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guilty 38. ヤバい女にバッティング勝負を挑んだら初球で終わっていた

「お、おい、櫻井! 遊びに行くってこんな時間からどこに行くってんだよ」


 俺は前方を軽やかにスキップするような歩き方で進む櫻井に声を掛ける。もうすぐ夜の帳に包まれる時間帯。そして、先ほどの櫻井から仄かに感じた香水も相まって何だかいけないことをしようとしている気分になってドキドキしている。


 いや、普通にキモい。あり得ない展開に興奮している自分に心の中で吐きそうになったわ。こんな醜い感情を櫻井に悟られぬよう無表情に努める。こんな感情がバレたら今風のクソガキみたいに煽り散らかされ、おちょくられるに決まっている。まあそんなことをされたらうっすい絵本みたいに滅茶苦茶に反撃してやるだけさ。勿論、心の中でな?


「何処に行くか気になります? あ、念の為に言っておきますけどもうすぐ夜になるからって私にホテル街に遊びに行くとかそういう下ネタを振ってきたら去勢しますから。先輩はあそこで寝ているオジサンと乳繰り合っていればいいんです」


 櫻井はシャッター前で寝ている泥酔中なのであろうスーツ姿のバーコードおじさんに指差す。お前が俺に下ネタを振るのはありなの?相変わらずオジサンを見掛けるとヤバい女スイッチが入るなこいつは。世間的にはイカれた女であることは疑いようがない。


「は? ふ、ふざけんな。ほ、ホテル街とかそんないかがわしいことを考えたとか、ない、ないわよ」

「はあ、まあミトコンドリアみたいな単細胞のチェリー先輩ならばそんな中学生みたいなしょうもないエロエロな妄想でもしているのじゃないかと勘繰ってしまいまして、あ、図星でしたね……フフッ、ちっぽけな自尊心を傷つけちゃってサーセン」


 櫻井は振り返って鼻で笑う。

こ、このやろう…ワンフレーズの中でどんだけ俺のことを馬鹿にしたら気が済むんだ。何だかシリアス気分が吹っ飛び、ムカムカしてきたぞ。ヤられっぱなしは癪である。何か仕返ししてやらないと気が済まない。普段はチワワみたいに温厚な俺であるが、ベッドの上では獰猛なオオカミになれるってところをこいつに見せつけてやる。


「あ、ああ、そうだよ。エロエロな妄想をして何が悪い。男は皆、脳と下半身が繋がっている生き物なんだよ。馬鹿にしないでよね」

「何を開き直っているんですか。まあ、先輩の場合は頭の中でオジサンを滅茶苦茶にしてるから許してあげます」

「何が許して上げますだ、何がオジサンだよ。ちゃんと女子も頭の中で滅茶苦茶にしてるよ、勿論、不愉快だがお前もな」

「な、何を誇らしげな佇まいと顔で犯罪自慢をしているんですか……って、はああああ!?」


 ボンッと火山が噴火したかのように櫻井の表情に劇的な変化が現れる。うん?ついカッとなって売り言葉に買い言葉じゃないがその場のノリで何も考えずに言い返してしまったような気がする。あれ、何かめっちゃいまヤバいことをカミングアウトしてしまったような気がするんですかだっだれがダレカタスケテ…。 


「アッ、アノ、イマノハジョウダンダヨ?」

「…………」


 めっちゃ紅潮した怒頂点な表情で親の敵かってくらいに櫻井に睨まれてる。今にも噛み千切りますってな感じで。コワッ、何故だか下半身の一部分がサヨナラ~って笑顔で離れていくような恐ろしい感覚に襲われた。イヤ、待て、笑顔でいくな俺の分チン。


「…………ふう。まあ先輩も殿方ですからね。おじさんと私のエロエロな姿を妄想してオカズにするのも無理はないです。そこは仕方がないですが、私を辱しめた罰としてあそこで寝ているオジサンのご立派なお腹を撫でて『生まれてくる子は俺とオジサンのどちらに似てるかな~、楽しみでちゅねえ~』って妊婦さんゴッコしてきて下さい。それで今のは不問にしてあげます」


