guilty 4. メンヘラ女に痴漢されそうになった
翌日の朝。
電車通学中にスマホからラインの着信音を知らせるアラームが鳴った。櫻井からであった。昨日の夕方、うっかりラインを教えてしまったのだ。キチ●イのような頻度でラインチャットしてくるかと思ったが、割と常識的な回数であった。
『先輩はカレー味のおやぢとおやぢ味のカレー、どっちが大好物ですか?』
しかし、チャット内容が割とクレイジーだった。
カレー味のおやぢって、おやぢにカレーパウダーでもぶっかけてんのか?おやぢ味って何味だ?おやぢから絞りとったエキスで作るカレーか?割と地獄絵図だな。ていうか、何で朝からこんなエグいこと考えないといけないんだよ。全然、建設的な思考じゃないし、違う意味で不健全である。
『朝っぱらからエグいことを考えさせんな。どっちも嫌だよ』
『クリームシチュー味のおやぢ(in 裸エプロンおやぢ)ですね! 了解です!』
無かっただろ、そんな選択肢。
こいつと会話してると異次元になるな。何だか頭が痛くなってきたため既読スルーする。そろそろ、こいつに俺が好きなのはおやぢではなくレースクイーンであることを知らしめる必要があるな。いや、言ったら言ったで面倒くさそうな展開になるのが目に見えてる。レースクイーンの中身をおやぢにエクスチェンジしやがるだろう。悪夢でしかない。
「冷静に考えたらマジで頭おかしいな、あいつ。ナニ目的で俺をおやぢ痴漢者に仕立て上げようとしてんだ」
朝の車内で溜息を吐く。
俺が利用している電車はローカル線で利用者が割と少ない。座席は例のごとく死相が漂う社畜勇者で埋まってはいるが、ギュウギュウ詰めになるほどのラッシュではなく、ゆとりあるゆとり仕様の空間である。
いつもならエロサイトを巡回しつつ、暴力的な言語が飛び交うあたおかアニソンを聞いてるのだが、一昨日の痴漢騒動からかエロサイトやハレンチ漫画を見ていると脳内につぶらな瞳をしているおやぢの顔がフラッシュバックしてしまうため、一時的にやめている。病気かな?
「心療内科でも行こうかな」
医者の力を借りるのも良いかもしれない。
あれやこれやと謎なドラッグを勧められるかもしれないが、薬の力に頼るのも悪くない。
『先生、僕の頭の中にハ●太郎みたいなおやぢが棲み着いてるんです、どうにかしてください!』
……。
ただの異常者だと思われるかもしれないし、変な教祖を紹介されるかもしれないので辞めておこう。
特に電車の中でナニもやることがないので吊革に掴まって無心になる。頭を使うと、酸素を使いカロリーを消費する。つまり、頭を使うと疲れるのだ。疲れると甘い物が欲しくなるので贅肉になる。悪循環である。つまりは、無心サイコー。余計なことを考えている時点で無心ではないのだが、人間誰しも、一時のボッチタイムが必要なのである。
「……ハッハッ、ヘッヘッ」
何か背後から犬みたいな息遣いが聞こえる。
何だ。何処ぞの馬鹿が車内にペットでも持ち込んでいるのか?余計なトラブルはごめんなので注意するつもりはないが、迷惑な奴だな。
どんな馬鹿が犬を連れ込んでいるのか一目確認してやろうと首だけ動かし、横目で背後を見る。
「ハッハッ、ヘッヘッ……か、可愛い……とぉおおおってもかわゆいですね……ヒヒヒッ」
しゃがみ込んで下から覗き込むように俺の尻をまじまじと観察しているヤバい女がいた。
「…………」
「触ったり、舐めたり、嗅いだりしたいけど……まずは拝もう、アリガトゴジャイマシタァアアア!!」
普通にやばい台詞を吐きながら俺の尻の前で手を合わせ、いきなりシャウトする。うるさっ。
え?
