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     6 帰還

突っ込んできた大小様々なワームに対して、私はとりあえずあたり一帯のマナを掌握して属性付加、圧縮して形状付加も加えて、蒼白い放電を放つ直刀が私の手に握られる。

 蒼白い刀剣とはいえ、莫大なマナを圧縮したうえに(いかづち)の属性を付加したもの。振るえばどうなるか?

 まあ、こうなる。


「電メスかよ」

「医療器具と一緒にしないでくれる?」


 蒼白い刀剣―チドリ―に触れたワームは、触れた所から蒸発(じょうはつ)していき刃が通り過ぎた後には切断され分離したワームの亡骸。

 切断面から体液が流れ出る事はなく、その断面は焼いたかのようにただれて煙を立ててる。この利点でこの戦闘スタイルを取ってたりするけど……まあ、他にも理由はあったりするけど。


「あーもう、キリがないわね」

「さっきみたいにぶっ飛ばせばいいだろ」

「簡単に言わないでくれる? ヴィマナ撃つにしてもマナ不足だってのッ」


 突っ込んでくるワームの群れを互いに切り飛ばしながらの会話。

 さっき撃ったヴィマナは思いのほかここらのマナを消費したようで、を作ったらスカスカ状態。この世界マナ薄すぎない? 

 目の前から突っ込んできたワームを袈裟切りで切り飛ばして、バックステップで後ろに飛ぶと案の定というかその後ろからワームが口全開で突っ込んできたのを真っ二つに切り裂く。なんかさっきから突っ込んできてばっかなんだけど、こいつら。所詮ワームって事?


「で、まだ5分経ってないわけ?」

「あと2分47秒ッ」

 

 振り返りざまに背後のワームを切り飛ばした朋弥。朋弥の剣は魔導鋼……つまり、私のチドリみたく高圧電流の凝縮体じゃないから、体液飛び散るわ肉片も飛び散るわでそれはそれは、


「返り血……汚い」

「おい、俺だって好き好んでこんなんなってんじゃねぇっての」


 なんかの特殊加工してるっぽいコートなんてワームの体液――紫色――に染まってる。正直言って近づきたくない。というか来るな。


「お前、今すんげぇ失礼な事考えただろ」

「まさかっと」


 真横に飛んで脇をすり抜けていったワームを切り飛ばして、後ろから向かってきたワームを振り向きざまに切りあげる。


「ねえ、あれってさ」

「ああ。なんか大本っぽいな」


 ワームを切り飛ばし続けていたらその中に一匹だけ桁違いにデカイワームがいた。しかも節足みたく今切り飛ばしてるワームを生やしてる。うん、気持ち悪い。

 しかもその生えてるワームが本体? から切りはなされて有象無象に集結してる。ってことはさ、本体叩かないと無限ループじゃない? これ。


「とーもやー、あとよろしくッ」

「は? ちょ、おいっ!!」


 有象無象どもは朋弥に全部任せて、大本を叩く事にする。

 さて、マナはチドリを作ったから希薄しててヴィマナは撃てない。かといってチドリで切り裂いたところでワームみたく死んでくれないだろうし……んー。

 後ろで朋弥がワームを切り刻んでいってるのを確認したのち、私に突っ込んでくるワームを切り飛ばす。ふむ、チドリにはヴィマナ2発分くらいのマナが凝縮してある。そこに雷属性を付加して触れた物を蒸発させながら斬るようになってる。


「これしかないかなぁ」


 一度属性を付加したマナは書き変えない限り付加した属性のまま。まあ、言ってしまえばチドリを大本に刺したのち解放してしまえば雷属性をもったヴィマナ2発分のマナが体内で爆散することになる。たぶん細かい肉片になって飛び散ると思う。うわぁ、汚いからやだなあ。

そんな事を考えながら本体からうじゃうじゃと生産? されてくるワームを斬り飛ばしながら大本に接近していく。


「手間かけさせんじゃないわよ」


 ワームを生産する事のみに特化したらしい大本は、ワームを一点集中で生産して壁のようにしてくるもそんなもん関係なし。チドリを深々と刺し込み、チドリを解放する。

 解放されたチドリは電気音を立てながら膨らんでいき、膨らんでいく過程でワームの肉を蒸発させていってる。

 次第にその膨らむ速度が上がっていく。ワームもただ蒸発させられるだけじゃないらしく、蒸発して消滅していってる間にもワームを生産していって、そのうちの何体かが大口を開けて突っ込んできた。


