2 入学と新たな世界へ
「それで、この書類はなに」
「何って、編入手続きの書類」
「で、それがなんで2人分あるわけ」
「なんでってそりゃ、学生制度だし」
クリノアの件の翌日。なぜかラピスともども居間にて書類とにらめっこ。そしてその書類を持ってきたのは智哉。
「日本じゃ国籍関係なしに高卒義務なんだよ。協会で移民登録してっからこうして編入書が着てんだよ。一応これ拒否とかできねぇからな」
「それで、この阿澄学園ってとこに入れと?」
「まあ、そうだな」
「私はともかく、ラピスはどうすんのよ。獣人外見丸出しのまま通わせるき?」
「学園にも獣人はそこそこいる」
「で、そのそこそこいる獣人ってのはどういう扱いうけてんの」
「それなりだな」
それなり、ね。
「あの、マリアさん」
「ん、なに?」
「私なら大丈夫ですよ」
そうはいうけどラピスの手は小さく震えてる。
「それにいつまでも引きこもってられないですし、ね?」
「……いいの、それで」
「はい」
ラピスはそういうと書類に記入して行った。私もラピスがいいならそれはそれでいいから、記入する。そして書きあがった書類を朋弥が回収した。
「じゃ行くか」
「行くってどこに」
「学園。書類提出と制服の寸法測るから」
ラピスは耳を隠す服に着替えさせてから学園とやらに行くことになった。街に出ると、人見知りというか人間嫌いというかラピスがさっきから腕にしがみついてきてて歩きにくい。それに合わせて髪の色がピンクと私の白と言うのもあってなおさら人目を引いてる。
「ねえ、まだなの」
「そこの交差点曲がったとこ」
そうして信号待ちをしている間も人目をガンガン浴びてる。ラピスなんて完全に下を向いて前を見てない。介助犬か、私は。
信号が青になって歩き出してからは完全な介助犬状態。この子こんなんで大丈夫なの?
「ほれ、ついたぞ」
「意外とデカイのね」
「小中高一貫だしな、ここ。そんで事務所あっち」
朋弥に連れられてついた先は、受付らしき場所。朋弥はそこにさっきの書類を提出すると、中から事務員が出てきた。
「それではフィッティングルームへどうぞ」
そして案内されるがままについた先には個室が並んだ部屋があり、中にはメジャーとハンガーラック。
「FR担当が着ますので、少々お待ちください」
そういって事務員は帰っていった。
「なに、ここっていちいちオーダーメードなわけ?」
「凝り性なんだろ」
事務員が帰ってそんな会話をしてるうちに担当者とやらが来た。ウェーブのかかたロングの金髪女が来た。しかもなんかすんごい笑顔。
「あらあら~編入生がこんなかわいいこ2人なんて~。気合いはいっちゃう」
そしてメジャーを手に取ると怪しい空気を醸しは出し始めた。本当に人間なんだろうか、この人。
「ささ、はかっちゃいましょう」
「え、あ」
「ちょ」
そして有無を言う前に個室に連れ込まれた。ラピスともども。
「じゃあ上脱ぎましょうか~……もちろん、下着こみ」
「ひぃっマ、マリアさん、この人目がすわってますよぉ」
「ラ、ラピス? わ、私もなんか寒気が……」
「さぁさぁ、はまりましょうねぇ~」
「「ヤアァァァァァァァァ」」
*** *** ***
「……」
「ひく、っく」
「まあ、その。なんだ、大丈夫か」
「うふふ~さわり心地もいいし目も癒されたわ~」
あの後……うん、いいたくない。
脱がされる・なぜか触られる・計られる。とりあえずこれを繰り返された。これしか言いようがない。言いたくない。
「それじゃ、明日には制服が届くようにするから今日はもう帰ってもいいわよ~」
なんかすごい疲れた中、学園を後にした。通うことになってももう関わりたくない。ラピスなんて胸もまれたときからずっと放心状態。今も手を引いて歩いてる。
「そーいえばさ、シークってどんだけ認知されてんの?」
「んあ? まあ、毛嫌い程度だな」
「それ、程度とかじゃないでしょ」
「とはいってもなぁ、野蛮とかのイメージ強いし異界で狩りやったり逆に死んだりしてるから碌でもない扱いだな。そんでもって勘違い連中のせいでシークの評判は低いから、毛嫌いされてる」
「どうせあれでしょ、かっこいいとか思ってんでしょそいつら」
「その通りだ。うちは違うけどよそにはシーク禁止令だしてる学園もあるしな。ちなみにバレタラ停学すっとばして一発退学な」
「あら厳しい」
そんな適当な会話をしながら家に帰った。
家に帰るなりラピスは速攻でエプロンをつけてなぜか料理をし始めた。精神安定効果でもあるの? 料理。
