会話
ピリリリピリリリ
魔法が解けた。
暗い部屋の中で携帯電話が光っている。
「お時間ですよ」
私の一言で目の前の☆☆は服を着始めた。
ニヤニヤしながら☆☆が言う。
「一緒に出ようか」
そう言われ部屋を後にすると、☆☆が私の手を握る。
別れるまでは仕事だと頭では理解していた、だけどこれは苦痛と呼べるものだった。
帰りのエレベーターはいつも遅く感じる。
別れ際、愛想笑いで手を解き、送迎車へと向かう。
「お疲れ様です、〇〇さんは事務所戻りですよ」
「はい」
「〇〇さんは偉いなぁ、みなさん結構グチとか言いますよ」
「みんないい人なのでグチとかはないですよ」
「〇〇さんはプロって感じだなぁ、もし僕が客なら〇〇さん指名したいなぁ」
「ありがとう」
男はみんな同じだ。
早く事務所に帰りたかった。
「〇〇さーん、事務所ですよー」
と耳障りな声に起こされる。
どうやら寝てしまったらしい。
目をこすると見慣れた雑居ビルの前。
「ありがとうございました」
形だけの挨拶をし、車を降りた。
事務所にいる店長にお金を渡すと
「〇〇さんはよく稼いでくれるから偉いですよ、頑張ってくださいね」
馬鹿にされてる気がした。
無言で頷くと、二階の待機場所へと逃げ込んだ。
待機場所は個室になっており、この業界の中では大きなほうらしい。
個室といってもカーテンで仕切られているだけなので、あまりプライバシーはない。
私がタバコに火をつけると、最近よく待機が重なる女の子が話しかけてきた。
「〇〇さん!今日ホスクラ行かない?」
私はあまり興味がない。
「今日はちょっとお腹痛いから」
「そっかー、また誘うね」
いつもホストの話しかしないこの子には体にいくつも痣がある。
まぁ詮索する気はないので別に気にしてはいないが。
ただここにいる子はみんなどこかに傷があると思った。
タバコの煙の先にある小さい窓からは明るい雪がちらついて見えた。