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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ざ・べーしっく

作者: まい

 とてもベーシックなホラーものです。


 苦手な方は、回避をお願いします。

 日付が変わるか変わらないかの頃合。


 とある大きな街にある、子供達が集まってサッカーが出来ていたスペースを持つ公園があった。


 大きな街と言えど、この公園の周辺は街灯がポツリポツリと立つだけで、数が少なかった。


 公園の敷地内に設置されている照明の数なんて公衆トイレを数えなければたったの2本で、その照明が浮かび上がらせるのは、ベンチ程度である。


 この少なさから考えて、暗くなったら公園の利用は考慮されていないのだろうと分かる。


 周辺と公園を見比べれば分かるだろうが、この辺だけ妙に薄暗くポッカリと空いている空間にも感じられる。


 そんな所を歩いていれば、明るい所から暗い所へ迷い込んだようにも思え、不安に駆られてしまうだろう。


 深夜にこの公園辺りを歩くなんてのは尚更(なおさら)で、余計に心細くなって公園に面した住宅に住んでいるとかで無い限り、寄り付く人なんて居ないだろう。


 と思われるが、例外はどこにでも現れるもので。



「ちょっと怖い程度で、こんな便利な近道を使わないなんて勿体(もったい)ないよなぁ」


 ジャケットを軸としたカジュアルなファッションに身を包む見目(みめ)の良い男が、謎の合理性を発揮しながら公園へと踏み込んだ。




「ん?」


 踏み込んだ直後に、気になる影を見つけた。


 その影はベンチに座っていて、動いている様子は無い。


 ならばこの影は、公園の近所に住む誰かが、夜の空気を吸いたくてボーっと座っているのだろう。


 ジャケットの男はこの公園をこんな時間帯で突っ切る機会がそれなりにあり、過去にも似たものを何度か見てきているので、その経験から無害なものであると判断した。



 もう少しで公園を突っ切れる所まで来たが、その時に何気なく視界に入れたベンチに変化があった。


 ベンチにあった影が、消えていた。


 これに気付いた男は足を止め、興味本位からその場でベンチとその周辺に目を()らし、ベンチの影がどこへ行ったのかと探し始める。


 探すと言ってもこんな暗い公園で、立ち止まっていて、見られるのなんて公園内外の街灯に照らされた部分程度だが。




「なにもない、よな」


 男が影が消えた痕跡が無いかとしばらく凝視(ぎょうし)していたが、やはりと言うかなんと言うか、離れた所から見ているだけでは痕跡なんてそう簡単に見付かるものではない。


 なのでもしかしたら痕跡を探すと言うより、耳をそばだてて異変が起きないか警戒していたのかも知れなかった。


 男が凝視するのを止めて元々の進行方向へ向き直ったのだが、そこには――――


「うおっ!?」


 ――――そこには、今にも男に襲いかからんと両手?を広げている、影で真っ黒く見えるナニカが立っていた。


 現在の位置関係で照明は男の背中の方向にあって、輪郭(りんかく)だけかろうじて分かる程度だ。


 その影をよく見ると人間の形をしているが、影は動いているように見えず、なんとも奇妙な存在だと言える印象。


「…………」


 なので強警戒心で男は身構える。 何があってもすぐ動けるように。




 どれだけ時間が()っただろうか。


 警戒する姿勢の男が疲れうんざりし始めた頃、その影が動いた。


 …………いや、声を発した。


「あ……好きです! この公園を通り抜ける姿を何度か見かけて、カッコイイな……って。 なので付き合って下さいっ!」


「…………………………はい?」


「ですから……その、好きですっ!!」



 何かよく分からない影が、いきなり男へ告白してきた。


 いきなりのフルスロットルで男が困惑して聞き返しても、更なる返答でも言葉は変わらない。


 その声色(こわいろ)から相手は女らしいと察せるものの、こんな場所でこちらに話しかけてきている時点で得体(えたい)の知れなさが不気味に感じられてしまう。


 しかもさっきまで影の動いた様子が全然無かったのに、今では何やらウゴウゴと(うごめ)いており、それが余計に不気味さを引き立てている。


 もちろんその影は両手らしきものを広げたままなので、それがウネる姿はとても形容しがたい恐怖感を(あお)ってくる。


 それでも相手は女? なので何かが起きても対処できるか? と思ったり、対処するにしても怪我をさせないようにしないとと、身構える質を変える。


「えっと……俺はキミとの面識が無いんだけど、どこかで話した事があったりするのかな?」


「いえ! 私が一方的に見かけて知っていただけです!」


「あ……そうなんだ」


「はいっ!」


 遅まきながら男はその影と会話が出来る事に思い至り、なにか影の正体の理解に繋がる糸口が無いかと質問を投げかけたが、失敗に終わった。


 ならどうやってこの状況を切り抜けようか。


 そう頭を回転させようとしたのだが、その(こころ)みは叶わなかった。


「それで、告白の返事を貰えないでしょうか?」


「あ、うん」


 いきなりのブッコミである。


 姿が(ろく)に見えない影にいきなり告白されて今すぐ返事がほしいと言われても、何も分からない相手への返答に困る。 としか言いようが無い。


 この謎の性急さが男の思考を()(みだ)し、追い詰め、(つの)った恐怖感と合わされば、男でさえどんな行動に出てしまうのかは想像に(かた)くない。



「………………返事は」


「返事は?」


「ん〜〜〜〜……」


「…………」


 男は考えている様に見せているが心をちょっと(のぞ)き見てみると、こんなのである。


(ムリムリムリムリ! 怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 何これ何これ何これ何これ!!)


