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guilty 29. メンヘラ女の身内はやっぱりアレだった

「ウフフ、貴方が蝉ちゃんの扶養……フレンズの植木くんね」


 俺を背後から目隠ししてきたのは漫画から飛び出してきたような金髪ロングのお姉さんであった。え、誰?どちら様ですか?ていうか、扶養…何て言おうとしたの?扶養家族?扶養控除?扶養内確定申告?何れにしてもロクでもなさそうな不穏な単語である。


 しかし、驚いたな……いきなりトンデも美人出てきてビビる。心臓をギュっと鷲掴みされたような気分になったぞ。そう言えば薬師寺サン、『ママ』とか言ってたな。エッ、マジで?容姿とか雰囲気とか表情とかもうその他諸々、ハッキリ言って同じ血が流れているようには見えない。


「は、ハニー……こ、この人は?」

「……ヒヒンッ」


 いや、ヒヒンッじゃなくて。

君の悪魔より悪夢のようなエグい表情は誰も求めてないです。ていうかそれはどういう感情ですか?お前を呪殺します的な?それは兎も角、早くこの方がどなたか貴方の口から正式に紹介してもろて。


「こ、ん、に、ち、わ、は……ふううう~……」

「ヒャンッ?!」


 突然、右の耳穴に生暖かくて気持ちの良いナマ風が入り込み思わず少女のような悲鳴を上げてしまう俺。な、何だあ……ウワアア!謎のお姉さんが俺の真横に瞬間移動してる!ウワァ……ワッワッワッワァァァイ?(歓喜)


「ヒャンッ、だって。かーわいいんだ」


 俺が小動物のようにアタフタしていると俺の鼻先を人差し指でツンツンつついてくるお姉さん。ウッ、女子特有の良いスメルが俺の鼻腔を刺激するぜッ。だ、だめだ!陰キャの俺にとってあまりにも美人すぎる方の至近距離からの口撃は耐え難く、俺を無能なチワ男(※チワワ男子)に変えてしまう。


「ワッ、ワッワッワァ……ワ゛ンッ」

「フフッ、エサ不足で空腹を堪え忍んで御主人を涙目で見つめている身も心もボロボロになったヨワヨワチワワみたいにプルプル震えてて可愛い……」


 美人なお姉さんは俺の耳元で息を吹き掛けるように呟く。スンッ……いや、表現。表現がいちいち酷いんだよなあ。しかしである。大の男子高校生が超絶美人に可愛いとか言われては正気ではいられないでしょうか?いかん、気が動転して思わず日本語が変になってしまった。


「ああああ゛っ!! ママとハニーは何を二人でASMRごっこやってるの!? 離れろ! 離れろギャオオオオオオン」


 すると、今度は目の前にいた薬師寺サンが到底女子とは思えないような野太い悲鳴を上げながら俺と美人お姉さんを引き剥がす。相も変わらず情緒が安定しない薬師寺サンである。


「あら、あらあら……やだ、私ったら……うっかり。ごめんね、蝉ちゃん。貴方のフィアンセに手を出しちゃって、うふふ」


 美人お姉さんは口元を隠し、賑やかに微笑む。いや、フィアンセちゃいますけど。


「ハニーも! 鼻の穴を伸ばしてニヤニヤしないで!! 浮気なんだからね!!」


 薬師寺サンはママからフィアンセとかクソみたいなデマを言われて満更でもないような顔でシャウトする。いや、これっぽっちも浮気じゃないっス。そして鼻の穴を伸ばすってどういう状況?えっちな拷問かな?


「アッ、えっと……薬、じゃなくてハニーさん? こちらのお綺麗な美人はどなたでしょうか? そろそろ紹介して欲しいんですけど」

「ママを見て勃起してるハニーなんて知らないッ!」


 薬師寺サンは俺のおチワワな状態にイライラしたのか、俺からソッポ向いてスネ夫くんになってしまう。人妻の前で勃起してるとかシャウトするのやめて。


「ウフフ、この子ったら嫉妬しちゃって。ごめんなさいね、私はこの子の姉の美夜(みや)よ、宜しくね?」

「マ マ ! ! ふ ざ け な い で ! !」


 美人なお姉さんもとい美夜さんが俺に自己紹介すると薬師寺サンは美夜サンに掴みかかるような勢いで怒りをぶつけている。いや、さっきからママと連呼していたから薬師寺サンの母君なんだろなとは思っていたけれど。しかし、美夜さんか。名は体を表すと言うが本当にソレを実感するな。冬の夜空のように澄みきったキミはとってもビューティフル……何故、唐突に鳥肌ポエム?お、俺、KIMEEEEEE!!


