第1話 婚約破棄
煌びやかな一室で、沢山の人たち、私は今日このパーティでここにいる皆さんに私とアルセイヌ・ゲイル様との婚約を発表する……はずでした。
「今日この日をもってアリス・グランとの婚約は破棄させてもらう!」
「えっ……」
私は何故かアルセイヌ様から婚約破棄されました。聞いた瞬間私は絶句し言葉が出てきませんでした。
「君はなぜと言う顔をしているようだが……私は君の全て知っているぞ!」
「な、何の事ですか……?」
心当たりがない……本当にない。私はアルセイヌ様に何をしたのか。
「まだシラを切るのか……お淑やかに見えて面の皮が厚いというのは本当の様だな……君が学生時代にフリーラ・ベラをいじめてた事はもう知っているぞ!」
辺りからはザワザワと騒ぎ出しました。
「おいおい……ほんとかよ……」
「あんなおとなしい子が?」
「あれ?あの子がいじめられてなかったか?」
「でも、ああいう子がいじめの主犯って事もあるのよ。みんなの前では軽いいじめを見せて裏では逆に苛烈ないじめをしていたりして……」
私は本当に知らない事でした。そして本当にいじめられていたのは私の方でした。私物を隠されるのは日常的に行われます。複数人での無視、金銭の恐喝、暴力もありました。
「待ってください……それは何かの間違いです。」
「本人、そして周りの学生からも証言は出ている。学院側の調査でも目撃者多数だそうだ。」
「そんな……私は……そんな事……ぬ、濡れ衣です!」
「では、本人に来てもらおう。」
そうして中に入ってきたのはフリーラだった。私は一瞬で昔のトラウマを思い出し顔を青くする。それを見たフリーラは眉間にシワを寄せて私に指を挿しました。
「この子です……この子が私を虐げていたのです。今思い出しても気分が悪くなります。数々の嫌がらせに恐喝……助けてくれない先生方……私の青春はこの子によって壊されたのです。」
「そんな……あなたが私を……」
私は何かを言う前に言葉を詰まらせた。それはフリーラの目を見てしまったのだ。学生時代の時からあの目で睨まれると萎縮してしまう……冷たい視線……助けを求めても助けて貰えない絶望も一緒に思い出してしまう。
「わ、私は……いじめなど……し、していません!」
「そんな自信のない声で言われても説得力がないのでは?アリスさん。そもそも、あなた私が来たから顔色が優れない様子……それは私に対して後ろめたい事があるからでは?」
「そ、そんな事は……ない……です……」
「ならば何故はっきりと言わない?挙動不審な態度は疑惑を産む。今更か弱いふりをするのは見苦しいぞ!」
私のたどたどしい話し方にアルセイヌ様は更に疑惑をもってしまわれた。私の味方はもうこの会場にはいなかった。今行われているのは断罪でした。最早私の一挙手一投足が疑惑になってしまっていたのです。
「それに証人も今夜来ている。学院に居た生徒数名と教師だ。中には相談してきて何も出来ない自分を悔いて自害するという日記もあった。名前は伏せられていたがアリス、貴様の事と間違いないだろう!」
「そんな……私は本当に……やってません!それに名前がないのなら……他の方の可能性もあるはずです……何故私なのですか……」
怒りではなく怯えて声が震えてしまう。それを怒ってると捉えてしまったアルセイヌ様は怒声を上げた。
「自分の不徳の致すところを怒るとは。どこまでも面の皮が厚い!ならば教えてやろう。日付だ!日付はお前たちが在籍中であり、書いた教師はお前たちの担任教諭だ。そして相談した日の事をフリーラは事細かに証言し日記の内容と相違していた。確固たる証拠とならないか?」
「それは……」
私はあの日を思い出す。担任教諭に相談した。いじめの内容を……しかしそれはフリーラの仲間に見られていた。そして1人になった時に囲まれ全てを吐かされた。あの場から早く逃げたい一心で……そしてその数日後その教諭は亡くなったのだった。
「わ、私は……あの日……」
「ええい、黙れ!それ以上戯言を並べるのならここで斬り捨てる!早く出ていけ!」
最早話をする事はできない様子……私はアルセイヌ様、そして会場の皆さんに一礼をして外に出ようとします。しかしその前にフリーラが私に近寄ってきました。
「待ちなさい。アリス。」
「な、何でしょうか……」
近づいてくるフリーラに私の心臓はバクバクした。恐怖から過呼吸になりそうになる。あの時受けた暴力が今なお身体にではなく心に残っていたのだから。しかし渡されたのは1通の手紙でした。
「もし、謝罪がしたければこちらに手紙を送って来て下さい。」
私は受け取ると会場の外で馬車を待たせていた私は速やかに乗り込むと屋敷に帰りました。そしてその日は一晩中泣き続けました。
そして翌日手紙を開けるとそこには衝撃の内容が書かれていました。
『何奴隷の分際で幸せになろうとしているの?地獄に堕ちなさい!』
赤いインクで書かれたそれに私は恐怖し開かなけなければ良かったと後悔するのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
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