「ワームホールが開いた。ラピスももうワームホールに入ってる――ここから出るぞ」

「やっと開いたの?」


 魔導鋼の剣に斬り飛ばされたワームを尻目に、その剣を振るった朋弥を見る。

 この大本は、まあ放っておいても解放したチドリのマナ暴走で死ぬだろうし。


「じゃ、帰りますか」


 大多数が減ったワームが密集してくる前にワームホールに飛び込んだ。


*** *** ***


「着いたついたっと」


 出口の先には、毛玉を抱きかかえたラピスがいた。と、その隣には受付にいた女の人。


「お疲れ様です。緊急依頼にも関わらずこの子を助けてくれてありがとうございます」


 そしてなぜかその受付の人が頭を下げた。なんで?


「なにこれ、どうなってんの?」

「さあ?」

「そこで、シーク承認試験内容【ククールの紅玉】をこの子の救出ということにし、イグリーフ・マリアをシークとして承認します」

「はあ」


 なんかよくわかんないけど、シーク承認されたっぽい。


「ねえラピス、何がどうなってんの?」

「えと、私にも何が何だかさっぱりで」

「シークに関しての書類手続きがありますのでこちらに」


 受付嬢はそういうとカウンターまで歩いて行った。あの受付嬢ってなんなの? 朋弥も受付嬢に何らかの疑念を抱いてるのか、眉間にしわが寄ってる。うわー、凶悪面。


「てかさ、なんか人多くない?」

「ああ、朝方狩りに行った奴らが帰ってきだした頃だしな。この後も結構帰ってくるだろうしまだ増えるぞ」

「うわ、むさくるしい……? ラピス?」

「……ッ」


 何故かラピスが腕にしがみついてきた。歩きにくいことこの上ないんだけど、抱いてた毛玉はどうしたの? って思ったりたけど、よく見たら受付嬢が抱いてる。しかもなでてる。


「ラピス?」

「怖い…」


 あー、なるほど。よく見ればさっきから私らのこと見てる連中がそこそこいるわ。


「朋弥、ここってマナある?」

「あることはあるな。でもないと言えばないな」

「どっちよ」

「魔鉱石で作ったガラス容器に封入した奴だな。基本、アースじゃそれを使う」

「ってことは、アースにはマナがないって事?」

「ないな」


 封入したマナしかない、ねぇ……じゃあ、使っても別にいいてわけか(・・・・・・・・・・・・)。


「ヴォール」


 その言葉を紡いだ瞬間、私とラピスを見るものがいなくなった。


「なにしたの?」

「んー、ちょっとね」


 まあ、なにはともあれこれで効果を切れさせるまでは連中が私とラピスを見る事はない。うん、それなのにラピスはまだしがみついてる。というか、しがみついてる事自体が楽しそうに見えるのはきのせい? まあ、ここまでべったりくっついてて見向きもされないのは認識阻害をかけたからだけど。