「はあ、あの、俺はしがないポエマーの植木桂一郎と言います」

「うふふ、知ってるわよ。ポエ木くんのことは美昼(みひる)から聞いて知ってるわ。それに蝉ちゃんから毎晩、壊れたテープレコーダーのような口調で植木くんのことは聞いてるからね」


 美夜さんは俺の意味不明な供述にも動じず、女神のように微笑みながらそう口にする。ポエ木くんは勘弁して下さい。み、美昼って誰?ボクの知らない人物が登場したんですけど。


「は、ハニー……ほ、保健室のハニー……」


 俺が戸惑っていると、それを察したのか薬師寺サンはそう口にする。保健室のハニーってなあに?AV女優の肩書きか?分かるような説明をしてもろて。


「ああ、確か美昼は植木くんの学校で保険医をしてるわね、あの子は私の妹なの」


 美夜さんが補足するようにそう呟く。

俺の学校の保険医って、ああ!?行かず後家の大沢大先生のことか!えっ、えぇ……マジで?名は体を表すと言うが本当にソレを実感出来ないな。いや、元々はあの行かず後家先生も名前に違わない可憐な少女時代があったのかもしれない。それがある日突然、ハレンチな悪霊に取り憑かれて現在に至る……と、そう考えれば納得はいく。ウーン、いやアレはきっと性根がアレなんだろうな。うん、やっぱ今のなし。


 ン?待てよ、そういえば折原も大沢先生と親戚だったな。つまりは薬師寺サンも折原と親戚?うーん、この間、教室で偶然というか必然的に顔を合わせた時は塩過ぎる塩対応であったが、どうなのだろう。薬師寺サンの崖からヌイグルミを抱いている不穏なオカルト写メを見ていた時はおぼこいとか正気を疑うような発言をしていたが。


「……というわけで、今日の晩御飯は女体盛りね」


 頭の中であれやこれやと考え込んでいると、美夜さんは両手を合わせて笑顔でそう口にする。ん!え?は?何、なに、ナニ?何がというわけでいつの間にそんな猟奇的なお話しになったの?和やかな雰囲気とまではいかないが、先刻までは只の自己紹介だったよね?


「ウヘヘへ……は、ハニーが全裸で狂喜乱舞する姿が今にも目に浮かびます……じゅるじゅるじゅる」


 薬師寺サンは何故か涎を垂らし、淫猥な目つきで俺を見つめてくる。いや、それ完全にヤバいやつ。目がイッちゃってる。


「うーん。ここで問題となってくるのは女体盛りにナニを使うかなのだけど……」


 何か真剣に悩みはじめる美夜さん。

問題はそこではございません。やべえ、最初は美人な人妻でちょっぴりドキドキしていたが、今は恐怖を感じている。普通な顔して話している分、余計に。やっぱ、血筋か?


「いや……いやいや、待ってもらっていいですか? 色々と突っ込みたいことがあるんですけど……良いですか?」

「色々と突っ込みたい……あっ、パパのファッ●ン済みのダッ●ワ●フなんかも良いわね! なんだかワクテカしてきたわ、ウフフ」


 ヤバい、話も通じない宇宙人だった。

不自然に干からびた一体のダッ●ワ●フを囲みながらワイワイと和やかな雰囲気で食事する異様な光景なんて誰が想像できようか。オカルトファミリーの爆誕である。


「…………」

「……なーんて。冗談よ、冗談。植木くんがいつまでも突っ込んでくれないからオバサン年甲斐もなく元気になっちゃったじゃない、ウフフ」


 話ついていげず、俺が絶句していると美夜さんは右手を頬に添え、微笑む。ハッスルしたらああなっちゃうの?ギャン泣きする赤子もピタッと真顔で黙るレベルの所業だったと思うのですけど。ていうか、先刻から思ってたけどこの人よく見ると顔は笑っているが目元が笑っていない。ほ、本当に冗談だったのだろうか。今まで残念可愛いアレな女子とは接してきたが、残念美人な成人女性は初めてだから接し方に困惑する。いや、残念な成人女性はいたか……まさに、この方の実の妹。俺の心臓を遠慮なく掴んでくるような意味では似た者姉妹である。


