エピローグ3:宮本玲奈
――同盟? 笑わせないでください。
あれはただの表向き。亜紀さんとの「協力」なんて、私にとっては時間稼ぎにすぎません。
彼女が「独ソ不可侵条約」だの「英仏協商」だのと楽しそうに例え話を並べていたけれど――歴史が証明しているじゃないですか。
不可侵条約の裏では、すでに侵攻準備が進んでいたことを。
独ソ戦が開始された途端に、ソ連を援助した英米の動きを思えば自明の事。そして、その次に待っていたのは冷戦構造。これはもう歴史的必然というべきしょうね。
私はもう動いています。麻里さんと――裏で。
既に彼女の来日後に、私との会食予定を調整済ませていますからね。
あの人は確かに“元カノ”というカードを持っている。そして同時に、DeepFuture AIの日本代表という、誰もが無視できない圧倒的な札を切れる立場でもある。
その力を、私は利用する。麻里さんを味方につけることで、私の優位は揺るがない。
もちろん分かっています。亜紀さんが由佳さんと手を結ぶ可能性があることくらい。
あの人は感情的に見えて、意外と抜け目ない。自分が劣勢だと悟ったら、簡単に「敵の敵」とも握手するでしょう。
でも――その程度。
由佳さんの色香もネットワークも、結局は旧世代の武器にすぎません。
直也に必要なのは、次世代を切り拓く冷徹な判断力と戦略眼。
その意味で――私、宮本玲奈こそが最適解。
亜紀さんは「直也を甘やかす存在」になろうとしている。
でも、直也を本当に世界の舞台で輝かせるのは、彼に不足する部分を補完し、彼の圧倒的な戦略的思考をサポートできるパートナーだけ。
甘やかすだけの堕天使に、その資格はありません。
麻里さんを味方にし、利用できる範囲で利用しつつ、賞味期限が過ぎれば切り捨てる。私はイーサンとも直接対話可能な程度のコネクションは持っている。そして、由佳さんが動くなら、それすら計算に入れて、むしろ利用する。
全ては――直也を手に入れるために。
いいえ、“直也をビジネスの世界における頂点に押し上げ、その隣に立つのが私”という、あるべき未来を実現するために。
だから、同盟なんて実のところどうでもいい。
真の勝者は、宮本玲奈。
最後に直也を得るのは、この私だけ。
そのうえで、たっぷりと直也は甘やかして差し上げます。