guilty 33. 闇属性の委員長が絡んできたと思ってたら実は桃属性で頭が混乱した
最寄り駅のトイレで制服から体操服に着替え、学校に向かう。理由は察して欲しい。悪夢のような朝のアタオカとの攻防に疲れきった俺は身体を引きずるようにして自分の教室に入る。人身事故の影響で遅刻にはなったが、遅延証明書を受け取ったのでそこは問題ない。寧ろ俺の主に下半身に人身事故が起きたのが問題というかなんというか。
遅刻するタイミングが良かったのか、一限目が終え、隙間休憩中なのだろう。生徒達が仲の良いもの同士で談笑している。俺が教室に入ると皆々様が俺に注目する。俺にというか、俺の体操服姿に驚いているのだろう。やめて、恥ずかしい。
「よお、桂一郎! 今日は重役出勤だな。朝から一人エッチして遅刻したのか?」
「朝からいきなり意味不明なことを言うな。俺の乗っている電車が人身事故で遅刻したんだよ」
「そうかそうか、それは災難だったな。ところでそのコスプレはどうしたんだ?」
「コスプレ言うな。いや、事情は聞かないでくれ……不幸に不幸が重なる事故があったんだよ……あれは酷い事件だったね……」
「? まあ、美人局みたいなコスプレで教室に入ってくるから何事かと思ったけど、桂一郎がそういうなら無理には聞かないよ。辛いことがあったんだな」
折原はやたら優しげな瞳で俺を見つめ、肩をポンポンと叩く。絶対こいつなんか変な誤解をしている。ていうか、学校指定の体操服を美人局みたいとかいう発想が頭がイカれてるとしか思えない。これから体育の度にクラスの女子を変な目で見てしまうわ。
「あっそうだ聞いてくれよ桂一郎。昨日みたビニ本でさ、ベビー服を身に纏った熟女がさ」
またきた、ねっとりねちょねちょ系のエロ話が。
ていうか、親身になって俺の話を聞いた直後に崖で背後から蹴り落とすようなエゲツナイ行為はやめて欲しい。ゲッソリ腹を下した直後のような顔で、折原の話を聞いていると背後に人の気配がした。折原の戯言を無視して振り返ると、我らが委員長もとい佐々木が仁王立ちで立っていた。エッ……いつから俺の背後まで接近してたの?コワ…。
「……遅刻に、ワイセツ物陳列に、不純異性交遊……マイナス一億ポイントね」
委員長は病んでるような暗い瞳で、俺を見つめながら独り言のように呟く。遅刻は分かるけど、ワイセツ物陳列ってな、何のことだろう。不純異性交遊って昨日のことを皮肉で言ってるのか。ていうか、マイナス一億ポイントって何のポイント?いったい何の査定をされてるの俺?怖い、何かいつもの委員長とは明らかに様子が違う。
「あ、またかよ委員長! 俺と桂一郎は熟女乳児の話で盛り上がってたんだぞ! 邪魔するなよ」
「熟女乳児? 何それ、日本語が壊滅してるわよ。あんた達の毒にも薬にもならない異星界話には興味ないの。それより、ちょっと植木……」
委員長は折原を軽くいなしながら俺の耳元に顔を近づける。ドキッ……え?い、いったい今からナニが始まるというのです?