「ところで、植木くんは今日は家に泊まっていくかしら?」

「あっアッ……いや、その流石にご迷惑になりますし、今日のところはお暇させていただきます」

「そう、良かったわあ。家は客室が広いから遠慮なく使ってね?」

「は、はい……承りました……」


 有無も言わさぬ異様な笑顔でそう答える美夜さん。ヤバい、どう考えても受け答えが可笑しすぎるのに怖くて普通に了承してしまった。な、なんか催眠的な術でも使っているのだろうか。


「は、ハニーの泊まる部屋に後で行くね……ネグリジェで、楽しみにしててね……しててね……デュフ、デュフフフ……」


 薬師寺サンは一昔前のオタクみたいに笑い、顔を赤く染めている。こんな薄気味悪い奴が深夜にネグリジェ姿で夜這いにやってくるとか目の当たりにした瞬間、俺はカニのように泡吹いて失禁しちゃうかもしれない。


「そ、そうですか……頑張ってください」

「うん、頑張る……ハニーも念入りに綺麗にしててね……? ヒヒッ」


 いったいナニを頑張るというのだろうか、ナニを念入りに綺麗にするというのだろうか。怖すぎるので深夜は誰が来ても部屋のドアは施錠しておこう。


「ウフフ、そうと決まればごちそうの前にお風呂にしましょうね?」


 美夜さんは今思い付いたかのように俺にそう言ってくる。え?いきなり何?直前に薬師寺サンと不穏な会話をしていたから何か良からぬ意図を感じるんですけど。


「い、いや……今日はプールで疲れたし、良いですよ。一日くらい入らなくても大丈夫です」

「だめよ、若い子は毎日お風呂に入らなきゃ。じゃないとくさやとシュールストレミングと臭豆腐を混ぜたような体臭になっちゃうんだから」


 ナニソレ俺の体臭は世界最強かな?


「は、ハニー! そ、そうだよ……ハニーがお風呂に入らないと味見、雨で濡れそぼった犬みたいな臭いになっちゃうんだから! アッでも犬臭いハニーもそれはそれで……じゅるり」


 今、味見って言った?

犬臭いって地味に傷つくな……。しかし、薬師寺サンはなんか良からぬ欲望に関しては分かりやすくて助かる。いや、助かりはしないけれど考えが読みにくい美夜さんと比較して分かりやすい反応をするから事前に対応しやすさはある。


 お、待てよ。

今のこの地獄のような状況から逃げ出す良いアイデアが思い付いたぞ。


「わ、分かりましたよ。あ、でも、着替えの服がないので一度家に取りに帰りますね」

「ウフフ、大丈夫よ。蝉ちゃんから事前に聞いて植木くんに合うサイズの服を用意しているからわざわざ取りに行かなくてもいいわよ。お風呂の脱衣所に用意してあるからね」


 は?ナニその手厚い好待遇。嬉しすぎてションベン出そう。ていうか、何で薬師寺サンは俺のセンシティブな個人情報を知っているの?何でこの人はまだ会ったこともない俺のアッハんな情報を薬師寺サンに聞き出してんの?コッワ……。用意が周到過ぎてこの家から決して逃がしはしないという強固な意図を二人からヒシヒシと感じる。


「へ、へえ……そ、それなら、お家に逃げ、帰らなくても楽チンだ、わあい」

「ウフフ、おばさんが流しっこしてあげようかしら?」

「……ヒエッ」

「……。冗談よ、やあね……真っ赤になっちゃって可愛い、ウフフ」


 一瞬の真顔からすぐさま笑顔になるのやめて。

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