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5話:シスターの顔も三度まで

 こんにちは。

 漫画やアニメなど、同志(オタク)が書いた感想文を読めば肌が潤うオタク、シスターのエルです。

 好きなものは新規の感想。

 大嫌いなのは暴言を吐くアンチ。

 よろしく!



  *   *   *



 女神様曰く、私が推し活を止めると、冒険者に危機が迫るらしい。


「マジでどういうことだってばよ」


 新しく習得した浄化の魔法によって、今まで以上に忙しい日々を送っていた私は、使命の存在をすっかり後回しにしていた。


 診療所での業務も終わった、金曜日の夜。

 女神様の神託とやらについて、ようやく考えることが出来る。


 推し活を続けて世界を救う。

 ……やっぱり意味不明過ぎるわ女神様。


 そもそも推し活を止めるという前提がおかしい。命令されなくても推し活は続けるよ。私の生き甲斐だもの。

 でも女神様が重要だと言っていたので、一応現状の推し活内容を振り返ってみた。


 まず推しの人数を数えると20を越えた。

 そのうち5人が、比較的新聞に活躍が報じられる、中級クラスの冒険者。

 あとはレベル自体が低く、高い難易度の依頼を受けたことのないルーキーだ。

 冒険者の知名度や実力の有無は、依頼内容に左右される。現実は厳しい。


 いま一番熱い冒険者は、最速で中級クラスに上がったライアン。診療所へ頻繁に訪れるドジっ子冒険者のニック。最推しアルトのパーティーだ。


 教会にいる時間が長いため、推し全員の活動を調べることは出来ない。

 だから、推し活ブックの記録を更新する割合も異なる。

 前世の私もそうだが、趣味活動の範囲は『広く浅く、所々深く』である。推しは多いけど、全部同じ熱量を持って没頭する訳ではない。

 目と足と記憶力と時間が足りないから。


「……改めて見ると、前世に比べて結構推し活のやり方が変わったな」


 昔の私は二次元オタクで、特に漫画とアニメが好きだった。

 ドラマや舞台も見ていたが、俳優やアイドルを推すというより、彼らが演じるキャラを推していた。


 しかし、この異世界に上記のエンタメは無い。

 というか私から見れば冒険者そのものが二次元、フィクションみたいな存在だ。転生しなければ出会えなかった、文字通り別次元の人。

 ある意味2.5次元なので、たいへん尊い。


 それは良いのだが、やはりオタクとしてはアニメと漫画が恋しい。

 書庫を見ても、図鑑や歴史書などの専門的な本や童話ばかりで、小説すら無いのは寂しい。

 私に文才があれば、本をラノベ風に書き直せるのかもしれないが、二次創作はずっと読む側だ。同人誌のイベント参加経験もゼロ。

 創作の世界では太刀打ち出来ない。


 それでも学生時代は、同じ『好き』を語り合えるオタク友達がいたし、ネットに投稿される素晴らしい感想・考察を拝見しては合掌していた。

 缶バッジやフィギュア、アクスタも集めて、好きな漫画を全巻揃えた結果、本棚は常に満席、代わりに財布は空だった。


 そういう、推しの本やグッズを集めるオタクの醍醐味が、異世界には無い。公式からの供給も不足している。


 ならば、方針は決まった。


「要は、私がしたい推し活をすれば良いんだろ女神様」


 待ちに待った休日。

 私は明日、同志達の集まる地へ向かう。


 即ち、冒険者のファンクラブに入会する!



