第2章 ヘルシー思考でいってみよう
「ほい、獲った」
指先から撃ったレーザーは見事飛んでいた怪鳥の心臓を貫いて地面に落とした。というのも、通行費だかなんだかで金がかかるから、その資金稼ぎ。今仕留めた怪鳥、たしかドッドとかいう全長3メートルくらいある藍色の鳥。この鳥の羽根と声帯にある共鳴骨っていうのがそこそこの値段になる。
「さてさてと、バラしますかね~」
撃ちおとした鳥に歩み寄り、手始めに尾羽を全部取って亜空間に仕舞う。次にチドリを短刀サイズで出して肉を切り取っていく。取った肉はから揚げとかにして食べる。うん、結構いけるのよ、これ。
さくさくと解体していって、食べるぶんの肉と換金する分の共鳴骨とさっきとった尾羽を持って帰る。
「さてと、帰りますか」
ラグジュアブールと違って、ここには自由に行き来できるゲートがある。あるといっても生き物に壊されないようにカモフラージュされて設置してある。
……そーいえば、今日朋弥がなんか言うことあるとかいってたような……うーん。
なんか引っかかりを憶えながら家に帰ると、なにやらラピスにそんなことをいわれた。
「……マリアさん、大変なことになりました」
「何、肉痛んでた?」
換金できる部位はすべて換金して、ドットの肉は手づ付きを踏んで今こうして朋弥の家にある。そして、その肉を前にしてラピスが神妙な顔つきで切り出した。
亜空間に入れといたから痛んでるってことはないんだけどなぁ。
「朋弥さんが黒づくめの格好をして今朝がた出て行きました」
「黒づくめ?」
あー、朋弥ってそういえば学生だっけ。ということは、その格好って言うのは制服で今頃授業中ってわけか。というか私暇つぶしがてらに狩りに行ったの何時だっけ。朋弥もラピスもまだ寝てたし外も若干暗かった気もする。
まあ、家出るときになんか言うことあるから的な感じで一回起きてきた朋弥にあったのは思い出した。うん、今思い出した。
「あー、それ学校」
「学校?」
「まー、同年代の男女が勉強するとこ」
ティアにも学校はあったけど聞くだけだったしそんな感じにしか知らない。まあ、でもこんな感じだって聞いたし。
「で、朋弥なんか言ってた?」
「えーと、昼は適当にすませろだったかな」
「今何時?」
「今ですか? 11時すこし回ったくらいですけど」
ふむ。
「じゃ、なんか適当につくって」
「……ねえマリアさん」
「んー?」
「ここ最近、肉料理しか作ってないきがするんですけど」
「まあ、魚類とか狩ってないしね」
それに魚類はたいてい眼球内にある紅玉くらいしか換金できる部位がない。たまに鱗とか紅玉以外で高額換金できるのもいるけど、そう簡単にはいない。
まあ、単純に魚肉よりおいしいってのがおもな理由だけど。
「…あ、いたわ」
「何がですか?」
ラピスが反応したけど、まあいい。
どこだっけ……確か、アルキアだっけ? 陸2水8の水の世界。確かそこに換金よし味よしってやついたわ。
「ねえ、ラピス」
「……はい」
「魚、食べる?」
「ヘルシーですよね、魚」
「捕ってくるか、魚」
決まれば即行動。
毛玉……名前まだ決まってないから毛玉って呼んでるけど、足元にじゃれついてきたのを引き離して家を出る。
総合異界協会第1993支所。これがあのコンクリの建物の名前で、今そこにむかってる。向かってると言っても10分くらいでつく距離だけど。
「こんにちは。どちらに行かれますか?」
受付に行くとあの女の人がいた。なんか来るたびにいるんだけどこの人休みとかあるの?
