第5話 一緒に食事しました
今まで生きてた魚……流石に抵抗がありましたが私は魚の口を開けさせて少し太い木の枝を挿していきます。可哀想に思えますが生きていく為には必要な事です。
「そっち出来た?」
「はい!」
レミさんは焚き火の用意をしていました。普通に火を起こすならマッチ、もしくは火打ち石を使いますが……
「レミさん……火はどうやって起こすのですか?」
「火はね……これを使うよ。」
出されたのは火打ち石でした。
「あの……まさかそれ持って泳いだり潜ったりしてたんですか⁉︎」
「えっ?勿論だよ?なんで?」
私は耳を疑いました。ただでさえ泳ぐのには体力が必要で、なるべくなら身軽の方がいいはずです。それなのにわざわざ重たくなる石を持って泳ぐのは正気とは思えません。
「信じられない顔してるねー……」
「え、ええ……石を持ったまま泳ぐなんて……」
「普通じゃないの?このくらい?」
「普通じゃないです!少なくとも私には無理ですよ!」
「そっかー……私より大きいのにね!」
「わ、私……運動が苦手で……」
「あはは。良いんだよ!人には向き不向きあるんだからアリスが不得意な事は私がやってあげる!あとね……1人で抱え込まないでね。」
「わ、分かりました。」
最後の一言は分かりませんでした。その間にもレミさんは木の葉に火をつけてそれを焚き火の中に放り込みました。しばらくするとどんどん燃えていきました。
「うん。じゃあ焼いていこうか。」
「はい。」
私は火傷しない様に魚を焚き火の周りに突き立てていきます。焼けるまでは時間がありました。無言の間を作らない様に何を話そうか考えます。しかし先にレミさんが口を開いたのです。
「私ね、孤児院を抜け出したんだ。」
「えっ?」
「8歳の時かな?母親が病気で亡くなって、その後父親は過労で倒れてそのまま亡くなっちゃった。」
「……そうだったんですね。」
「それから孤児院に入って……一年くらいかな……そこの大人たちと大喧嘩して逃げたんだ。」
「……差し支えなければ聞いてもいいですか?」
「差し支え?」
「あ、えーっと話してもらえるなら話して貰えてもよろしいですか?」
「うん、大丈夫だよ。いじめだよ。」
私は背筋が凍る感覚を味わいました。
「いじめ……られてたのですか?」
「ううん。私は助けただけ。だけどそれを次の日その子達が大人たちに言って私を悪者にした。そして私はやり返さなかったら相手がつけ上がった。だから……私は暴れちゃった!」
「えっ?」
私が驚いた顔をする中焼けた魚をとり一口食べました。
「う〜ん!美味しい!ほら食べよ食べよ!」
「あ、は、はい……」
あまりにも驚いてしまいましたが私はレミに勧められ魚を一口食べました。
「でね、でね!暴れに暴れてね。いじめっ子達を全員ボコボコにして逃げたった!死んではないけど心に相当深い傷を付けたから2度と同じ事しないと思うよ。」
「す、凄いですね……」
私には絶対出来ないです……暴れるなんてそんな事……
「それから私は4年間ずっとこの山の中で過ごしてきた。最初はねー……寂しかったよ。1人でさー話す人もいないし、知識もないから食べられない雑草を食べてお腹壊したりもしたよ。でも、あんな場所に戻るくらいならここで死んだ方がマシと思って生き残る為に必死で頑張ったんだ。」
「誰にも教えて貰わなかったのですか?」
「だって、いないもん……なら自分で挑戦して失敗して、繰り返すしかない。負けたら明日私は死んでるんだ。その覚悟で挑戦して勝って生きたきたんだ。」
真っ直ぐに見つめる目は凄い覚悟が宿っていました。こんなに小さいのに私にない覚悟を持っていたのです。
「12歳でそこまでの覚悟を……」
「じゃあ私は話したよ。今度はアリスの番ね!」
「わ、私ですか?」
「そうだよー。アリスはどんな悪い事して貴族を辞めちゃったの?あ、話せる所まででいいよ。」
「私は……」
私はこれまでの経緯を話しました。学園でいじめられていた事、助けてくれた方がいた事、その方と婚約する直前で私がいじめの主犯とされて婚約が白紙になった事、そして両親から縁を切られて餓死寸前でレミに拾われた事を……私はレミさんの反応を見るのが怖かった……両親、そしてアルセイヌ様も信じてくれなかった事をたった2日しか知らないレミさんが信じてくれるとは思えませんでした。
「そうだったんだね……」
私は次の言葉にドキドキしてました。肯定か否定かはたまた拒絶か……いじめられて反撃して居場所を失ったレミさんにとっては私は無実であろうと拒絶されると思いました。しかし……
「よく頑張ったね。」
「えっ、信じてくれるんですか?」
「うん、だって……アリスの目は濁ってないもん。それに気が付かないなんてみんなだめだね。でも、大丈夫!私は信じるよ!」
そう言ってレミさんは私の頭を撫でてくれました。そして私はポタポタと涙を流してしまいます。
「えっ⁉︎なんで泣くの⁉︎」
「ご……ごめん……なさい……ようやく……信じて貰えて……嬉しくて……」
「そっか……辛かったね……」
私は泣きました。6歳歳下の子に慰められるなんて恥ずかしい事です。ですが、ようやく私を信じてくれる方が現れたのです。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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