 拒絶と恐怖と困惑(こんわく)


 残念だが、影に脈ナシ。


 まあ実際に面識は無いし、それでいきなり告白してくるなんて怖いし、面識どころかどんな人なのかすら分からないし、意味不明な位に両手?を広げたままグイグイ迫ってくるし。


 もう理解の範疇(はんちゅう)を超えた存在だ。




「さあ! さあ! さあ!」


「ひぇ」


「ひえ?」


 男がより強硬に迫られ、漏れ出た悲鳴にすら反応する影。


 悲鳴を聞かれてしまった男は恥ずかしい気持ちで沸いてしまい、感情が飽和(ほうわ)してパンクした。


 もういいやと。 いっその事、思ったままを口にしてしまえと。 そんな自棄(やけ)っぱちになってしまう。


 影だけしか見えなくても、聞いた声が女だから強く出るのはどうだろうと思っていたが、吹っ切った。


 そうなったらもう、口は致命的な言葉を止められない。



「見ず知らずの相手にいきなり告白なんて、どうかと思うよ。 俺はそんな人はゴメンだね」






 …………言っちゃった。


 言ってしまったのだが、感情がいっぱいいっぱいになってしまっている男には、相手を気遣う余裕は無い。




「………………あ。 ああ、あ」


 男から断られた事で影の声から力が抜けて行き、ずっと広げていた両手らしき影がゆっくり降りて、降りきる前に両手らしきモノの先端が不思議にキラキラと光った気がするが、それはそうとして最終的には影の特徴が無くなった。


 それから何やら他人には言葉として聴き取れない音を出し続ける。


 かろうじて拾えた言葉には「好きなのに」「好きだったのに」「なんで」「信じていたのに」等があったが、男からすれば面識は無く知り合いですら無い相手だ。


 なのにここまで言われると、さすがに危険なものにしか見えない。



 そんな様子に腰が引けた男は影を警戒しながらゆっくりと距離をとり、本来の目的方面へ回り込むように迂回(うかい)した。


「それじゃあ………………あうぁっ!?」


 そう言い置いて男が去ろうとした時、男の首筋に何かヒンヤリしたものと生温かいものがいきなり滑り込んてきて、奇妙な悲鳴をあげる事となった。


 滑り込んできた謎のヒンヤリしたものと生温かいものは、驚いている間にいつの間にか消え、何かに触られた感覚だけが残っている。


「なんっ………………え?」


 さっきのは一体なんだったのか。


 そう疑問に思いながら、感覚が残っている場所を指で撫でて確かめたのだが。


 指が何かドロドロとしたモノに触れていた。


 暗い公園では目で正確な情報を確認出来なくて、それでも何か情報を得られないかと匂いを確かめてみた。


「…………なんだ? これはたまに()ぐな。 あれは……そう。 怪我をして出てきた血がこんな匂いを……………………血? え?」


 そう。 血にとても良く似ている匂いをした、ドロっとしたものだ。


 血にとても良く似ているのならば、それは血ではないか?


 万が一でただの汗である可能性を考えたが、何度指でそのドロっとしたものを(ぬぐ)っても、拭いきれる様子は見られない。


 むしろ拭っている時に、ドロっと出てくるようだと指先の触感が伝えてくる。


 これは本当に血で、本当に出血しているのかも知れない。 そこまで思い至り、このままでは出血多量で死んでしまうのではないか?


「うわあああぁぁぁぁああああ〜〜〜〜っ!!!!」


 命の危機にまで思い至ってしまうと、生存本能は強烈に機能する。


 身体が勝手に動く。


 明るい所へ。


 人のいる所へ。


 とにかく助けを得られそうな所へ、はやく、速く、早く!




〜〜〜〜〜〜




 公園から駆け去る男の背中を、動かずじっと見送る影。


 影が人だったなら、丁度目がありそうな場所が赤く怪しく光っている。


 それと口から、はっきりとした言葉が出てくる。




「私に期待させておいて、自分勝手に拒否する人なんて、イラナイ」






 〇〇日深夜、△△都□□市の繁華街で首を鋭利な刃物で切りつけられて倒れている男性の遺体が、発見されました。


 警察の捜査によって、繁華街の付近にある公園内に男性の血液の痕跡を発見し、そこが殺害現場だと見られています。


 男性の傷口付近に付着(ふちゃく)していた皮膚片(ひふへん)を解析・調査した結果、現場と見られる公園付近の住宅に住んでいる女性のものであるとし、現在警察は重要参考人として事情聴取しています。




追記:誤字報告を頂きましたが、それについて


 サッカーが出来ていたスペースを持つ公園 で 出来るほどの 等と提案して下さいましたが、現在では公園でサッカーをするのは危険と見られ禁止されているので、今は出来ないので過去形となっています。


 悲鳴を聞かれてしまった男は恥ずかしい気持ちが沸き上がってきて は沸騰する様な恥ずかしさを覚えた事を表現するために湧くではなく沸くと書きましたので、そのままとさせて頂きます。

 ……と書きましたが、沸き上がるの沸くは維持したまま表現を修正してみようと思います。


 誤字報告には大変助けられておりますし、大変に有り難く思っております。

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― 新着の感想 ―
まさかのヤンデレ女子。 作品の雰囲気が一転二転と目まぐるしく、最後まで飽きずに読むことができました。
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