魔物退治
洞窟の岩肌を、小さなランタンの灯りが照らしていた。
少し前方を、闇に溶け込むように、音もなくラレナが歩いている。
こういう時、システィルは時折、ラレナがそこにいないのではないかと思う。
もちろん彼女が彼らを置いて逃げるはずはないし、この洞窟に裏口がないのも確かめてはいるが、
彼女の隠れ身の巧さに、思わずそんな気がしてしまうのだ。
「………」
彼らの間に会話はない。
正面きっての突入とはいえ、不意を打てるに越したことはない。
枝分かれを過ぎてから少しして、レミュアが立ち止まった。
闇の中から、微かにラレナの気配が浮かび上がる。
「いるわ。三、四匹」
小声で囁くように、ラレナの声が三人の耳に届いた。
ウィルはランタンの覆いを下ろし、訪れた闇の中で魔術印の刻まれた長剣を抜いた。
僅かに、空気が震える。
魔物達がその振動に気付くよりも先に、戦士達が躍りかかった。
「簡単な仕事だったわね」
ラレナが鼻唄でも歌い出しそうな様子で、仲間達を振り返る。
洞窟を住処としていた魔物の数はそう多くなく、手強い相手でもなかった。
被害の範囲を考えると、別の洞窟にも魔物が棲んでいる可能性はあるが、それは依頼の範囲外だ。
忠告だけはしておこう。
また依頼を出すなら、別の冒険者が受けるだろうし
また、自分達が受けてもいい。
「浮かれていると、足を踏み外すわよ」
彼女の様子を見て、レミュアが笑う。
「その土手の下、小川がありますから。
落ちたら、さしずめラレナの川流れですね」
細い指でラレナの足元を指差しながら、魔術師が続ける。
「何よそれ」
「川に棲む水の妖精が、調子に乗るあまり川で溺れそうになったという逸話がありまして」
彼の講釈を聞いて、システィルがぷっと吹き出す。
「ははっ、それは面白い」
三人に笑われて、ラレナは口を尖らせて膨れてみせた。
「もう、落ちないってば!」
冒険者達が森を行く。
樹々の間に、赤々と洩れる夕陽に照らされて
長い影が映った。