「そういえばさ、ちょこちょこ協会いってるっぽいけど貯金でもしてんの?」
「暇潰しだけど。それと勝手にたまっていってるだけだから残高なんてしらない」
課金して、それ全部入金処理してるから残高なんて知らない。300万のあれ以降一切見てないし。
「なあ、なんかい異世界いった?」
「さあ? 結構いってんじゃない?」
「大体なに換金してんの?」
「ドットの共鳴骨に尾羽とかそのへん」
「それを毎回?」
「毎回……かな」
「毎回かぁ……じゃあ今のとこ1000万くらいはあるな。質にもよるし、実際にはもうちょいあるかもな」
「いつの間にか資産家ねぇ」
いやぁ、会社とかに行ってる人らの年収かるく超えちゃってるとか……まあ、そんなもんなのかね。シークは。
「ごはんできましたよー」
「おー待ってました」
ラピスの作った昼食はやけに凝ったもので、聞いてみたら
『無意識って怖いですね』
って返ってきた。でもまあ、すがすがしい顔してたから気にしなくていいか。
*** *** ***
「…ラピス・グレコールです」
「マリア・イグリーフ」
なぜか今、私とラピスは教室にいる。というのも今朝制服が届いてはいっていた書類にこれをきて登校がどうたら書いてあったからこうして、教室にいる。そして目の前には30人くらいの人間、もとい生徒がいる。その生徒の60個くらいの目が私とラピスを見てる。なんかうっとうしい。
「……マリアさぁん」
「なんで泣きそうになってんのよ……」
助けを求めてきたラピスの目にはなぜか涙がたまっていて、泣きそうと言うよりもほぼ泣いてる。どう収拾つけんのよ、これ。
「2人の自己紹介も澄んだことですのでぇ後は各自質問タイムということでぇ」
そしてこの担任、語尾をやたらと伸ばす。
というか質問タイム??
「出身地どこですか」「今の住まいは」「好きな食べ物は」「彼氏いますか」「彼女いますか」「2人知り合いっぽいけどどういう関係ですか」「3サイズは」「俺のこといじめてください」「私もッ」
おおぅ、かなりうざい。あとちらほら訳の分かんないこが聞こえてくるのは気のせい? というか、ラピスが完全に泣きだして抱きついてきたんだけど。
「ゆ、百合だ」
「なんて庇護欲をそそる場面なの…ッ」
「紙は、紙はどこ! あとペンッ」
「おき北村一眼貸せ」
「ふざけんなよお前の腕前で納められるとおもうな」
しかも変な方向にヒートアップしてるし。
「……朋弥、見てないで収集つけるなりしなさいよ」
「他人のフリしてんだろ、気づけよ」
まあ、朋弥に話しかけたのは失策だったみたいで。
「た、高峰と話してる…」
「もしかして知り合い?」
「え? 高峰ってシークだろ?」
「ということはあの子らも?」
「あんたどんだけ倦厭されてんのよ」
「いったろ、シークはこんなもんだって」
「はぁ」
ぱっと視点を朋弥からクラスに変えてみると、さっきとは打って変わって距離をおいた感じになった。
「一応、そこにいる朋弥と同じシークなのは私だけ。こっちのラピスはそんな野蛮なことやってないわよ」
そういうだけでも若干、距離感はかわった。まあラピスに向けられる視線の具合はどうにかね。
「そ、それじゃマリアさんもシークなの?」
「そもそもここの人間じゃないわよ、私。移民だし」
もうこの際だ。面倒なことは最初からぶっちゃけてしまえ。
「で、もう質問はないわけ?」
まあ黙りこくってるみたいだしないか。さてと、席は……。
「あんたってとことん嫌われてんのね」
「しるか」
朋弥の前と後ろ、それと左側が空席だったから私が後ろにいってラピスが前に座った。
*** *** ***
「朝のあれはないだろ」
「いいでしょ別に。どうせすぐティアに帰るんだし」
あのあと授業合間の休憩時間も私らのまわりは静かなもので、こうして昼休みになってもまあ見事に静か。
「ティアってどんなところなんですか?」
「科学と魔法が共存してる世界。人種もそれぞれいるわね、獣人とかの混種に幻想種。他にもいろいろ」
「幻想種?」
「龍とか語り継いでるような存在の事よ。麒麟とかね」
「ほへー」
「なあこれってあれだよな」
「あれってなによ」
朋弥がよこしてきた携帯には、かなりの高値をつけられたアミールが檻にいれたれてる映像が映ってた。
「……なにこれ」
「異界専門の闇市。掘り出しもん探してたら目玉商品であがってた」
「……アミール???」
「この子がアミール。別名生きた宝石。体を構成するものすべてが高値で売れる」
