね。どれも評価SS以上の魔道具さ。まあ杖も帽子も靴も『すくーるみずぎ』の価値にはかなわないけどね。アハハ」
評価SSとか『すくーるみずぎ』とかいう言葉は分からなかったがイチローという若い男もこれらの超絶レアな魔道具の価値を知っているようだった。
それにしても女の子の装備は凄い。どこのお大尽の娘さんなのだろうか?
「お、お嬢ちゃん、凄い魔道具を装備してるんだね」
「お嬢ちゃん? 馬鹿にするな! 近いうちに結婚する立派なレディーなのじゃ!」
「へっ?」
僕が7歳ぐらいに見える女の子の怒声に面食らっているとイチローと言われている若い男は言った。
「君も聞いたことがあるだろう? アクアは水の神殿の大賢者だよ。まあ近々、僕の第一婦人になるんだけどね」
「な、なななななんだって? この女の子が水の神殿の大賢者様?」
冗談だろうと思ったが装備している魔道具を考えれば……。ほ、本当なのか!? しかも第一婦人ってことは……。
「ちなみに第二婦人はここにいるエルフの森公国の姫であるティータさ」
イチローは右手で少女アクアの頭を撫でながら抱き寄せ、左手でティータさんのお尻を揉みながら抱き寄せた。さっきは気品を見せていたティータさんは恥ずかしそうに身悶えていている。
くそ! このイチローという男は何者なんだ!? 何処かで聞いたような名前だ。イチロー、イチロー。ま、まさか!
「アッアンタ! ひょっとして魔王を倒した勇者様!?」
「そうだけど」
目の前のイチローは臆面もなく勇者と名乗った。マ、マジなのか?
「あ、あの。サイン貰っていいですか!? 親方さんへって書いて欲しいんですけど」
大工の親方さんは早くも着ている作業着に勇者様のサインをねだっていた。い、いかん。
ぼ、僕もサインを貰わなきゃ!
そうだ。ナカジーマ堂の最大の宝『光の道標』に書いてもらおうか!?
僕がペンと『光の道標』を取り出そうとしていると急にマユちゃんが叫んだ。
「ゆ、勇者様! どうしてこの魔道具屋の近くに魔道具屋を建てるんですか? それにナカジーマ堂をすっぽり覆うような建物にするなんてあんまりじゃないですか?」
え? マユちゃんは何を言ってるんだろう? あ、あれ? もしや。
「ひょっとして僕のお店をすっぽり覆い尽くすような形で新しく出来る魔道具屋って勇者様の店なんですか?」
「おいおい。二人から同時に質問されてもなあ。お前の質問から答えるとそうだよ。俺の店さ」
げえええええええ。ナカジーマ堂の商売敵は勇者様の店だったのだ。
「バイトのお嬢ちゃんに答えると、魔王を倒して冒険も終わったし、魔道具屋でも始めようと思ってさ。アクアはアルケミスト(錬金術士)でもあるから魔道具をいくらでも作れるしね。もちろん俺やティータも作れる。
俺達は魔道具を大量生産して安く販売するつもりさ」
な、なんだって!? アルケミストとしても高名な大賢者のアクア様が魔道具を作ったら、かなり強力な魔道具が簡単に量産できてしまうぞ?
「そ、そうじゃありませんよ! なんでわざわざウチの店を覆い尽くすような形で新しい魔道具屋を建てるんですかって聞いているんです! ウチのお店が潰れちゃうじゃないですか?」
マユちゃんが再び叫ぶ。
「え? だって潰すつもりで来たんだもの」
は? 勇者様は何を言っているんだ。
「そ、そんな! ひどい!」
マユちゃんは真っ赤になって抗議している。
「ひどくないさ! むしろ良いことをしてるんだよ! ここにある魔道具屋を潰せば、この店が開拓したこの辺のお客さんはみーんな新しい俺の店に来るだろ?」
こ、この言い振り。全く悪気がない。きっと勇者様は、魔物を倒して、経験値を得て、レベル上げをするのと同じような感覚で、僕の店を潰すつもりなんだ。
「僕のおかげで世界は平和になった。これからは生活に便利な魔道具を安く庶民に提供していけば地域の人達も助かるだろう? 魔道具の安売りスーパーの一号店さ」
「確かに生活に便利な魔道具が安く販売されればお客さんも喜ぶでしょうけど……でも私達の生活が……」
マユちゃんがそう言うと勇者は笑顔になった。
「それも考えてある。このボロ魔道具屋は潰して買い物客の休憩所兼レストランにでもして君達は新しい魔道具屋の『スーパーイチロー』で働けばいい!」
「な、なんですって!?」
マユちゃんが怒っている! もちろん僕もだ!
「そんな怒らないでって。君、名前はなんて言うの?」
「マユですけど? 店長はイチロー君です」
「店長さんの名前なんて聞いてないよ。俺はマユちゃんの名前だけ聞いたのさ。もし『スーパー・イチロー』で働くのが嫌だったら僕と結婚するかい?」
僕はさらに、この勇者様は何を言ってるんだと思った瞬間、アクア様とティータさんから「え~~~!」という不満気な溜息が聞こえる。
「他にも結婚しないといけない女の子達がいるから第六婦人になるけど一生遊んで暮らせるよ? マユちゃんみたいな可愛くて気の強そうなタイプの子はいないから大歓迎さ」
勇者様、いや、イチローはマユちゃんにウインクをした。
マユちゃんは真っ赤になって数秒プルプルと震えた後に魔道具の『空飛ぶホウキ』を手にとって暴れだした。
「出てけ~!!!」
勇者と賢者とエルフと大工の親方は慌ててナカジーマ堂を出て行った。引越しソバなる料理を置いて。
この日から、僕と勇者の長きに渡る壮大な戦いの火蓋はきって落とされたのだった。