  *   *   *



 ファンクラブと例えたが、正式名称は『ギルド支援者集会』だ。

 ギルド運営と冒険者の活動に、資金を提供する会社と貴族達が作った団体で、集会を取り仕切るのは上流階級の奥様方である。


 貴婦人の社交場と聞くと、オタクの私は場違いな気がするが、集会から派生した交流会もあるという。それが、所謂ファンクラブだった。

 冒険者を応援する人達が情報交換を行う。

 つまり、己の推しを語り合う空間だ。

 参加して損はないだろう。

 入会するか否かは、見学してから決めることが出来る。会費を払わなくていいのも安心要素だった。


 交流会の参加者は、私のような一般の市民が多い。とはいえ、貴族の方々も何人かいるようなので、精一杯身なりを整えた。

 薄い水色のスカートと、白いシャツ。髪も白いリボンで緩く纏めて縛る。そばかすは、マリー先輩が化粧で隠してくれた。

 田舎娘のモブ顔が、都会のちょっと綺麗なモブに見える。私の顔って、ここまで変わるのか。

 先輩というか、世の女性達のメイク技術凄い。すっぴん大学生だった私では、到底敵わないスキルである。


 準備万端。意気揚々と寮を出た私は、教会の掲示板で得た情報を頼りに、会場を目指した。

 交流会は会長の別荘で行われるらしい。

 金持ちはスケールが違う。

 到着した途端、別荘と書いて屋敷と読む外観に気が遠くなりそうだ。何回か深呼吸して、扉をノックする。


「参加希望の方ですか?」


 ナイスミドルな執事が現れ、早くもオタク心が叫んだ。

 主に忠誠を誓う、義理人情に厚い執事キャラですか。実は元冒険者とかだったら最高です。


 ビジュの良い執事に案内され、大理石の床と大きな窓が眩しい大広間へと入る。

 複数のテーブルに、サンドイッチやカップケーキなど、片手で食べられる料理が並んでいる。どうやら立食形式のようで、参加者は各々のテーブルに集まり談笑していた。


 ……選択ミスったかも。


 既に教室ではグループが出来ていて、転校生の自分は近づけない空気感。あれに似ていて入りづらい。

 そもそも参加者みんな上品だし優雅。ファンクラブな雰囲気でもない。陰キャオタクにとっては、結構苦しい状況だ。


「あら、初めて参加される方? 良かったらこちらのテーブルにどうぞ」


 一言も喋れず入口付近で固まっていると、一人の女性が話しかけてきた。どの世界でも、孤独な生徒に声をかけてくれる優しい同級生っているんだな。


「あ、ありがとうございます。エルと言います」

「私はケイトよ。よろしくねエルさん」


 ステンドグラスのような明るい微笑み。胸元まで伸びた赤毛と茶色い目、シンプルな白のワンピースが、飾らない美しさを演出している。多分歳上だと思うけど、マリー先輩と同じく分からない。

 ケイトさんは貴族ではなく、一般階級の人だという。緊張する私に気づいて声をかけてくれたのだ。


「私も当時は同じように緊張していたから、他人事に思えなくて」


 危うく感動で泣きそうになった。

 なんて良い人なんだ。

 彼女に招かれ、入口に一番近いテーブルに向かう。私とケイトさんの他に、三人の貴婦人が談笑していた。


「さっそくだけど、貴方はどんな冒険者を応援しているの?」


 分かりますよケイトさん。オタクの自己紹介といえば、推しの発表からですよね。

 久しぶりの感覚にテンションが上がった。


「たくさんいますけど、私は冒険者アルトのパーティーを推し……応援しています」

「新人の冒険者かしら。ごめんなさい、お名前を聞いたことがなくて」

「今は無名ですが、彼らは絶対有名な冒険者になると思います!」

「フフッ、その方々を応援しているのが伝わってくるわ。どんなパーティーなの?」

「固い友情で結ばれた、新進気鋭の冒険者達です!」


 推しに興味を示してくれるのが嬉しくて、つい私ばかり喋りそうになる。一方的に語ったら引かれると、慌てて話題を変えた。


「ケイトさんは?」

「私は、冒険者ユージを応援しているわ。最近ギルドに登録したばかりだから、まだ知られていないけど。強い心と信念を持った子よ。少し臆病なのが玉に瑕だけど」

「きっと、それだけ慎重な性格ってことですよ!」


 寧ろギャップがあって良い。

 人から見れば欠点だとしても、いつか長所や個性に変わる時が来る。完璧な人なんていないし、完璧だったら推しにならない。

 応援したいと思える部分があるから、私はその人を推すんだ。


「彼らの活躍をもっと知りたいんです。でもルーキーの冒険者って、あまり新聞に載らないんですよね……」

「それなら、ギルドの掲示板を見るのがお勧めよ。誰が依頼を達成したか書かれているから」


 さすがはファンクラブ、有益な情報を持っていらっしゃる!