「そんなのがいるんですね」
「ティアにいたらこんな奴ら皆殺しにしてやるのに」
「おい、携帯壊すな……遅かったか」
メキメキと音を立て続けた携帯は破砕音を立てて私の手の中で砕けた。パラパラと破片が手からこぼれて床に落ちていく。
「あー、胸糞悪いものみた」
「それより俺の携帯どうすんだよ」
「シークで稼いでんでしょ。そんくらいどうにかしなさいよ」
「あ、あのマリアさん? その、視線が」
「は? 視線?」
ラピスの若干おどおどした声の元に目を向けてみると、その視線は私が今しがた握り壊した携帯にそそがれてる。ああ、普通なら携帯握り壊すなんてできないか。でも移民って言ってるし別に問題ないでしょ。
「んな時に誰だよ」
「あんたいくつ持ってんのよ携帯」
壊れた携帯を机に起きて、朋弥が新たに取り出した携帯を見る。こっちのは開くタイプじゃなくてラブレット型。
「まじかよ」
「なによ」
「協会が全面的に改装するから今日いっぱいは使用不可だと」
「改装?」
「内容としては施設丸ごととゲートシステムの改変だとさ」
「それ一日でやろうっての?」
「まあ、異世界の技術使いまくればそんくらい簡単だろ。とはいえ改装か……どんな具合になるか見ものだな」
「それはそうとさ、私いい加減Cランク昇格受けてもいいんじゃないの?」
「まあ、依頼消化率もそこそもだしいいんじゃねぇの?」
となれば、改装が終わり次第うけに行きますか。さくさく昇格してさっさとティアに帰ろう!
「おい、ここだよここ」
「お、まじでかわいいーじゃん」
「何、あれ」
「さあ」
「マリアさん、なんかこっちにきてますよ……?」
とりあえず情報収集という感じで耳を他に傾けてみると、
「澤田じゃん……目、つけられたのかな」
「しかも篠田までいるとか、まずくない?」
とりあえず評判はかなり悪い感じっぽい。しかもかなりメンドイ感じの。
「なあ――」
「気安く話しかけないでくれる?」
「マ、マリアさん?」
「お、威勢いいね。俺そういうの大好き」
「俺はどちらかって言うとこっちの――」
「話しかけるなって言ったの、聞こえなかった?」
「そんな怖い顔しなくてもいいじゃん」
こいつら、よっぽどな目に合わないとわかんないみたいね。
「まあとりあえ……ず?」
「話しかけるなっていってんでしょ、わかんないの。何、それとも酷い目みないと理解できないわけ?」
「おい、殺気丸出しになってるぞ」
「いいでしょ別に。逆上しようがザコなんだし」
逆上してなんかしてきてもマナなしでそうとでもできるし。うん、どうとでも。
「マ、マリアさ~ん!!」
「もう、そんな声ださないの」
泣きそうな声で呼んでくるラピスの頭をなでながらなだめる。ああ、癒される。こんな下劣なの相手にした後だと余計に癒されるわー。
「こんなの相手になんないから、ね? 朋弥との殺し合いの方が堪えるから」
ヴィマナ打っても死なないし。こいつどうなってんのよ、マジで人間?
それはそうと貶しあげたうえにガン無視を決め続けてるわけなんだけども、一向に立ち去る気配がないのよねーこいつら。ラピスが落ち着かないからいい加減消えてほしいんだけど。
「ねえやっぱ実力行使とかありじゃない、これ」
「お前が実力さらしたら誰が生き残るんだよ」
「ラピスは除外するとして、まあ朋弥じゃないの? 他のシーク知らないし」
「いることはいるけどさ、まあ逃げるから生き残るだろ。あいつは」
逃げるって……まあ、存命って考えでみれば賢い選択よね。自分で処理できるかできないかを判断できてるんだから。
「そもそもマナがないだろ、こっち」
「マナならあるわよ。ほら」
スカートのポケットから試験管チックのものを取り出す。中には濃縮させたマナが蒼色に光ってる。
「……は?」
「向こう行った時に詰めてきた。まだ何本かあるし、やろうと思えばヴィマナ撃てるわよ」
「撃つなよ。校舎吹っ飛ぶから撃つなよ」
「撃たないわよ。こっちの法律に触れるじゃない。そもそもマナ使わなくても素手で殺れるでしょこんくらい」
まあ、そんなバカやらかしてシーク剥奪なんていやよ。
「というわけだから、いつまでもそこに突っ立ってないで消えてくれない? やろうと思えば忘却かけられるから、どうとでも、できるんだけど」
最後の最後で虫けら扱いしたらそそくさと消えてくれた。まあ、今後とも近づいてくることはないでしょ。
「なあ、その瓶って持ち出し許可でたのか?」
「受付嬢があっさり許可してくれたけど?」
持っていっていい?
