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第2話 yet and over

Silverのネタバレにならないようにするのが大変です……

そして私の部屋の窓にセミが張り付いてて煩いです(笑)

この間祖母に生きたセミをゴミ箱に入れられそうになりましたが(爆)

 さて、唐突だと思われるが皆さんは‘プライバシーの侵害’という言葉をご存知だろうか。あと、‘個人情報の漏洩’という言葉も。

 勿論上に述べた二つは法的に禁止されている。彼の完全統治で有名なヘルメス国に比べれば整っていないかもしれないが、それでもここミッテルラント国は一応は先進国に属しているだけあって、十分一般市民にも知れ渡っている法律の筈だ。


 そう、‘筈’だ、が。


「あ、漸く帰ってきたんだアインスハルト君。流石に待ちくたびれたよ」


 ……何故にコイツ(宮瀬)はオレの家の前に突っ立ている?オレはこいつに家の場所どころか電話番号すら教えた覚えはねぇよ。


「電話番号って、何十年前に絶滅した単語なんだよ……まさかキミの家って、未だ固定電話とかいう骨董品ある感じ?それってちゃんと動くの?」


「生憎と家にそんなモンはねぇ。てかちょい待てや。何でお前はオレの家を知ってるんだ?」


 相変わらずのムカつく爽やか具合にイラっときながら、とっとと疑念は片付けようと質問すれば、答えは物凄くいい笑顔で返ってきた。


「え?ちょっと校長脅して学校から情報パクって来ました!てへ?」


「てへじゃねえだろ!?それ明らかに法律とか無視しまくってるよな!?堂々と犯罪をひけらかすなッ!兄貴()にバラしたろうか!?」


 幸いな事にオレの兄、慧夜は城内の魔道具整備を担当している。そっからの伝手でお偉いさん引っ張り出してくる事なんかチョロいだろう。兎に角、オレはコイツが何故そうまでしてオレの自宅を調べたのかが凄く気になる。


「城に、ねぇ……面白そうだからバラしてもいいけどそれはちょっと待ってね。具体的に言うと、慧夜さんが帰ってきて話ができる位までは」


「あん?慧に用があって来たのか?てかそれならフツーにオレに仲介役させるとかいう考えは無かったのか?」


 色々とツッコミ所が満載すぎて頭痛を覚えるが、コイツはオレが考えている事の更に斜め上の行動をしてそうで怖い。……いや、してそう、じゃなくてしてるんだろうな。少なくとも犯罪に手を出してる時点で怪しさはマックスだ。


「うーん……慧夜さんに用、というか、キミに用があってそれの説明に慧夜さんが必要というか……?」


 イマイチ要領を得ない説明に更に疑念は募る。オレに用、というのも何をするのかが皆目見当がつかないが、慧夜同伴となるともっと分からない。


「……まぁいい。別に慧夜殺しに来たとかじゃ無いならアイツ帰って来るまで家に上がってろ……後悔してもしらねぇけどな」


「あ、じゃあ有り難く……って、後悔?」


 何の事だ?と首を傾げる宮瀬に、フ、と意味ありげに口角を上げて顎をしゃくる。鞄を持ち直してごく一般的な見た目をした家のロックを解除してから、改めて先に入るように促した。ま、その先は保証出来んがな。

 開いたドアの前に立つ宮瀬が、ボトっと鞄を落とした。それに気づいた様子のないまま彼は真っ青な顔色で目の前のソレを指差す。


「ア、アアアアアインスハルト君!?何!?何なのアレッ!?」


 あわあわとオレと玄関を見合わせる宮瀬に、オレは何食わぬ顔で問に応えた。うん、予想通りの反応に感謝する。


「何って、貞子人形だな。カルディニア遺跡で親が拾ってきた。ついでに横の掛け軸は彼の有名画家、‘クロード’の作品『踊る血とタランテラ』だ。更にその横は『毒と少女』と『蛇のエデン』の模倣版」


「何でそんなモノがキミの家にあるのさーーーッ!?」


 どれも有名な作品ばかりなのだが、宮瀬にはあまり得意な物では無かったらしい。因みに、何故有名かと言えば全部彼の有名画家‘歪みの(・・・)クロード’の作品だから。血も凍ると言われる作品を描き続けた天才画家で、生涯の終え方は額縁に頭を突っ込んだ状態で首吊りだったらしい。つまり、いかにも曰くありげ―――というか有りまくる画家のモノが家に集ってる訳だ。


「何故って……親が遺跡発掘の仕事してたからな。その関係で美術館なんかに伝手があって、そっから紆余曲折の後に家に訳あり商品ならぬ訳あり作品が送られるようになったんだよ」