 そんなラピスがべったりとくっついてる状態でたどりついた先は、受付カウンターの奥。


「それではこちらの書類に記名を」


 そして通されたカウンター奥の部屋で、席についた私に渡されたのは契約書類。


「記名しながらでいいので聞いておいてください。そこにかかれてる禁止項目ですが、反した場合は最悪シークとしての資格を剥奪されるので気をつけておいてください」


 記名欄に名前をかきながら、禁止項目に目をやると、


・転移先での犯罪行為、およびそれの準ずる行為の禁止

・特定指定生物の狩りの禁止

・転移先での≪法≫を犯さない


 の3項目が書いてあった。特定指定生物ねぇ、ティアだったら手を出そうものなら死刑だけど。


「はい、それでは登録書を発行しますので少々お待ちください」


 受付嬢はそういうと部屋からでていった。


「あー、疲れた」

「大丈夫?」

「まあね」

「みー」


 テーブルにつっぷしてたら毛玉がよじよじと脚をよじ登ってきた。すごいこしょばいんだけど。


「結局あんたはなんなのかしら」


 よじ登ってきた所を抱きあげて問うてみても何を言うわけでもなく、短い手足をひょこひょこと動かすだけ。


「ひょっとしたら星の核かも」

「は? これが? というかもしそうなら連れてきたらまずいじゃないの」

「星の核?」

「惑星生命体論。元はこれに派生してるけど、その惑星に一匹だけいる惑星が産んだ分身。分身といっても惑星そのものと大してかわりがないから知らずに殺したりして惑星が滅んだ、何てことはそこそこあることよ」


 惑星が産んだ分身なだけあって、狩って売ればそれなりの価値がある。だから星の核ともしらずに狩って惑星を『殺して』しまうケースがある。もちろん、星の核を殺したからすぐに惑星が死ぬわけじゃない。天変地異が起きて徐々に惑星は死んでいく。

 でも例外はある。惑星が星の核を産むさいに配分を間違えた時。大方、分身にはその惑星の7割ほどの命をわける。でもたまに惑星がその配分を間違えて(・・・・)、星の核に9割もの命をわける事がある。もし、その惑星で星の核が殺されるような事があれば、通常数日で死ぬ所をわずか数時間で死んでしまう。

 だから、星の核というのはある意味では恐ろしいものでもある。この毛玉がどんなに愛らしい姿でも。


「だとしたらラグジュアブールどうなるんだよ」

「さあ? 星の核が他の惑星に移動するなんて聞いたことないから知らない」


 仮に、この毛玉がラグジュアブールの星の核だとしたら、なんであんな無防備な登場をしたのか理解に苦しむ。


「でもラピスはなんでこの毛玉が星の核なんて思うわけ?」

「ラグジュアブールにずっと住んでたけど、そんなころころした生き物見たことがないですし」


 ふわふわとした胴体をなでると気持ちよさそうに目を細めた。


「じゃあそいつ殺したらラグジュアブール滅ぶってことか」

「まあ、そんなとこね」

「お待たせいたしました。こちらがライセンスになります」


 受付嬢が持ってきたのは、掌大のカード。そこにはさっき書いた名前のみが書かれていた。


「次回からはこちらを受付までお持ちください。それと今回の、ラピス・グレコール救出の報酬はこちらの通帳に振り込み済みですので後ほどパスワードの変更をお願いいたします」


 そう言って差し出されたのは通帳。報酬とか言ってたからどのくらい入ってるのか見てみると、えーと……ふむ。


「ピン斬りで300万ってこれ通常価格?」

「通常は異世界から持ち帰ったものを換金した金銭をお渡ししていますが、まれに今回のような協会からの依頼に関しては協会からの報酬が出ます。報酬の最低価格が50万からですので、今回は割高な報酬と」

「ふーん」

「ライセンスは通帳の口座カードも兼用しておりますので無くさないようにお願いいたします」


 その後もあれこれ説明を受けて話が終わった頃。


「以上で説明は終わりますが、何か質問はありますでしょうか」

「ないけど。とりあえずティア行きたいんだけど」

「ティアですか? ティアはランク制限エリアになっておりますので今の段階では通行できません」

「……へ?」

「ティアは『ギンロウの魔女』によるランクB制限が敷かれていますのでDランクのマリア様は通行ができません。契約書の中にも死んでも責任をとれないとの記載はありますが、協会も殺したいわけではないので規制を敷かせていただいております」


 ここで私がその『ギンロウの魔女』だって名乗ったらどうなるんだろうか。


「……ランクってどうすりゃあがるの」

「昇格試験をパスすればいかようにも」

「じゃあ今か――」

「Cランクへの昇格にはオーヴァンに生息するリグリットの皇玉の回収が試験受講条件です」

「っ~~」



 その後、暴れてやろうかと思ったけどラピスに止められてやめた。

 いいじゃない、試験だかなんだか知らないけどさっさとクリアしてティアに帰ろうじゃないの。


はい、ラグジュアブール編終了です。


無事、ラピスを連れ帰ることができました~。

2章からは地球サイドをちまちまと予定してます。

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