いいですよ。
こんな感じで。
「あの支部大丈夫かよ……」
「さあ?」
「うわ、なにこれ」
「改装ってレベルじゃないな」
あの一件以来、ますます人がよって来なくなったのはまあいいとして。ラピスに関してはたまに話しかけられたりとかしてるから、人間関係はまあまあって感じ。
そんな中で、私と朋弥は改装翌日早々に学校サボって支部にきてるわけなんだけど。
「この外観、なに?」
「ちょっとしたテーマパークっぽいな」
テーマパークっぽくなった支部の中に入ると、前の待ち合い場みたいな雰囲気はなくてホてルのラウンジみたいな内装になってる。案内板とかあるし。
「ここが1階で地下が3階、上5階まであるんだ」
「改装じゃなくて改築だったな」
「まあ前よりは見栄えとかもよくなってんだしいいんじゃないの? それより受付どこ」
見渡してみてもそれっぽいところはない。案内板を見てみると、1階にあったのが2階に移ってるみたい。
「2階か」
「そういえばさっき案内板に――」
エスカレーターに乗って2階に行くと、そこはシークでごった返していた。昨日の分のも来てる感じかな、これは。
「まあいいや。さっさと昇格試験登録やるぞ」
「あいあい」
人並みをさばきながら受付に行くと、あの受付嬢がいた。
「今日はどこの世界においでで?」
「Cランク昇格試験」
「かしこまりました。それではIDカードをお預かりしてもよろしいでしょうか」
受付嬢にカードを渡すと、機械に通して返ってきた。
「個人倉庫は突き当りに男女別でございますので、支度がすみましたら3階にある2番の部屋にお進みください」
個人倉庫っていうのは向こうに行くに当たっての装備を補完できる個人のもの。異界技術満載でなんでもはいるらしい。装備なんてしない私には特に無縁だけど、今回はカードをいれるだけに使う。
3階に上がって朋弥が支度している間に私はカードを倉庫にいれて、2番の部屋に入る。
「……こんなんだっけ」
目の前には魔法陣の中で浮いている球場の力場がある。改装ってゲートの改装もこみなの?
「で、きたのはいいがこっからどうするんだ?」
「さあ?」
「いらしゃ~いお二人さん。行き先はオーヴァンでいいかにゃ~?」
「解雇されてなかったのね、理央」
「改装っていっても人員削減じゃないからねぇ。それはいいとして~ちゃちゃっと転送いくよ~」
「で、帰るときはどうなってんの」
「向こうもこれと同じのがあるから~これに触って行き先を決めるの」
理央が力場に触ると、4桁の入力スペースが出てきた。そこをいじって支部番号をいれるっぽい。
「まあまあさくっといっちゃいましょ~」
「その能天気さはどうにかなんないの?」
「ないんないよ~」
「……なんか面倒だな」
「あはーオーヴァンの異次元数値っていくつかなー」
「いらんこというからよ」
朋弥をダマラセテ私たちは異世界、オーヴァンへと渡たった。
「とーちゃくっと」
「転移先も改装してんな、これ。聖堂の中とかいじりすぎだろ」
「まあ、そんなことはどうでもいいでしょ。ちゃっちゃと行くわよ」
転移先、オーヴァンのどこかの聖堂から一歩出るとそこは街だった。レンガ敷きの街道に軒並みたった家や店。
移動手段には馬車と魔道駆輪を搭載した自動車みたいなもの。ちょうど今、目の前を走っていった。
「で、この平凡な街中にでてきたけど」
「リグリットって言ったら怪鳥の一種だからな。あの山の上にいる」
「うわー、メンドイわ。あの山ごと消し飛ばせばいいんじゃない?」
「討伐じゃなくて皇玉の回収が目的だからな。それと山消し飛ばしたら警邏が来て捕まるぞ」
「はいはい……はあ、何。あの上にいけばいいわけ?」
「ああ」
じゃあとりあえず、飛びますか。
魔陣展開、目標地点指定……完了っと。
「じゃ、お先~」
陣を起動させて一気に山に飛んだ。ちんたら歩いて行けるかっての。
予約投稿二回目です。
入学編です。ラピスの人見知り発動ですね、はい。
そして新しい世界に飛んだわけですね。はい。