「昼休み……食堂……待つ……来ないと……コロス……豆パン……」
委員長は俺の耳元で息を吹きかけるようにそれだけ言うとそのまま自分の席へ戻っていく。……え?なに、今の。脅迫系ASMRかな。なんか、コロスとか物騒な単語が聞こえてきたけれど。怖……普通に喋ってよ。ていうか、豆パンって何?豆パン買って昼休みに食堂に集合だおらとかそういう感じなのかな。怖…普通に喋ってよ。
「何だ、圭一郎……随分と委員長様と距離が近付いたような感だな。休み中に何かあったのか?」
「嬉しそうな顔をするな。いや、あったというか終わったというか」
「俺な、桂一郎に隠してたんだけど実は特殊能力があるんだ」
折原はニヤリと待ってたぜみたいな得意気な顔になる。いきなり何の話だ?熟女の服が透けて見えるとかそういう折原以外得しない能力かな。
「聞いて驚け、読唇術が使えるのだ。先刻、お前の耳元で呟いていた委員長の口の動きから委員長がお前に言ってたことが俺には筒抜けなのさ」
「……ほう、言ってみろよ」
「『圭一郎……愛してる……愛してるの……一万年と二千年前から愛してる……ンチュうううう』」
折原は口を付き出して裏声でそんな台詞を恥ずかしげもなく口にする。全然違っていて心の中でちょっと笑ってしまった。タコみたいな顔した折原をしばきたくなったが、きっと元気のない俺を察して励ます意味で折原なりにふざけて言っているのだろう。
「ありがとな、折原」
「へへッ、良いってことよ。俺の読心術がこんなところで役に立つなんてな」
謎の友情が芽生えた握手をする俺と折原。
ん?あれ?読唇術とか言ってなかったっけ?まあ、いいや……最近色々なストレスに苛まれて疲れているからな。俺の頭も少しおかしくなっているかもしれない。
キーコーンカーンコーン
折原としょうもない話をしていると予鈴の鐘が鳴った。うちの高校は予鈴の3分後に本鈴が鳴り、本鈴とともに授業が始まるという親切設計である。
「おっと、先刻の話の続きを忘れていたな。ベビー服を身に纏った熟女がな、男優の前でオシメを広げて思い切り開脚するのがサイコーでな」
ところで、このサイコ●スは何時になったら自分の席に戻るんだ?
「おい、予鈴が鳴ったぞ。自分の席に戻れよ」
「まだワッフルが焼けるくらいには時間があるだろ、だべろうぜ」
「はあ……なあ、折原。今朝の委員長の様子、何だかおかしくなかったか?」
「委員長? 普段は絡まないからなあ……何か怒らせるようなことをしたのか? 背後からスカートをめくってラッキースケベみたいな」
「ふ、ふざけるな……そ、それはラッキースケベじゃなくて只のスケベだろ。休日に同級生のスカートめくってラッキーとかどんな不審者だよ」
「休日なんて俺は一言も言ってないけどな。桂一郎~やっぱり、昨日なんか委員長と一悶着あったな~」
ニヤニヤとしながら服の上から俺の乳首をグリグリする。クッ、会話の隙を見せた俺が悪いがこいつも変に察しがいいからな。
「まっ、桂一郎が言いたくないら無理に言わなくても良いけどな。でも胸の内に溜まったムラムラは吐き出しといた方がスッキリすると思うけどな。床オナみたいに」
「最後の一言が余計過ぎる。分かったよ、自分では解決出来なさそうだったら相談させてもらうよ」
「おうよ。ところで桂一郎よ、お前の乳首を愛撫して思ってたんだが……変なシコリがあるぞ」
「不安を煽るような嘘はやめろ」
キーンコーンカーンコーン
昼休みを告げる鐘が鳴った。
俺は弁当を作ってくれる優しいお袋や妹は存在しない。存在しないというか、正確にはお袋や妹は食べ物をゴミに変換する特殊能力持ちであるので、弁当を作れないという表現が正解か。唯一、親父が食える物を作れるのだが、平日は両親とも仕事で多忙であるため流石に弁当を作ってくれと要求するのは憚れる。だから、大抵は食堂でメシを食うか、教室で適当に買ってきた惣菜パンを食うかの二択になる。
「さあ、メシを食うぜ……今日はチキンカツの気分だぜ」
以前に、唐揚げオンリーと言ったような気がするがすまんな、あれは嘘だ。俺はチキンカツも愛している。
チキンカツ定食(¥400)と書かれた食券を買って、食堂のオバチャンからチキンなカツが乗ったトレーを受けとる。トレーを受け取る際に、俺の体操服姿を見たオバチャンから『美人局かの?』と小声で呟かれたが俺の聞き間違いだろう。
そして、食堂のテーブルに向かうと既に顔見知りの知り合いが座っていた。
「……よ、よく来たわね」
朝とは打って変わって何故か少女のようにモジモジとした委員長がいた。エェ……朝の闇属性の委員長はどこにいったの?