ふしぎな森の、たくさんのおにいさんとおねえさん〜Many Hansel and Gretel〜
むかしむかし、あるところに、とってもとっても大きなお屋敷がありました。
そこには一組の木こりの夫婦と、その子供たちが住んでいました。
子供たちの名前は、男の子はみんなヘンゼル、女の子はみんなグレーテルといいます。
お父さんは、子供たちをとても愛していました。その愛は、数にすればそれぞれ百万ずつという、空に輝く星々にも負けないほどのものでした。
お父さんは毎日、数えきれないほどの金貨をパンに変えては、子供たちの口に放り込みました。けれど、どれほどパンがあっても足りません。
ついに貯金箱は空っぽになり、家の重みで地盤沈下が始まりました。お父さんは痩せ細って、泣きながらお母さんに言いました。
「このままでは、世界の小麦が尽きてしまう。明日、みんなで森へ行こう」
翌朝、二百万人の子供たちは「はーい!」と返事をしました。
その声があまりに大きかったので、近隣諸国の窓ガラスはすべて粉々に砕け散りました。
お父さんは、二百万人の子供たちを連れて森へ入りました。
ヘンゼルたちは、帰り道の目印にパン屑を撒こうとしました。けれど、一人が撒いたパン屑は、後ろに続く九十九万九千九百九十九人の兄弟たちの足によって、瞬く間に踏み固められてしまいました。
森の奥まで続くその道は、目印どころか、白く硬く練り固められた「パンのアスファルト道路」となり、森の草木を一本残らず押し潰してしまったのです。
やがて、お父さんは子供たちを置いて立ち去りました。
夜になり、お腹を空かせた二百万人の子供たちの前に、お菓子でできた小さな家が現れました。
中から腰の曲がったお婆さんが出てきて言いました。
「おやおや、可愛いお客さんだね。中に入ってお食べ」
けれど、お婆さんは気づいていませんでした。
その「お菓子の家」は、二百万人の一口にも満たないということを。
そして、空腹に耐えかねた子供たちの群れが、アリの群れが角砂糖を消し去るよりも速い速度で、家そのものを分子レベルまで解体し始めていることを――。
お婆さんが悲鳴を上げる間もなく、家は土台から舐めとられ、お婆さんの資産であった宝石の山も、二百万人の手によって一瞬で分配されました。
一人当たりの取り分はほんのわずかでしたが、二百万人が一斉に村へ帰ったとき、王国の経済は宝石の過剰供給によるハイパーインフレで、音を立てて崩壊しました。
お父さんは戻ってきた子供たちを抱きしめましたが、その目には「明日からの二百万食のパンをどうすればいいのか」という、深い、深い絶望の色が浮かんでいましたとさ。




