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guilty 30. ヤバい女が俺にNTRを強要してきた

「やばい、ヤバすぎる……」


 俺はスーバー銭湯並みに無駄に広くてゴージャスな脱衣所を前に焦っていた。別にヤバいとはタカビーな脱衣所のことではなく、俺の貞操的な意味である。流しっこしてあげようかとか恐ろしい冗談をぶち撒いていたあの時の美夜さんは顔はスマイルでも目は本気とか書いてヤル気マンマンであった。薬師寺サンに至っては舌先をグルグルと円を描くように回しながらアへ顔で俺を凝視していた。妖怪過ぎる。


「このままじゃ、ヤられる」


 ナニを?とは考えたくもないが、敵の本拠地で無防備に全裸で湯浴みを楽しむほど馬鹿ではない俺である。このままでは人妻と妖怪に色んな所を思う存分に流しっこされて…嗚呼、なんということでしょうか。チルドレンにはお見せできないような阿鼻叫喚な地獄絵図に陥ってしまうことでしょう。何とかしないと……焦っていると突然手持ちの携帯から着信音が。藁にもすがる思いで電話をとる。


『もしもし、兄さん? 今何時だと思っているのですか? いったい何処をほっつき歩いて』

「た、助けて……ヤられる」

『……はあ?』


 電話越しの詩織は姿は見えないが、なに言ってんだこいつな顔をしているに違いない。しかし、さしかかる身の危険に動揺しまくっている今の俺は冷静な判断ができず、つい電話の第一声で意味不明なことを言ってしまう。


『ふざけているのですか?』

「ふ、ふざけてなどいない……ちなみにヤられるとは俺の愛くるしい赤ちゃんが身籠っちゃうという意味だ、バブー!! オッパイ、ヨコセー!!」

『……やっぱりふざけていますよね? ふざけていないのなら脳外科をオススメします』


 ヤバい、焦っているのに電話越しで妹にクレイジー赤ちゃんプレイを披露してしまった。細目で屑を視るような瞳をしている詩織の姿が浮かぶ。ヤバい、なんかちょっと興奮してしまった。


「い、いや、違う……拉致られたんだ、オカルトファミリーに。そ、そして……女体盛りからの風呂だ……風呂に入れられて無防備なところをこれでもかって掻き回すように責められるんだ……嗚呼、ホラーだ……ホラー過ぎる」

『……はあ。私、兄さんのポエムにいつまで付き合わないといけないのでしょうか』


 電話越しで詩織はため息を吐く。

おかしい、事実を述べているのにポエム扱いされちゃう。信じてくれない、兄さん泣いちゃう。


『漫才をしたいんじゃないんですよ、兄さん。私、怒ってるんです。早く帰って来てください』

「ほ、本当のことなのだあ!! し、信じてくれなのだあ!!」

『何故急にハム太●みたいな口調に……エッ、兄さん今どこにいるのですか?』


 引き気味の声ではあった詩織だが、俺の悲痛なハム声を不審に思ったのか詩織は居場所を聞いてきた。


「あ、ああ……こ、ここは薬師寺サンのハウスだ」

『は? 薬師寺サンって誰ですか……って、キャッ』


 しまった。

詩織は薬師寺サンと一切面識がない。どうすれば……と、考えていると電話越しで騒ぐような聞き覚えのある女子の声が聞こえてきた。


『先輩!! 今、どこにいるのですか!?』


 詩織に代わって櫻井の声が聞こえた。

……どうしてキミが出るんだい?キミはお呼びじゃない、どうかお引き取り下さい。


「…………」

『もしもし、聞こえてますかー!! アッ、久しぶりにわたしの声を聞いて感涙しちゃってる訳ですねー、ほらほらー、そろそろおぢさんのお痔さんが恋しくなっちゃいました?』


 あの、前後の話に一切の繋がりがなくて頭がおかしくなっちゃうんですけど。間違いない、この声とイカれた内容を話す奴は櫻井である。な、なんで、詩織の傍にコイツが?君たち、犬猿の仲だったよね?どうしてYOUがここに?


「久しぶりって、つい数時間前まで一緒にいただろうが。ていうか、なんで仲の悪い詩織とお前が一緒にいるんだよ」

『そんなことどうでもいいじゃないですか! それより聞きましたよ、団地妻に寝取られそうになってるって!! 私は許しませんよ!!』

「私は許しませんって……お前はいったい今まで何を聞いていたんだ? 夢小説はお前の頭の中だけにしてくれ」

『先 輩 の 正 室 は お ぢ さ ん だ け に し て く だ さ い ! !』


 必死な櫻井の絶叫に近い声が俺の鼓膜に響く。

怖……バケモンかよ。マジ基地過ぎる。人の話を聞かないどころか自分の激ヤバ主張で殺意を持って俺を殴りかかってくる。分かってはいたが、薬師寺サンとは違う方向でヤバい女である。


「はいはい……分かったから詩織に代わってくれ」

『イヤですよ、黙ってられません! 先輩がどこの馬の骨か知らない性欲丸出しショタ好きオバサンに寝取られるくらいなら私が寝取りますよ』

「性欲丸出しショタ好きオバサンって……いや、私が寝取るってお前、自分が何を言ってるのか理解してる?」

『……う。セ、セクハラですね、自首してください先輩』


 先にセクハラされたのは俺なんですけど。


『い、いいですか先輩! 先輩を寝取るのは脂の乗った生きの良いハゲ散らかしたポヨポヨおじさんなんですからね?』

「字面が地獄過ぎる……何でもない感じで普通に聞くんじゃない」

『そ、それとも先輩は……私に寝取られたいんですか?』


 少し戸惑うような声色で俺に聞いてくる櫻井。

……んッ?あれれ?何でフラグが立ったの?今のどこにフラグが立つ要素があったの?意味分かんない。


「は……ざけんな、おぢさんおぢさん連呼してるお前に寝取られたいとか何の冗談ですか? 冗談も休み休みに言」

『兄さんッ!! このッ……櫻井さんにめちゃくちゃに犯されたいってどういうことですか!?』


 話してる途中で急に電話を代わるのやめて。


「いや、何でそうなる……詩織、お前まで櫻井の戯れ言に付き合うつも」

『戯れ言ってなんですか戯れ言って!! 私は真剣に考えてるんですよ、先輩とおじさんのヴァージンロードを!!』


 だから、急に電話を代わるのやめて。頭が混乱しちゃうよう……。


「俺とおじさんのバージンロードとか殺傷能力のある口撃はやめろ。ていうか、お前らいい加減にし」

『さ、櫻井さんどころかおじさんにも犯されたいなんて……妹にNTR願望を抱かない兄さんに絶望しました』

「…………」

『フッフー! 分かりましたか詩織さん!! 先輩はですね、妹属性じゃなくておやぢ属性なんですよ!! 妹……いや、今日から貴方はキモウトです!!』

『き、キモウト?! な、何ですかそれ! ふざけないでください!!』


 電話越しで俺を無視した櫻井と詩織の攻防が聞こえてくる。実はコイツら仲いいだろ、超がつくくらい。電話越しでも揉み合っている姿が容易に想像できる。いや、マジでコイツらなんで嫌いあってるのに行動を共にしてるの?行動が不可解すぎて不気味大福なんですけど。


 ツー、ツー……。


 揉み合いの中、スマホが落ちたのか通話がきれてしまった。は?いや、何だったの……この無駄な時間。い、いや待て。は、はやくもう一度、電話を掛け直してSOSを。


 ガタッ……。


 俺の背後で脱衣所の扉の動く音がした。 

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