 シャッターの前で思い切り毛むくじゃらな腹を出して爆睡しているタンクトップオジサンに指を差す櫻井。何とか怒りを鎮めはしたが、今度は仕返しがエゲツナイことになった。ていうか、お前はともかくオジサンのエロエロな姿を妄想してオカズにするとか身の毛もよだつことを平気で口にするんじゃない。

 

 てかヤバい、平気で社会的に俺が死ぬ罰ゲームが宣告されたぞ。ち、畜生、調子に乗ってセクハラ発言するんじゃなかった。あと、まだ夕方なのにシャッター前で泥酔してるオジサン多すぎじゃない?


「あ、あのですね櫻井さん? そ、それだけは堪忍して出来れば他の罰ゲームを用意してもろて」

「良いですよ。あそこで寝ているオジサンのヘソの緒にディープキスを三十秒してきて下さい。私がしっかりと秒数を計測しますから」


 罰ゲームが死のゲームになっているんですけど。


「いやいや、酷い酷い、吐き気がする。お願いですから罰ゲームはオジサン関係から離れてもろて」

「我が儘な人ですね、仕方のない人です。それなら他の罰ゲームを考えておきます。後日発表しますからそれまで楽しみにしておいてください」


 いや全然楽しみじゃないし、楽しいのはお前だけだろ。オジサンのヘソ舐め刑からは免れたが、今度は何を要求してくるか分からなくて不安だけが募る。櫻井のことだから、裸エプロンで滝行とか舌だけで便所掃除とか鬼畜な罰ゲームを言いそうだ。


「で。それはそれとしてさっそく遊びに行きましょうか。どこかこのあたりでオススメのスポットとかありますか、先輩」

「考えてなかったんかーい。あるっちゃあるけど、フフン。櫻井さんよ、お前は日本の代表的なメジャーなスポーツである『やきう』って球技を知ってるかい?」


 俺は素振りをする動作をしながら櫻井に聞いてみる。自慢ではないが、俺は中学生の頃に少年やきうチームに所属していたのだ……三日間だけだけど。カッコつけてスライディングからの足首を骨折したのは今でも苦い想ひ出である。


「馬鹿にしてます? 日本で知らない人の方が希少種だと思うんですけど。目●親父みたいなタマをライト●ーバーみたいなシバき棒で叩いて出来るだけ遠くに打ち返しつつ、その間に狂った口裂け女みたいにダイヤモンドを駆け回るんですよね。各ポジションがあって剣闘士みたいな人たちが必死な形相で守護するスポーツですね」

「ルールの例えがカオスで異世界で人間と妖怪の宇宙大戦争みたいになっとる。ま、まあ、概ね合ってるけどその『やきう』の攻撃側のバッティングはご存知かな」

「先刻から何ですかそのノリ、なんかムカつきますね。先輩は私のことを未開地の先住民か何かと思ってませんか? それも知ってます。バットで先輩のお尻を思い切り叩くやつですね」

「それ只の俺だけが痛い罰ゲームのやつ。しかし、知っているなら話が早い! バッティングセンターでどちらが多く球を打てるか勝負だ!」

「エー、何で急に元気になっているんですか。そんなキャラじゃないですよね先輩。私、遊びに行くとは言いましたけど勝負しましょうなんて言ってませんよ」


 櫻井は引き気味の顔で俺から少し距離を取る。

確かに俺から勝負しようとかちい●わがポケ●ンに友情出演するくらいにあり得ないイベントなのだが、先刻の涙目の櫻井を見ているとこいつと勝負したくなったのだから仕方がない。俺は自分の気持ちに蓋をできない外見は陰キャでありながらも心は陽キャな陰陽キャラなのである。何か陰陽師みたいでカッコいいとか思ったのは気のせいかな。