「アルキア」
「アルキアですね……協会依頼でシーマの実の採取依頼が通達されていますが、いかがいたしましょう?」
「それってなんなの?」
「塗り薬の原料です。切り傷程度なら塗った直後、数針縫う程度なら数時間で完治させることができるものです」
「……普通に病院行けばいいんじゃないの、それ」
「シーマの実を使った塗り薬は難民、貧困などの切り傷のような軽度の怪我がもとで死んでしまう地域に輸送していますので」
「ふーん……で、個数は?」
「お持ちしていただける範囲でしたらいくらでも。ですが、最低でも3つ以上はお持ちしてください」
「いくらでも、ね。じゃそれ受けるわ」
「ありがとうございます。奥の部屋にてゲートが開きますのでお進みくださいませ」
あの受付の人。私がこうして来るたびに協会依頼通達を提示してくる。というか見てるかぎりじゃ今のとこ、私は100%提示されてる。ほかの連中はそのまま進めてるし。
この前も訳を聞いたら、
『依頼達成度が常に100%ですので、提示させていただいております』
とかいわれた。
まあ、収入が増えるにこしたことはないのでこうして受けてる。
「にしても、これは」
進んだ先にはわけのわからない色合いをしたゲートがある。その手前には係員の人。
「はいは~い、アルキア行きのゲートですよ~」
間延びした声でしゃべる偉く気の抜けた女、笹本理央。
「ところでマリアちゃん、アルキアと言えば」
「魚」
「……魚? まあ魚はいいとして~、ラリーズの真珠採ってきてもらってもいい~?」
「ラリーズ?」
「そそ、ラリーズ。手のひら大の~二枚貝の真珠。砂浜をちょいちょい~ってあさったら出てくるから~」
「知ってるなら取りに行けばいいじゃない」
「でも~アルキアってアレがいるでしょ~?」
「ああ、アレね」
アレはなんというか……うん、ねえ?。
「で、ラリーズってのは1個でいいわけ?」
「うん」
「あー、それとシーマの実ってどこにあんの?」
「……シーマの実、ですか?」
「なんで口調が真地面になんのよ」
「だってシーマの実って水中に生えてるもん」
「……水中? それマジ?」
「マジ」
水中っていったらアレがいるじゃない………断ろうか。
「うーん、断るのは無理かもね~。協会依頼でしょ~? 断ったら信頼なくなるよ~?」
「……」
しかたない……腹をくくるか。
果てしなく後悔をしながら私はゲートをくぐった。
「あいかわらず、なんもないわね」
ゲートをくぐってたどり着いたアルキア。四方八方を見ても水ばっか。ぽつぽつと島があるくらいでほんと、水しかない。
「さてさて、魚捕るか」
とりあえず足首につかる程度の深さまで水に入る。そして等間隔で水面をける。目的はひとつ、ここにエサがあると思い込ませること。
しばらく水面をけっていると、水深がそこそこある方から影がひとつ近づいてきた。かかったかな。
「でも振動で寄ってくるこいつらいるのに水の中にあるシーラの実ってなんなのよ一体」
ぶつぶつ言ってる間に魚は急激に速度を上げて水面に上がってきて、その姿をはっきりと見せた。
クリノア。体長1~3メートルほどの魚。眼球から捕れる紅玉以外にも、ほとんどのクリノアが持っている卵が高額課金される。しかもクリノア自身、おいしい。なんというか、一石二鳥な魚なわけで。
「ほい捕った」
水面から勢いよく飛びあがったクリノアのエラ付近をレーザー状にした雷撃で撃ち抜いて、手早くさばく。
腹を裂いて卵を取り出して亜空間に放り込み、そのほかにも紅玉魚肉をも放り込む。
「ま、こんなもんかな」
綺麗に解体を終えたクリノアを適当に放置して、シーマの実の確保に向かう。まあ、向うっていってもあてはないけど。
「とりあえず、潜る?」
マナと風を練り合わせながらそんなことを考える。うん、できる限り潜りたくない。でもシーマの実はこの水の中……。
練り上げた風のマナを体にまとって水中でも酸欠にならないようにコーティングした後、水中に潜っていった。
「実っぽいのみあたらないんだけど」
水中にあるのは石とか魚とかそんなもんばっか。実がなりそうなものなんてありゃしない。
「本当にあるんでしょうね……」
さらに水深深く潜っていくと、普通なら視界が暗くなるはずなのにいつまでたっても一定の明るさを保ってる。アルキアの水がとてつもなく異常に澄んでいる証拠。
一定の明るさを保つ状態で深く潜っていくと、底らしきところについた。この時点で上をみるとかなり降りてきたらしく、水面が遠い。
「ここまで来たんだからそれっぽいのがー……」
適当にあたりを見回したらそれっぽいのがあった。みな底から生えたツタの先に握りこぶし大の黄色い実が。
「よくみたら結構生えてんじゃない」
ひょいひょいと黄色い実を収穫して亜空間に放り込んでいく。
そして収穫作業をし始めて数分後、付近の実を全部取り終えたころにソレは着た。
「さて、帰りますかー……あ?」
ふと、帰るために水面を眼をやると水面が見えなかった。というか、なんかいる。
「なにあれ。魚?」
魚だとしても軽く10メートルはあるんじゃないの、あれ。しかもそこに停滞して動く気配なし。
「迂回しようかねー」
水底を歩いて迂回しようとしたら、それが原因なのかはともかく上にいた魚がこっちに向かって潜水してきた。うわー、口だけで体の半分あんじゃないの? というかどこまで開くのよその口。
あんぐりと大口を開けて突っ込んできた魚をよけて、逃げに入る。この騒ぎにクリノアが群れで寄ってこようものなら面倒だ。