「絶対それ嫌がらせじゃん!?」


「ついでにこれを家に置いた直後にばーさんとじーさんと猫が揃って死んだ」


「絶対呪われてるからね!?ソレ直ぐに破棄しようよ!?」


「安楽死で」


「案外怖くなかった!?でも全員死因ソレも恐いか?」


 ぜはぜはと息を荒くしながら取り乱す美形はとても見ていて気持ちがいい。でもこの様子ですら絵になるのだから世の中的に回してるよな。


「という訳で、気をつけろよ。一応呪いの類はかかってないっぽいけど、ただ単に解析できてないだけかもしれねーからな。ああ、あとこっから先も保証できねぇ……ってか、お前‘瞬間移動(テレポート)’使える?」


 今更ながらに思い出した事に疑問を覚えると、案の定分かっていない宮瀬は首を傾げた。


「へ?いや、そんな術は流石に……」


 だよな、アレ結構な高等呪文だし。スゲェ無駄に魔力食うし。となるとオレが運ぶしかない、か。


「一体そんなの何に使う気?」


「……そこのドアの先が客間兼リビングなんだがな、ちょっと開けてみろ」


 廊下のすぐ脇、扉のしまったドアを指差し敢えて宮瀬に開けさせる。別にゴミが散らかっててーなんてありふれた理由では無いが、この部屋に入るのは至難の技だろう。

 ガチャリと音がしてごく普通に扉は開く。が、開いた先の光景に予想通り宮瀬は固まった。


「……アインスハルト君。何?コレ」


「あ?何って、慧の仕事道具。別に汚い訳でも無いだろ?」


「……汚くは無いけど足の踏み入れ場もないよね。どうやってこの部屋に入るの?」


 そう、この部屋は綺麗に整頓された兄の道具が収納してある。というか、最初は納戸に置いてあったのが一一運ぶのが面倒になり、割と広いスペースがあるリビングに移り、段々とスペースは狭くなり、仕方ないので荷物を壁側に積み上げた結果が現状―――扉の前に荷物が積み上がって入れない―――だ。奥に入れればちゃんと広い。


「そりゃまぁ、さっき言ったように‘瞬間移動(テレポート)’でだな。オレも慧も使えるし、客なんて来ないから今まではそれで事足りてたんだよ」


「……つまり、この家で生活したいならそんな高位ランクの術を使えなければいけない、と。なんつー家だ……」


 まあ確かに一般的な家では有り得ないだろうな。主に呪いの人形が揃ってる点が。

 だが、流石に紛いなりにも客である宮瀬をここに通さない訳にもいかないか。そう考え直し、仕方なく左手をスっと差し出す。


「え?」


「え、じゃねえ。瞬間移動(テレポート)使えないんだろ?別に一人位なら転送可能だから、さっさと掴まれ」


 そうでなければ誰が悲しくて男に手を差し出すか。野郎に手を貸しても何も面白くない。


「あ、ああ。ありがとう」


 そう言って手を取る宮瀬の手を強めに握ってから、仕方なしに呪文を唱える。流石に二人分となれば無詠唱は厳しいものがある。てかまずオレの魔力がキツくなる。人並みを遥かに上回っては居るが、上限はちゃんと存在しているんだから。


『目指すは彼方 決して手を伸ばしきれない 目の届かぬ先』


 一応唱えてはみるものの、この状況と全く合っていない呪文には苦笑しか出てこない。目は確かに届かないが、距離的に言えば手を伸ばしたらすぐの距離に移動しようとしているのだから。


『時は棄却する 望む先は未だ来ぬ時ではなく 現し世に在る地』


 握った手越しにオレの魔力を流し込み、宮瀬の転送準備を促す。自分のモノでは無い力が流れた所為か、目前の宮瀬は眉を寄せた。


『視界に広がる焦がれる地へ 今誘い示せ!』


 白に染まる視界。チカチカするそれに思わず目を瞑れば、ちゃんと立っている場所はリビングに移動している。


「へ~……これが瞬間移動(テレポート)か」


 早々経験出来る物では無いからだろう。感慨深げに手を閉じたり開いたりする様子に、オレは苦笑する。


「ほら、そこ座ってろ。茶漬けなら出すから」


「……それ、言外に出てけって言ってる?」


「いや、早く帰れって言ってる」


 訪れる沈黙。オレの態度に傷ついたのか、酷く落ち込んだ表情になった宮瀬を放置して、オレはキッチンに消えていった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 そして有言実行の為にわざわざ米を炊いていたオレと、それを微妙な顔で見る宮瀬という光景が1時間程続いた時、唐突に轟音が響いた。


 ドンッ!!


