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ゴールも近い?

 穏やかに時は流れ、圭吾と付き合い始めて、かれこれ一年半が過ぎた。周りの目から見ると、うらやましいくらい、うまくいっているカップルに映っていることだろう。もちろん未紗季自身も、圭吾のことを「好き」という自覚はある。

 でも……心のどこかで「尊敬する先輩」と「恋人」の境界線が曖昧なままで、完全に肩の力を抜けているかと聞かれると、わからない。この違和感の理由は、これだけではないことに、未紗季自身、気付いていないふりをしていた。


 そして十二月。クリスマス前の街は、どこもかしこも華やかだった。ツリーが飾られ、キラキラとしたイルミネーションが輝く道を、未紗季は一人で歩いていた。

 圭吾とは、クリスマス当日にディナーの予定がある。でも、それはあくまで「予定通りのイベント」だ。特別嬉しいとか、胸が高鳴るとか、そういう気持ちとは少し違う。

 ショーウインドウを眺めながら、ふと足を止める。そこには、赤と緑のリボンが巻かれたプレゼントボックスがいくつも並んでいた。それを見て、脳裏にある記憶がよみがえってきた。


 ———「お前、クリスマスプレゼント何が欲しい?」

 ———「うーん、何でもいいよ。慎二が選んだものなら。」

 ———「へぇ?じゃあ、コンビニで買ったプリンでもいいか?」

 ———「ちょっと!そういうことじゃなくて!」


 冬の空気の中、ふざけ合いながら笑ったあの日。一緒に見たイルミネーション。寒さにかじかんだ手を、当たり前のようにポケットの中で握ってくれたぬくもり。

(違う、違う。思い出しちゃだめ。)

 未紗季は自分に言い聞かせ、静かに息を吐いて、目の前のショーウインドウから視線を外した。

 クリスマスソングが流れる街を、再び何もなかったかのように歩き出す。でも、心の奥でくすぶる気持ちは、どうしても消えてはくれなかった。


「そろそろゴールも近いんじゃない?」

「えっ?」

 年が明け、朱音に唐突に言われたその言葉に、未紗季は思わず固まった。

「だって、もうすぐ付き合って二年でしょ? なんかもう、そろそろじゃない?」

 朱音がニヤニヤしながら未紗季の顔を覗き込んでいる。

「そろそろって?」

「結婚よ、結婚!」

 その単語を聞いた瞬間、未紗季の心臓が大きく鳴った。

(結婚……? いや、そんな話、圭吾さんからは一度もされていない。)

 でも、交際二年。年齢的にも、おかしなことじゃない。むしろ、周りから見れば「順調そのもののカップル」だ。

(もし、プロポーズされたら……私、なんて答えるんだろう?)


 ――そろそろ、ゴールが近いんじゃない?

 家に帰り一人になって、朱音の何気ない一言が、ずっと胸の中で反響していた。

 確かに、圭吾とは何の問題もなく付き合っている。クリスマスも、お正月も、二人で楽しい時間を過ごした。周りから見れば、ごく普通のカップル。それどころか、そろそろ結婚してもおかしくないくらいの関係なのかもしれない。

 でも———。心のどこかで、未紗季はずっと待っている気がしていた。

『ごめん、帰ったらゆっくり話そう』

 何度も読み返した、最後のメッセージ。それは、慎二が最後に未紗季にくれた言葉。たった一言で、未紗季を置き去りにした言葉。

 もう、あの約束が果たされることはないのかもしれない。もしかしたら、慎二はもう二度と帰ってこないのかもしれない。そんな気もしはじめている。

 それでも。……もし帰ってきたら?

(そのとき、私はどうするんだろう?)

 もう一度、ちゃんと話がしたい。たとえ、関係が元に戻らなくても。たとえ、何も変わらなくても。

 でも、もし圭吾と結婚したら……それすら、もう叶わなくなるのではないか。

 慎二がどこで何をしているのか、知る術はない。だけど、どうしても心はざわつく。

 圭吾との未来を考えれば考えるほど、「いまだ果たされていない約束」に縛られていることを、未紗季は痛いほど思い知らされた。

「前を向かなきゃ。」

 何度もそう思った。過去に囚われるんじゃなくて、今を大切にしなくては、と。

(でも、結局……私は、前を向けていない。)

『ごめん、帰ったらゆっくり話そう』

 あの言葉が、ずっと心の奥に残っていて、未紗季はそこから動けないでいる。

 圭吾との時間は穏やかで、居心地がいい。圭吾となら、きっと幸せになれるだろう。だけど……。

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