いよいよ本番!
打ち合わせを重ね、プロジェクトは最終段階へきていた。
「このプロジェクトのコンセプト、どうまとめますか?」
「都会で働く人たちに、地元の味を届ける。そこを軸にしたいね。シンプルだけど、伝わりやすいほうがいい。」
奈津美、久賀の発言に、美優が答える。
「“都会で働くあなたに郷土の味を”とかどうでしょう?」
「いいんじゃない?」
奈津美がうなずくと、一同も賛成した。
「これでいきましょう!」
キャッチフレーズが決まり、フェアの詳細も詰められていった。
最初のフェアでは、未紗季の地元・高知四万十川エリアと美優の地元・山形庄内に加え、久賀の地元・千葉の房総の三地域のお弁当を売り出すこととした。お弁当には、それぞれの地域ならではの食材が詰め込まれることになった。
【高知・四万十川エリア】
・四万十ポークの生姜焼き
・川エビのかき揚げ
・青さのりの佃煮
【山形・庄内エリア】
・山形牛のしぐれ煮
・芋煮の煮こごり
・だし(夏向けの醤油漬け)
【千葉・房総エリア】
・鯵のさんが焼き(メイン)
・房総地鶏と小松菜のごま和え
・ピーナッツ味噌
お弁当の包み紙は観光マップにし、協力店などの連絡先なども掲載する。「まずは、社員の地元からのスタートで、北日本、中日本、西日本、うまく地方が分かれたわね。」
奈津美が冷静に言った。
営業担当が、販売場所の確保に奔走した結果、オフィス街近くの河川敷の遊歩道にキッチンカーを並べ、マルシェ形式で販売することに決定した。
「やることは山積みだけど、いい形になってきたわね。」
奈津美の言葉に、未紗季は静かに頷いた。
こうして、プロジェクトは本番に向けて本格的に動き始めた。
そしてフェアの日程も、平日のビジネスマン、休日の家族連れ、どちらもターゲットにしたい意向から、ゴールデンウィーク前の金曜日と土曜日の二日間とした。
企画が正式に通り、コンセプトと日程も決定すると、社内は一気に慌ただしさを増した。ポスターや駅構内の大型広告、通勤電車の中吊り広告に、フェアの告知がずらりと並び、ビラ配りやSNSでの告知も展開された。営業は出展企業との最終調整に奔走し、広報はメディアへの情報提供を進める。
そしてとうとう、フェア当日を迎えた。
フェア初日の金曜日。オフィス街近くの遊歩道の一角に設置された特設ブースには、「都会で働くあなたへ、ふるさとの味をお届け」というキャッチフレーズが大きく掲げられた。十二時の販売開始と同時に、多くの人が足を止め、興味深そうにお弁当を手に取っていた。
「予想以上に反応がいいですね」
未紗季は忙しく動きながら、売り場の様子を見渡した。販売スタッフの説明を聞きながら、お弁当を購入していく人々の表情は明るい。都会で働く人々が、地元の味に触れ、懐かしさや新鮮さを感じているのが伝わってくる。
「高宮!」
声のする方を振り向くと、中学の同級生、坂本亮介が手を振っていた。各県・市町の自治体担当者たちと共に、四万十からフェアの様子を視察に来ていたのだ。
「すごいな、思った以上に盛況じゃないか。」
「坂本くん、来てくれてありがとう。」
「当然だろ。地元の名産を都会に広めるプロジェクトなんて、俺たちにとっても大きなチャンスだからな。」
坂本とは、この企画の構想段階から何度も話し合っていた。まだアイデアがぼんやりとしていた頃、未紗季が地元の特産品について相談したとき、彼は自治体としてどんな支援ができるのかを一緒に考えてくれた。最初は、ただの会話のひとつに過ぎなかった夢が、今こうして目の前で実現している。
「僕も、こうして形になってるところを見ると、感慨深いよ」
「まだ始まったばかりだけどね。でも、ここから広げていけたらいいな」
「おたがい、頑張ろうな。」
そう言って坂本と別れたあと、後ろから呼ばれる声がした。
「未紗季!」
日向と綾那だった。
「わぁ、綾那さん、もう大分お腹が目立ってますね。」
「そう、来月だからね。もう産休に入ってるんだけど。今日は未紗季ちゃんの頑張ってるところが見たくて、日向と待ち合わせてきたんだ。」
「大変な時なのに、どうもありがとう。日向もありがとうね。」
「頑張ってるじゃん。未紗季のそんな生き生きしてる顔見るの、めちゃ久しぶりだわ。」
