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帰省先で見つけたもの

 長かった梅雨も明け、本格的な夏が来た。相変わらず忙しく過ごす日々。

 今年のお盆休み、未紗季は何年かぶりで高知の実家へ帰省することにした。

 慎二の結婚話、そして颯也の渡米、つらい出来事が次々と押し寄せ、未紗季は何も考えないように、この一ヶ月間今まで以上に仕事に集中し、あえて忙しくすることで、辛さ、虚しさから目を背けてきた。今はゆっくり休みたい。田舎に帰り、何も考えずにぼーっと過ごしたい……未紗季の心は限界だったのかもしれない。

 朝早く自宅を出発し、新幹線、特急を乗り継ぎ、高知を目指す。

 大阪から四国というと、そう遠くないようにも感じるが、高知県、しかも未紗季の地元、四万十川方面となると、いくつも電車を乗り換えて、長い時間をかけて帰らなければならない。最後に乗り換えたのは、四万十川に沿って走るローカル列車。車窓から見える四万十川はキラキラと美しく、優しく未紗季を迎えてくれるようだった。

 最寄り駅に着いたころには、夕方近くになっていた。駅には、父が軽トラで迎えに来てくれていた。

「よう帰ったな、未紗季。おかえり。」

「ありがとう、お父さん。ただいま。」

 軽トラの荷台に荷物を載せ、未紗季は助手席に乗り込む。走り出して五分ほどで、実家が見えてきた。玄関前では、母が大きく手を振って、出迎えてくれている。

「おかえり。遠いところ、ご苦労さんやったね。」

「ただいま。お母さん。」

 お父さんは黙って、荷台から荷物を下ろし、家の中へと運んでくれた。

 珍しく帰ってきた娘を、何も言わずに温かく迎えてくれた両親。遠距離の移動で、体は確かに疲れたが、蓄積された心の疲れは吹き飛んでいくようだった。

 夕飯は、懐かしい母の手料理……。食卓には、夏が旬の四万十の川の幸、天然の鮎の塩焼きや、川エビの唐揚げ、そして父の自慢の野菜で作られた数々の料理が並んでいた。

「こんなに、ごちそう作ってくれて。ありがとうね。」

「久しぶりに、未紗季が帰ってくるんやもん、張り切って用意したよ。たくさんお食べ。」

 ここしばらくは、何を食べても味がしない気がしていたが、故郷の食材、そして愛情たっぷりの母の手料理は、未紗季の舌を震わせ、体の隅々にまで届いていく気がした。

 その夜、未紗季はあっという間に眠りにつき、本当に久しぶりにぐっすりと眠った。おかげで翌朝は、すっきりと目覚めることができた。


 朝起きると、すでに朝食が用意されていた。父は農作業に、母も勤めに出ていた。疲れて帰ってきた娘を起こさないように、そっと出ていったようだ。

 未紗季は朝食を食べたあと、近くにできた道の駅まで自転車を走らせた。母はこの道の駅に併設された食品加工場で働いている。地元の野菜を使ったドレッシングやジュース、つくだ煮や肉みそなど、四万十の特産品を使った加工品を作っている。

 加工場はガラス張りで、中の様子が見学できるようになっている。近所のおばちゃんたちが、楽しそうに働いている姿が見える。母の生き生きとした笑顔も、印象的だった。

 道の駅の売店では、母たちが作った加工品の他に、四万十の川の幸や、工芸品など、おみやげ物が所狭しと並べられ、お盆の帰省客や観光客でにぎわっていた。

 朝採れの新鮮野菜は、特にこの道の駅で大人気だ。父の作った野菜は、この道の駅にも卸している。『生産者の顔』の中に、誇らしげに映る父の写真を見つけ、未紗季まで誇らしい気持ちになった。

 父も母も、四万十の幸とともに、ここに暮らしている。改めてそう実感した。

 そんな野菜をはじめ、地元の特産品を使って作られたお弁当も、特に観光シーズンは人気商品のようだ。様々に並ぶ野菜やおみやげ物を見て、未紗季の心の中に、何か小さなものが浮かんだような気がしていた。


 夜は、中学の同級生たち数名と久しぶりに集まった。

 未紗季同様都会に出て働き、この盆休みに帰省している者もいれば、地元で結婚し子育てに追われている者、実家の旅館を継ぐべく修行中の者など、現在の立場は様々だ。でも、こうやって久しぶりに会ったとしても、心を許して語り合える友がいるというのは、とてもありがたい、未紗季はそう実感した。

「久しぶりやねー。」

「すっかりお母さんの顔だね。」

「やっぱ、都会で働いとる人たちは、なんか違うな。」

「こうやって帰ってくると、やっぱりふるさとっていいな、って思うよな。」

 再会を喜び合う友人のひとりに、四万十市役所の観光課で働く坂本(さかもと)亮介(りょうすけ)がいた。

 四万十市は、全国的にも観光地として有名だ。こちらの施設などを充実させて、ただ観光客を受け入れる準備をするだけでなく、積極的に都会へ四万十の魅力を発信していくことが大事だと、亮介は熱く語った。『受け入れる器を充実させる』ことと、『積極的に魅力を発信する』こと、どちらかだけではない、この両方がとても大事なんだと。マーケティング・広告会社に勤める未紗季にとっても、それは共通して言えることだった。

 ——地方の魅力を都会に積極的に発信する。

 ふと思い出す、今日道の駅で見た光景。土産物が充実し、観光客でにぎわう……。その時に心にうかんだ“何か”と今の亮介の話とが、未紗季の中でリンクした。

 ——もっと地方の良さを伝えられる仕事がしたい。

 未紗季は、次第に自分がやりたいことの輪郭が見えてくるのを感じていた。


 翌日は、朝から父の農作業を少し手伝ったり、午後は加工場から戻った母と一緒に台所に立ち、『ふるさとの味』を伝授してもらうべく、母からいろいろ家庭料理を教えてもらったりしていた。

「久しぶりに帰ってきたんやから、もっとゆっくり休めばいいのに。」

 母はそう言ったが、未紗季は何となくじっとしていられない気分だった。『何かを吹っ切るために仕事に集中していた』時とは明らかに違う。これからのために、自分にできる何かを見つけるために、いろいろ前向きに挑戦していきたいと感じていた。


 そして大阪へ帰る日。あっという間だったが、未紗季は十分リフレッシュすることができたし、何より、この先やってみたいことの片鱗が少し見えてきた、そんな休暇だった。

 家を出るとき、母がおみやげにと、袋を手渡してくれた。

「あんまり荷物になっても、と思ったけど。」

 袋には、日持ちのする加工品やお菓子、それから父の野菜など、重くならないよう配慮し、詰められていた。

「またいつでも帰っといで。」

「ありがとう。お母さんも体に気を付けて、元気でね。」

 胸が熱くなるのを感じながら、母に見送られ、実家を後にした。帰りも父が軽トラで、駅まで送ってくれた。

「またいつでも帰って来いよ。体に気ぃつけてな。」

「うん、お父さんもね。送ってくれてありがとう。」

 そうして、父に見送られ、到着した列車に乗り込んだ。

 珍しく帰省した娘に、何があったかと深く聞くわけでもなく、また「結婚はまだ?」などと言うこともなく、ただただ温かく迎えてくれた両親。あらためて感謝の想いでいっぱいになった。

 窓の外の景色は流れ続ける。四万十川の穏やかな流れのように、未紗季の心もまた、少しずつ前へ進み始めていた。

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