 まさか冒険者ギルドに、そんな掲示板があったとは。今後の楽しみが増えた。定期的に見に行こう。仕事を乗り越える活力になる。


「特に、護衛や魔物を討伐した冒険者の名前は書かれやすいわ」

「なるほど、知らなかったです」


 すると私達の会話を聞いてか、同じテーブルの貴婦人が話に加わった。


「あらケイトさん、よく気がついたわね。その通りよ。先週は、私を護衛をした冒険者の名前が載っていたわ」


 彼女の言葉に釣られて、隣の奥様も話し始める。


「私は魔物を退治してもらったわ。それから冒険者の活動を支援していて、月に50万ギルドに投資しているの」

「私も、ギルド設備の改装工事に出資したんですよ」

「へ、へぇ~……凄いですね」


 思わず顔が引きつった。

 ザ・お金持ちな会話に着いていけない。

 冒険者に魔物討伐や護衛を頼んだり、専属の騎士としてスカウトする貴族は多いらしい。

 支援するのは当たり前だと、三人の貴婦人は誇らしげに語る。


「私の旦那は鍛冶屋を経営していてね。冒険者の使う武器は、夫や部下の職人達が作っているの」

「私達が支援しているから、ギルドは経営出来ているんだから」

「感謝の気持ちとして、冒険者の方に魔物から採れる貴重な鉱石を貰ったわ」

「食事にも誘われましたよ。野蛮な戦士かと思っていたけれど、案外紳士的でしたね」


「…………」


「魔物より凶暴な冒険者もいるみたいだけど、お金を払えば大人しいものよ」

「やっぱり依頼や護衛をお願いするなら、上級クラスの冒険者よね」

「有能な戦士達を、これからも応援しましょう」


「………………」


 どんどんエスカレートしていく内容は、私が期待していたものではなかった。

 隠しきれない上から目線と、冒険者を能力と利益のみで判断する会話は、ハッキリ言って……。



 不快だ。



「ねえ、貴方もそう思うでしょう?」


 微笑む夫人達に対して、私もニッコリ笑った。

 気がついたら、声が勝手に出ていた。


「推しを自慢の道具にするんじゃねえですわ」

「……え?」



「冒険者を侮辱する連中が、応援なんて言葉を軽々しく使うなって言ってんだよ」



 冷たい沈黙が流れた。



「………………あ」


 絶句するケイトと三人の貴婦人を見て。

 頭から冷水を浴びたように、サッと体が冷えた。


 ヤバい、ヤバい、ヤバい…………失敗した!



「っ、スキル『意識反転』!!」



 タラララ~ン(軽快な効果音)


 ーー度胸の数値上昇、経験値獲得。

 ーーレベル7に上がりました。



「……へ?」


 聞き覚えのある音声が一瞬、理解出来なかった。

 恐る恐る貴婦人達の方を見て、唖然とした。


 驚愕と怒りで真っ赤だった貴婦人達が、何事も無かったかのように、また談笑を始めている。


 あり得ない光景に、私の方が絶句した。


 幸いなことに、他のテーブル席とは離れている。私の発言は聞こえなかったようだ。

 しかし、同じテーブルにいる三人の耳には、確実に届いただろう。


 貴族に対して、平民の私が無礼な発言をしたのだ。いや、推しに対して無礼だったのは、間違いなく貴婦人達の方だけど。

 しかし階級社会が残る異世界では、私の態度は処罰の対象になるはず……なのに、お咎め無し?


 まさかスキルのせい?

 確かに、あの時はパニックになって、咄嗟に『意識反転』を使ったけど。あれは特定の一人か魔物一体にしか効かないはず。

 何がどうなっているんだ。


 レベルが上がったから、効果範囲が変わったのか? その前に何でレベル上がったの?

 度胸の数値と経験値って何。まさか、格上の貴族に言い返した=バトルで強い魔物を倒したと解釈されたのか?

