第3話 許す
アリスとの婚約は破棄した。だが……俺は何か引っかかっていた。
「坊ちゃんどうなさいましたか?」
「あぁ、爺や……いや、あまりにアリバイと証言が揃いすぎていて……気持ち悪いんだ。」
「彼女がシロだと思っているのですか?」
「あぁ……」
爺やの言う事に頷く事が出来なかったが生半可な返事は返せた。
「調べて見ましょうか……?」
「頼めるか?」
「命令を受ければやるのが我々の仕事です。」
「……頼めるか。俺もやる事をやっておこう。」
一礼して爺やは下がった。
(アリス……もし君が無罪なら俺は許されない過ちを犯した。それでも君はまた許すのだろ。)
最初に会った時もそうだった……アリスは数名の男女に囲まれていた。
「おい、何をしている。」
「あなたには関係ないでしょ?」
「何をしているのかを聞いている。」
「おい、行くぞ。」
1人の男が取り巻きに一言言うと何処かに行こうとした。
「おい、待て!貴様らまさか集団でいじめてたのではないか?」
「関係ないだろ?」
「おい、まて!」
「いいんです……」
それを止めたのはまさかの彼女だったのだ。
「ほら、良いって言ってるだろ?行くぜ。」
腑に落ちないが彼女が良いと言った以上俺は引き下がる事にしたのだ。
「すいません……巻き込んでしまって……」
「そんな事はいい、君は大丈夫なのかい?」
「問題ありません……」
「君名前は?」
「アリス・グランです。」
そう言ってアリスは散らばったノートや教科書を拾い始めたのだ。
「……拾うよ。」
「……ありがとうございます。」
「……」
「……」
2人して無言で拾った。そして別れの際にもう一度アリスは深々とお辞儀をして去って行った。
「……変わった子だ。」
その後先程の奴らを問い詰める為に探した。
「おい、お前……」
「あ?げ、お前は!」
「ちょっと話を聞かせてくれるか?」
「お、俺は頼まれただけだ!」
「誰に頼まれたんだ?」
男の顔を数発殴ったら口は軽くなったが……
「い、言えない……言えば殺される……」
「もう1発殴ってみるか?」
「ひぃ……」
「おいそこで何してる⁉︎」
そこへ通った教師に見つかりそこで止めた。呼んでいたのはアリスだった。
「た、助けてくれ!」
男は教師に助けを求めた。代わりに教師は私を注意しようとしてきたが、それを止めたのもアリスだった。だが、やった事は尋問だ。それなりに注意された。
「ごめんなさい……私のためにやってくれたのは嬉しいのです……ですが、このままだと標的はあなたになってしまう。そんな事を私は望んでいません。」
「構わない!その時は全員返り討ちにしてやるから!」
「……ありがとうございます……そのお気持ちだけで充分です。ですが、私は怒っていませんし、復讐しようとも思ってません……」
「何故だ⁉︎ここまでやられていてなぜやり返さない?やり返さないからアイツらは面白がって繰り返しエスカレートするんだぞ!」
俺はアリスに怒鳴った。何故感情的になったのかは分からない。だが、俺はアリスが自分の事を大切にしていない様に思えたのだ。
「やり返してどうなります?再び報復が来るだけです。もし来なかったとしても他の方に行くかもしれません。それなら私が許して心の中に抑えておけば誰も傷つきません。これで良いのです。」
「……分かった。だが、俺が近くにいる時くらいは助けを求めてくれ。見ていて不愉快だ。」
「……わ、分かりました。」
それからは時々話す様になりアリスへのいじめは無くなって行った。そして卒業後の婚約者としてアリスを選んだ。そして婚約を正式に発表する数日前にある手紙が送られてきた。それはアリスがいじめの主犯という内容だった。
「馬鹿げてる。」
俺はその手紙を途中で読むのを止め捨てた。しかしその翌日には再び違う証拠が送られてきた。そこには数多くの証言があった。そこにはアリスの自作自演の工作の内容もだった。ここまでの証拠があるのなら差出人に聞いた方が良いと考えた俺は差出人フリーラ・ベラに会う事にした。そして彼女の屋敷に行くと他の証拠も提示した。それはアリスが真犯人だと証明するには足りた。だから婚約を破棄したのだが……
「冷静を欠いては正常な判断は出来ないな……」
あの時は婚約発表まで時間がなかった。貴族の中でも我が家は王家との交流がある上級階級。素行も教養も充分に備わった者を選ばなければならなかった。それが焦りにも繋がったのだ。
「俺ももう一度自分の足で探るか……」
俺は完璧な証拠を崩す為の粗探しを始めるのだった。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
次回更新もお楽しみに!
面白い、続きが気になるという方はブックマークまたは下の星マークをタップしてお待ち頂けると幸いです。