「うん、今の会社に移って、やりがいのある仕事に取り組めて、本当によかったと思ってる。それにこんなにたくさんの人に来てもらえて。」
「この調子で、未紗季らしく、これからもがんばれよな。」
「ありがとう、日向もね。」
「ああ、パパになるんだからな。よーし、全部食うぞー。なんせ二人分食べないといけないからな。」
「あんたが妊婦じゃないでしょ。」
綾那と未紗季は顔を合わせて大笑いした。
「ほんとに、綾那さん、大事な時なんで、お体大切にしてくださいね。出産報告楽しみにしています。」
「ありがとう。未紗季ちゃんも頑張りすぎて、体調崩さないように気を付けて。」
「はい!それじゃあ、ゆっくり見て行ってくださいね。お弁当の他にもおみやげ物も置いてますので。」
「おう、またなー!」
(二人、幸せそうだな。見てるこっちまでうれしくなっちゃうよ。)
そんなことを考えながら二人の背中を見送った。
大盛況の中、フェア一日目が終了した。
ビジネスマン向けの一日目に続き、二日目の土曜日。休日であることから家族連れ客も見込んでいる。
そんな中、今日は朱音一家がやってきた。
「未紗季ー!」
「朱音、来てくれたのね。旦那さんも、お久しぶりです。」
「こんにちは。」
夫の腕には、娘が抱っこされていた。
「わー、結依奈ちゃんだ。久しぶりだね。こんにちは。」
結依奈は恥ずかしそうに、父親の胸に顔をうずめた。
「最近、ちょっと人見知り気味なのよ。」
「そっか、でもこういう恥ずかしがる仕草も、かわいいよね。」
「成長に合わせて、その都度色々大変だけどね。でもやっぱり子どもはかわいいよ。」
「あの朱音さんから、そんな言葉を聞けるなんてねー。」
「母は強し、よ。」
未紗季と朱音が笑うと、ようやく結依奈も笑顔を見せた。
「テーブル席も用意してるから、よかったら何か食べて行ってね。」
「うん、ゆっくり見せてもらうね。」
「落ち着いたら、また会おうね。」
昨日の日向夫妻、今日の朱音一家、どちらも幸せそうで何より……。そう思うと未紗季は少し寂しい気もしてきたが、いやいや、と首を振る。
(すごく充実して、やりがいを感じてる。今は目の前の仕事に精一杯頑張りたい!)
未紗季は改めて思った。
——このフェアは単なる販売イベントじゃない。
——ここには、それぞれのふるさとを思う気持ちが詰まっている。
「さあ、もっと多くの人に知ってもらおう!」
そう心を新たにし、未紗季は再び会場の中心へと向かった。
そうして大盛況の中、無事二日間の日程が終了した。
フェア終了後、今回のプロジェクトチームが集まり、いつものランチスペースで成功を祝う打ち上げが行われた。社長も姿を見せ、事業部長とともに社員たちをねぎらった。
「わが社が設立し、最初ともいえる大きなプロジェクトが成功したことは、皆さんの努力の賜物です。非常に幸先の良いスタートとなりました。この調子でこれからも皆さん、がんばってください。」
「お弁当、三種類とも、すべて予定販売数、完売しました。みんな、お疲れ様でした!」
久賀課長の音頭で、皆が乾杯をした。
「たくさんのご縁がつながって、今回の企画も無事成功することができました。皆さん、本当にお疲れさまでした。」
未紗季は本当に感慨無量で、胸に熱いものがこみ上げていた。そこへ奈津美が近づき、未紗季に声をかけた。
「よくやったわね、高宮さん。」
思いがけずかけられた言葉に、未紗季は驚き、そしてさらに胸を熱くした。
「ありがとうございます。これからも頑張ります!」
打ち上げの場には、和やかな笑い声が響き渡っていた。
フェアは大成功に終わった。しかし、ここからが本番だった。
ありがたいことに反響は大きく、いくつかの自治体や企業からも問い合わせが入った。興味を持った企業が、地元の特産品を使った別の企画を持ちかけてくることもあった。
そして、六月下旬。予定通り、まずは一店舗目での販売がスタートした。営業チームの努力もあり、さらに数店舗での取り扱いの可能性も見えてきた。
フェア当日に販売していたお土産にも「どこで買えるのか?」という問い合わせが多く寄せられた。これを受けて、ネット販売や実店舗での販路拡大を検討することになった。
お弁当の販売が軌道に乗り、お土産の販路拡大も視野に入ったことで、新会社のスタートは成功したと言えるだろう。