 判定おかしくないですか女神様。


「あら、もうお帰りになるの? 用事なら仕方ないわね。玄関まで送るわ」


 未だに混乱する私の腕を、ケイトさんが引っ張って、わざとらしく声を上げた。明らかに棒読みだったけど。

 奥様達に会釈したケイトさんは、大広間から玄関へ。そのまま私を連れて屋敷を出ると、噴水広場まで歩いていく。送るのは玄関までじゃなかったのか?

 ケイトさんの真意が読めず不安になった。


「あ、あの、えっと……」

「大丈夫。集会は出入り自由だから、先に帰っても怒られないわ。それと、貴方の発言は誰にも言わないから、安心して」


 ケイトさんの真意が読めず、不安だった私は、思いがけない言葉に驚いた。


「ど、どうして……?」

「あの人達の態度に不満があったのは、貴方だけじゃないのよ。でも私には言い返す勇気が無かった。だから、ありがとうエルさん」


「内緒よ」と言って、ケイトさんは悪戯っ子みたいに笑う。

 そうか。彼女も、あの貴婦人達に対して不満があったのか。よかった、私だけじゃなかった。


「あの三人はいつも自慢話ばかりでね。しかも目をつけられると厄介なのよ。そろそろ三人を出禁にしようって、会長が言っていたわ」


 英断です会長。貴族だろうと、マナーの無い人にはご退場してもらって結構。もしも私が冒険者だったら、あんな人達に応援されたくない。

 そういえばケイトさん、私の名前をテーブル席では一度も言わなかったな。あの三人に顔と名前を覚えられないよう、若輩者の私を守ってくれたのか。

 感謝してもしきれない。深々と頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます」

「いいのよ。冒険者を侮辱されて怒る気持ちは、私もよく分かるから。実は弟が冒険者なの」

「えっ、そうなんですか!?」

「冒険者ユージと教会で会ったら、その時はよろしくね」


 彼女の推しは、まさかの弟だった。

 推しというより、姉として家族を応援しているだけだったのか。


 あと、なんかフラグを立てた気がする。


「ところで、あの三人の態度が一転したのは、魔法の効果?」


 話は変わって、先程のスキルについて問われた。まあ、思い切り「意識反転」って叫んだし、そりゃあバレるよな。


 余談だが、レベルアップの時に流れる効果音とナレーションは、他人には聞こえない。


「他言無用でお願いします」

「もちろんよ。でも魔法って初めて見たから驚いたわ」

「そうなんですか?」

「私、職業は料理人だから。魔法系統のスキルはあまり覚えられないの」


 どうやら交流会で出された料理も、ケイトさんが作ったらしい。しまった、料理だけでも食べておけばよかった。



  *   *   *



 色々考えたが、ファンクラブは入会しないことにした。

 あの問題児三人を除けば、ケイトさんも会長も良い人だ。だけど、気軽に推しトークする雰囲気ではなかった。

 残念ながら、この世界では私の方がマイノリティな存在である。前世の記憶がある時点で異質だし。

 だけど、いつかオタクの友達を作りたい。

 異世界は広いのだ、きっと同志は見つかる。

 拳を握りしめ、気持ちを奮い立たせた。


「そうだ、ステータス画面を確認しないと」


 空中に表示された文字は、やはりレベル7。数値もHP60、MP40に上がっている。

 問題は『意識反転』の魔法だ。


ーーーーーーーーーーーーー


《備考》

・『意識反転』について

『オタクの祈り』によって強化された『聖職者の祈り』により、効果範囲が一人から三人まで拡大


ーーーーーーーーーーーーー


 ……そういえば、そんな固有スキルあったな。

 完全に忘れてたぜ。


 確か『聖職者の祈り』はスキルの威力上昇。

『オタクの祈り』が対象と効果範囲の上昇だっけ。

 祈り=強い念と解釈すると、つまりあれか。推しのことで怒ったから、スキルが発動して威力アップしたってことか。なるほどね。



 …………あれ? これ、結構ヤベー力では?


次回の更新:一週間後の予定

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