「うるせえ、そんなキャラじゃないとか悲しくなることを言うな。男なら黙って星●徹だろ。ちゃぶ台をひっくり返すぞ、コラ」

「私、女なんですけど。まあ、いいです。どうせ先輩のことだから素振りからの腰痛からの複雑骨折でリタイアがオチですよ」

「ふ、ふざけるな。素振りからどうやったら複雑骨折にレベルアップするんだよ。舐めやがって……見てろ。メジャー選手もたまげて赤ん坊のようにゴロゴロとオギャア泣きしながら転がるようなビックリ仰天な勇姿をお前に見せてやるぜ」

「想像すると面白いリアクションですけど、良いですよ。自分でいうのもなんですが私、昔からスポーツ関係なら卒なくこなせたので。私に挑んだことを後悔しても知りませんよ?」


 櫻井は制服の腕を捲り、やる気な表情になる。

フン、いくらお前がスポーツ万能であろうと少年やきうで培ってきた俺のやきう力がある。俺のやきう力でお前の自尊心をブッ壊してやる。


 ──リザルト。


 櫻井は15球中、ポテゴロもあったが全球打ち返し、対して俺はというと……。


「……まさか本当に腰を痛めるとは。盛大なフリ、ありがとうございます」

「うっ、うるせえ! ちょっちょっと運動不足が足を引っ張っただけだよ。明日から頑張るよ」

「それスポーツで一番言ったらいけない敗因じゃないですか。でも、本当に大丈夫ですか? 初球から盛大にずっこけて赤ん坊のようにゴロゴロとのたうち回ってましたけど」


 自尊心をぶっ壊されたのは俺でした。


 今でも思い出すだけで悔しくて仕方がない。櫻井の言う通り、俺は初球で思い切り空振り、腰を痛めてしまうというみるも無惨な醜態をさらしてしまったのである。休憩したら少し回復したので担架で運ばれる程ではなかったのが不幸中の幸いであった。今はフードコートで休憩中である。


「良かったらマッサージしてあげましょうか、昇天させてあげます」


 ファッ!?

櫻井は急に真剣な顔してそんなことを普通に口にする。マッマッサージ?昇天?い、いったい、ナニをするおつもりなのでしょうかわたし、とってもきになります!


「でっ、ででで、電マでマッサージからの昇天とかいきなりトンでもないことを言うなよ!」 

「……電マでマッサージとか一言も言ってないですけど。何を興奮してるんですか、変態さんですか」


 フッと小馬鹿にするような顔で俺を冷静に見る櫻井。クッ、またからかわれた。クッソ、今度こそ仕返し……いや、先程の二の舞だ。櫻井に一発浴びせたらカウンターで五、六発貰うイメージである。トータルでみると俺のダメージがえげつないのでやめよう。


「……あ。そうだ思い出した。委員長もとい佐々木からお前に伝言があるんだった」

「え、佐々木さんってあの挙動不審で変な方のことですか? 何故、私に?」

「まあ、その挙動不審な人からだよ。いや、何かお前と詩織に会いたいから都合つけてくれってさ」

「私と詩織さんに? 何でその組み合わせ何ですか?」

「いや、どう考えても俺の妹関係だろ。お前が俺の本当の妹じゃないとばれちゃったからな。委員長が何をしたいのか良く分からんが」

「えっ、私が先輩の妹とかキモいですね。しょっぴかれて下さい」


 櫻井は苦虫を噛み潰したような表情で俺を睨む。

いや、君もノリノリで演じてたよね。鳥頭かな。


「まあ、先輩が行くなら私は良いですよ。また、日程が決まったら教えてください。さて、そろそろ今日は帰りましょうか」


 櫻井は椅子から立ち上がり、身支度する。

早いな、決断が。あれだけ詩織と言い合っていたのに詩織に対してまるで抵抗や苦手意識を感じられない。うーん、詩織と反応が正反対だけにますますどういう関係なのか気になるな。


「……それと。今日はありがとうございました。ば、バイバイ」


 俺が返事をする前に櫻井はそそくさとそう言いながら帰ってしまった。早いな、トイレでも我慢してたのかな。


 ん、バイバイ?


 なんか耳が赤くなっていたような気がしたが、まさかな。

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