普通に怖い、何なのこの女。どっから沸いて出た?
もしかして、俺氏、貞操の危機?
「そ、そうだ……写真、記念写真を撮ろう。それから、それから……魚拓」
魚拓って何だよ、普通に怖いんですけど。
え、待って?これってもしかして高度な痴漢現場に遭遇してる?痴漢に高度も低度もクソもないのだが、このままだと俺の尻は酷いことになるかもしれない。しかし、後ろの女の奇々怪々な物言いに恐怖を感じて動けない。
「ご〇んですよがいいかなあ、のりたまがいいかなあ、ここは変化球で食べるラー油で……」
俺の尻にナニするおつもりですか?
意味不明でキモくて頭がついていけないんですけど。二つの意味で美味しく頂いちゃいます、とかそんなアブノーマルで猟奇的な感じですか。何で朝からこんなレアモンスターとエンカウントするだよ。異世界じゃねえぞ、ここは。
「あの……」
「ギャア!! ちい〇わが、シャベッタアアアアアア!!」
うん?いまなんて?
「俺のお尻に何か用があるんですか……」
「はわわ、はわわわわ!! スミマセン、ゴメンナサイ、ハイ、私はナニも知らなかったですね、エエ、私はナニも知らなかったですよう~、ハイ」
謝りながら自己完結しないで欲しい。
ていうか、お尻に何か用とか俺の言い方もおかしかったかもしれない。
「いや、ふ、普通に痴漢しようとしてませんか貴女?」
「ギャアアアアアア!! 違うんデス!! 違うんデス!! 私、チカンじゃないデス!! あなっ、あなっア●ルがチカンデス!!」
俺に痴漢しようとした怪しい少女は奇抜なピンク色のロングヘアーを振り乱し、シャウトする。うるさっ。
やばい、錯乱しすぎてトンデモないことを口走ってるぞコイツ。目の前のヤバイ女のヤバイ挙動を見て何故か冷静な気持ちになった俺。最近、ヤバイ奴を相手にしてたからちょっとだけ耐性がついたのかな。
ていうか、この女もヤバイが周囲の状況もヤバイ。このままではまた駅員さんが召喚されるかもしれないので目の前の少女を落ち着かせることに徹するのが得策だろう。
「落ち着いて深呼吸して」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
何で妊婦さんみたいな呼吸?
「落ち着いた?」
「……はい、落ち着きました。ありがとうございます、パパ」
「パパって言うのやめて? えっと、落ち着いて聞いて欲しいんだけど……俺の尻を見てたよね、君」
「は、ハイ……わ、私、可愛いモノに目がなくて……ついつい、どうにかしてしまいそうになるんです」
ヤバイ少女は頬を両手で押さえ、悩ましい表情を見せる。俺の尻って可愛いモノなの?
「それで、ナニをしようとしてたの?」
「アア!! 違うんデス!! 貴女のお尻が、ち●かわに出てくるキャラにそっくりで、ううっ、愛くるしさについコーフンしてしまったのデス……!!」
顔を両手で覆い、恥ずかしそうなジェスチャーをする少女。思った以上に重傷であった。とりあえず、関わるとろくな事にならなさそうなので会話を切り上げることにする。
「大事にしたくないからさ、今日はお互いこれっきりってことにしない?」
「おっオッオッ、オオウ……!! 有り難きお言葉、貴方様の背後に後光が見え隠れします!!」
そこはハッキリ見えるって言えよ。
「分かりました! これ、私のラインIDデス!! 後日、絶対お礼をしますのでヨロシクオナシャス!!」
なんでやねん、これっきりって言いましたやん。
ヤバめの少女は着いた駅に降り、改札に通じる階段をフラフラと小走りで駆けていった。動作が完全に酔っぱらいのソレ。
薬師寺蝉子のライン、GET!
捨てたいけど、何か呪われそうだからやめよう。