Love1..神秘的な秋の夜に…
「みるく〜散歩行こっかぁ♪」
嬉しそうにしっぽを振るみるくが、愛しくてたまらない。
そんなみるくと、
「ほら咲良も早く上着着て行くよ!」
一緒になって急かす彼もまた、私の愛しい人だ。
水嶋綾人。
この秋から付き合い始めた彼です。
春からの大学生活や一人暮らしにもようやく慣れてきた、秋この頃という感じ。
秋の夜って何か好き。
少し淋しくて、どこか切ない。
とても神秘的な季節だと思う。
みるくのリードをゆるく持ちながら、少し先を歩く綾人が口をひらいた。
「なぁ、咲良。もしさ、俺から告白されてなくても、俺のこと好きになってた?それとも俺が好きにならなきゃ咲良はもしかして…」
まるで秋の夜のように少し淋しそうに、どこか切なそうにそうつぶやく綾人の言葉をさえぎるように、私はこう答えた。
「何〜、急にどうしたの?変だよ綾人〜」
笑ってごまかそうとした。
笑って流してしまえばいいって、そんな風に思ったんだ。
その夜、綾人が帰ったあと一人になってずっと考えていた。
綾人の言葉が頭の中を飛び出して、部屋中をぐるぐると回っている。
"前者だ"って真っ直ぐに彼の目を見て言えない自分が少し後ろめたくて、笑って流してしまおうと思ったのだ。
「だってさ、だってねみるく?初めて声をかけてきたのだって向こうからだし、映画やご飯に誘ってきたのだって、告白だってぜんぶ綾人だったもん。」
だから正直、考えてみたこともなかった。
どんな風にして彼と出逢って、彼を好きになっていったのか。
彼のどんなところを素敵だなって思って、どんな風に好きなのかなんて。
「気がついたら好きになってたんだもん…」
うるっとした瞳でみるくが見つめてくる。
「そんなの分からないよね〜。」
秋の夜は長い。長い。長…
ピロリロリ〜♪
やばいっ!遅刻だっ!
「ん…?電話…?」
「もしもし咲良〜、朝だぞ〜!起きてるかい?」
「綾人…おはよ。ありがとう。モーニングコール助かった〜!今日の一限だけは絶対出なきゃだったから、本当よかった〜!」
木曜日は一限からだから、彼が電話でいつも起こしてくれる。
私、我ながら愛されてるなぁ〜。
「惚れ直した?」
「どうかな〜、あはは。」
「も〜、俺、咲良から好きってあんまり言われたことないんですけど〜!たまには言ってほしいな〜俺は大好きなのにな〜。」
「あ〜、はいはい。準備しなきゃだからもう切るよっ。電話ありがと。また夜メールするね!じゃあね。」
「ん、分かった。メール待ってる。じゃあね♪」
プー、プー、プー…
これが私と綾人の最後の会話になった。
ねぇ、綾人、私ね、
綾人のこと、大好きだよ。
―その夜。
「ただいま~。みるくぅ、ただいま♪」
疲れた。
授業が終わってカフェバーのバイトをして、帰宅時間は10時だ。
明日提出のレポートをまとめてお風呂に入って、夜ご飯も食べなきゃな…
「やばっ!綾人にメール…忘れてた。怒ってるかなぁ~。」
ふとテーブルに目をやると手紙が置いてあった。
綾人の字だ。
「綾人、来たんだ。あ、レトルトのカレー買ってきてくれたんだぁ!プリンも♪」
こういうとこ、好きだなぁ。
ありがとう、って伝えたいな。
メールじゃなくて電話にしようかな。
「ん…?」
さらに読み進めていくと最後の方に不思議な言葉が並んでいた。
【瓶に入ってたの、何かおいしそうだったからちょっと食べちゃった。ミンティアの新商品かなんかなの?それじゃあ、温かくして寝なよ。忙しかったら連絡はいいからね。おやすみ、咲良。 綾人】
「ミンティアなんて買ったっけ?瓶なんてどこにもな…みるく、どしたの?」
うるんだ瞳でみるくが小さな瓶をくわえてやってきた。
「何これ?ただの空瓶じゃん…?」
とりあえず綾人に電話をしてみることにした。
プルルル~♪
プルルル~♪
だけど結局その夜、彼に電波が届くことはなかった。




