2/22
転生の朝
「行ってきます」
一人の青年が、ある老人の家の戸口に立っていた。
その腰には、魔術の護符を填め込んだ長剣。
身には草色の長衣、背には背負い袋。
これから冒険者になろうとしている、若い魔術師の姿だった。
その家は、彼の師である魔術師の家だった。そして、彼の家でもあった。
彼は、これまでの暮らしを思い出していた。
彼はそれなりに安定した家に生まれ、本に親しみながら幸せな幼年時代を過ごした。
やがて魔術に憧れるようになると、ある老人に師事して生家を離れ、魔術師を志した。
老人に認められた後、彼は世界に憧れた。
この小さな街から出て旅をし、本に書かれているような広い世界を見て回りたいと考えた。
彼は、習い覚えた魔術の力を人の為に役立てたいとも考えた。
そうして冒険者の世界へと身を投じるべく、彼は師の家を出ようとしていた。
「行ってきます」
もう一度繰り返して、彼は歩き出した。
長い金色の髪が、朝陽を受けて目映く輝いていた。