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マニュアル
この世界にはマニュアルがある。
人と同じであればいいというマニュアルが。
生まれついてから感情が欠落しており、悲しいや嬉しいがわからない俺はマニュアルが必要だ。
だから友人を作り、家族と会話を弾ませる。
俺はマニュアルに生きている。
今日もマニュアル通りに友人と酒を飲み、興味のない異性の話をした。
実に面倒だが、大学生というのはこれが普通なのだ。
酩酊した友人をタクシーに乗せ、俺は徒歩で帰路につくことにした。
家への近道は駅の裏路地を歩く、数件の居酒屋とラブホテルしかない寂れた道だ。
土曜の夜ということもあり、ちらほらタクシーや送迎車が止まっている。
雪溜まりを避け歩いていると、一台の車から女性が降りてきた。
遠目に女性を見ていたがあることに気が付いた。
女性がホテルの中へ消えるまでの間、周りの音が何も聞こえなかった。
ほんの短い時間だったが、その女性が俺を埋め尽くしていた。
なぜ初めて会った他人に興味を持ったのだろうか。
あの女性に一体何を感じたのだろうか。
何とも言えないもやもやしたものが心を覆っていくような気がした。