「な、何!?泥棒!?」


「安心しろ。泥棒でも侵入者でもないから。慧が帰ってきただけだ」


「は?」


 明らかに帰宅の音とは思えない墜落音にポカンと凝視してくるが、原因は直ぐに分かるだろう。一つ溜息をついて首を竦めた瞬間、またも唐突に目前に慧が降ってくる。


「いって~……また失敗か……」


「は!?」


 ズドンッ!と痛そうな音と共に現れた慧に宮瀬がギョッとして動きを止めた。パクパクと何かを言いたそうに口を動かすが、言葉にはならないようだ。と思えば今度はまくし立ててきた。うるせぇ。


「チョッ、待って!?空中から振って来ませんでした慧夜さんっ!?それはまだ重力と魔力の相互関係で座標を特定するのが難しいのに―――!」


「あー、宮瀬。アイツ、理論じゃなくて純粋に座標間違えるだけだから。毎回座標間違えて空中に出てきて墜落してるだけだから」


 落ち着け、と肩を叩くが興奮が冷めないらしく拳が握り締められている。それにもう一つ溜息を付けば、今度は慧がポカンとする番だった。オレが馬を諌めるが如く宮瀬を落ち着けようとするのを遮って、呆然と慧夜が呟いた。


「王、子?何故こんな所に……?」


 ………………………え?

 黒髪黒目、メガネという点を除けばオレと似通った顔をしている兄を振り返れば、嘘をついている様子も残念ながら無い。ずれたメガネを直そうともせず呆ける兄と、苦笑する宮瀬を交互に凝視し、改めて慧が呟いた言葉を反芻し―――


「はぁ!?」


 コイツが王子だぁ!?似合うっちゃ似合うけど、何でこんな所に来てまでオレと慧に話をしなければいけないのかが全く分からない。取り敢えず、ここはどうしたらいいんだ……?


「あー、すみません、勝手に上がっちゃって。一応今日は黎夜君と慧夜さん、お二人に王宮からの依頼があってきました」


「私と、黎夜に?」


 すっかりオレを蚊帳の外に置いて話し始めた二人に一瞬イラっときながらも大人しく待つ。流石にオレでも、王族相手に横暴は出来ないからな。……まぁ、今までに大分無礼を働いていたような気もするが、これは言わなかった宮瀬―多分本名は別だろう―――が悪いと思う。今更謝るのも何か違う気がするし。


「はい。……とその前に、アインスハルト君の方には自己紹介しなきゃか」


「えーと、長いんで、黎夜で大丈夫ですよ?」


 一応敬語は必須だろう、と思ってちゃんと敬ってみると、キョトンとした顔の後に噴出されてしまった。


「プッ……いいよ、敬語じゃなくて。同い年だし。でもまぁ、好意には甘えさせて貰うよ。じゃあ改めて、僕はミッテルラント帝国王位継承権無しの王子、宮瀬樹です」


「へ!?本名なのかソレ!?」


 てっきり偽名かと思ってたのに……と妙な所で打ちひしがれていると、慧の方からもフォローが入る。ただの一般市民では王族の事なんて殆ど伝わらないのだ。せいぜい王家の苗字と有名な国王位しか分からない。


「王位継承権があるのは本家の「翡翠」家だけで、王族は他4家に分けられているんだ。「宮瀬(ミヤセ)」「熾宮(オキミヤ)」「在宮(アリミヤ)」「宮吹(ミヤブキ)」にな」


「へぇ……初耳。でも、傍系とはいえ王族からの依頼って事は相当な事なんだろう?」


 慧から宮瀬へ視線を移して一瞥すれば、困ったような目でオレを見ていた。困ったようだ、という事はそれなりに頼みにくい事なんだな。


「うん。正直気は進まないけれど、君しか適任がいなかったんだ」


 オレじゃなければいけない、という言葉に必然的に慧の目も鋭くなる。そりゃ、唯一の家族だ。お互いに甘くもなるだろう。お互いがお互いを支えてやっと生活していた時期もあるのだ。割とブラコンに近い物があるのは否めない。というかお互いに過保護というのが正しい表現か。


「因みにその依頼とは?」


 少し低くなった慧の声を物ともせず、ただ困ったように宮瀬はその()とやらを伝えた。


「僕と一緒に、世界各地の『遺跡』を巡る事です」


「「っ!?」」


 遺跡。思っていた以上に抉られる響きだ。思い出したくもない記憶を無理矢理掘り返された事で、指先が冷える。

 トラウマを思い出したのだろう。オレ以上に悪い顔色で慧夜は宮瀬を睨む。王族に何て事してんだ、と言える程の余裕は、今のオレには無い。ただ脳内でリピートされるのは、狭く土の匂いの溢れる暗闇と、慧夜の絶叫、軋む体の感覚、そして両親の顔。


「……今回陛下から直々に僕へ来た任務は、各国の協力を仰ぎ他国の遺跡を合同調査しろという任務です。ただ僕だけでは危ないという事で、防御力に優れ、遺跡について詳しい人物を一人勧誘しろとも命じられました。その条件にあったのが、黎夜君で―――」


「断らせて頂きます」


 はっきりと、その場に静かな慧夜の声が響き渡った。


 

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