水面に向けて急上昇をする中でも、魚は大口を開けて私を追ってくる。
「あーもう、うざい」
水ならいくらでもある。このいくらでもある水をマナを練り込みながら圧縮していく。潰して潰して手のひら大までに圧縮した水球を魚に投げる。狙う先は口の中。
圧縮しまくった水球は魚の口の中でもとの体積に戻って、魚の体を膨張させて中から破裂させた。
「魚は始末できたとして、クリノアがねぇ」
逃げ切れはするけど、今のでバカみたいな数のクリノアが群がってきた。ラグジュアブールのワーム並みに相手にするのはメンドイ。
目的のものもシーラの実も捕ったことだし、クリノアはほっておいてさっさと地球に戻るに限る。
「あ、忘れてた」
そういえばラリーズの真珠捕ってない……まあ、砂浜にいるって言ってたし帰る前にあさってみるか。
水面に上がってまとっていた風を払う。
「さて、適当にあさる………」
あさる場所を探していたら、砂浜の一部から何かが、何かが出てる。
「……」
とりあえず、風を起こしてその場所の砂を吹き飛ばすと30センチくらいの2枚がいが出てきた。ということは今さっき出ていたのは水管か。どこが手のひら大よ。
「とりあえず、せいっ」
砂を吹き飛ばした時に水管をひっこめる以外何もしないラリーズを、ぶん殴って割る。もちろんマナをまとわせてるからいともたやすく割れる。
「ふーん、これね」
割れたラリーズから出てきたのはこぶし大の真珠。まあ、サイズ以外にもいろいろ普通じゃないところはあった。
「虹色に光るとかどうよ」
なんか虹色に光るのよ、これ。
「……」
ラリーズの真珠を亜空間に放り込んで帰ろうとしたら、泉の方から視線を感じて振り返ったらアレがいた。
アルキアの星の核、マルズが。
理央が言っていたアレとはマルズのこと。マルズは星の核にも関わらず頻繁に目撃されてる。私がアルキアに初めて行く時も受付嬢に注意された。
『このマルズを見かけても決して殺さないでください。星の核と呼ばれる不殺指定生物ですので』
このマルズがこうして頻繁に人前に出てくるわけは不明。他のシークの会話を盗み聞きした感じでは、アルキアに来るシークを監視しているのではというのが一番多かった。さっき感じた視線もそれを聞いてたらなんか納得できる。
さて、マルズの説明はこのへんにしといて。
「さて、どうしましょうかね」
理央がマルズがいるからと言って嫌がった理由がある。
マルズは時折、シークを襲う。そして襲う理由もわかってる。アルキアにおいて破壊行動とみなされたら襲われる。その判断基準がマルズ次第というのもあってマルズには極力会いたくないってわけ。星の核だし襲われたからって殺すわけにもいかない。
「………」
「……帰った、か」
ちゃぷんとマズルは水中に姿を消した。かという私もこれ以上アルキアに用はないからさっさと帰ることにした。
「ただいまっと」
「おかえり~、どうだった~?」
「ラリーズだっけ? どこが手のひら大よ、30センチくらいあったんだけど」
「へ? 30センチ? いやいや~そんなわけないでしょ。30センチなんてワールドリストでも見たことないよ」
「じゃあこれなに?」
亜空間からラリーズの真珠を取り出して理央に見せる。
「……おおぉう」
「なに」
「マリアちゃん、まさかの亜種見つけちゃったパターン?」
「……えー、亜種?」
「やっちゃったね~。ワールドリスト載っちゃうよ~」
ああ、なんてめんどくさいことに。
その言葉通り、受付に行くとまた奥の部屋に通されてワールドリスト更新シートにあれこれ記入させられて、換金やらクリノアの肉の持ち出し申請とかで帰るのはそれから2時間後になった。
ラリーズの真珠は理央に手に渡ることなく、ワールドリスト更新シートともども協会預かりになった。まあ、そんあことはさておき。
「ただいま~」
「おかえりなさい。どうでした?」
「ほい、クリノア」
テーブルに置いたのはクリノアの肉。
「じゃあちゃちゃっと作っちゃいますね~」
ラピスはそう言ってキッチンに消えていった。さて、寝るか。なんかもう寝よう。
*** *** ***
「……おい」
「んぁ?」
なんかゆすり起こされたと思ったら、目の前には制服姿の智哉がいた。というかなんでいるの。
「ラピスから聞いた限りじゃ6時間寝てたらしいな」
「は? 6時間?」
掛け時計を見ると時刻は6時過ぎ。帰ってきてとりあえず寝たのが12時くらいだったからまあ、6時間寝てたらしい。
「ラピスも起こしてくれればいいのに」
「起こしたのに起きなかったじゃないですか」
「いつ起こしたのよ」
「昼ごはんできたから起こそうとしたのに全然起きなかったじゃないですか」
エプロンをつけたままのラピスが目の前にいた。そこそこに怒ってるらしく、猫耳がピーンってなってる。私からしたらそれはそれでかわいいんだけど、それを言えば後後メンドウな感じになりそうなので言わない。
「それで、今度は夕飯?」
「クリノアづくしです」
「クリノア? あの魚か」
「はい、魚食べたいねーってなってマリアさんが取りにいったんですよ」
「あのさ、別にクリノア捕りに行かなくてもスーパー行けば魚あんだろ。そもそも食材くらい買いに行けよ」
「資金は」
「協会でもらったカードあるだろ」
「……」
「……クレジット機能忘れてただろ。というか買いに行くって発想自体なかっただろ」
そういえばそんな機能あったっけ。
第二章です。ストックも十分たまってきたので投稿です。
みりん焼きおいしいですよね~。