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guilty 25. 水着回かと思ってたらなんか痴話喧嘩が始まっていた

 俺はげんなりしたお気持ちで更衣室からプールサイドに出ると目の前にはこれまたさらにサキュバスに精気をもってかれるような光景が広がっていた。


「ウワッ、ウワワワワッ……ワァ、とってもいっぱいです……うっぷ」


 芋洗い状態を絵に描いたようなプールに思わず吐きそうになる俺氏。元々、人と接することが苦手である俺にとって満員電車のようなプールはまさしく地獄絵図で。それに加え、狂ったようなお日様にさらされたプールサイドの床はまさしく真夏のアスファルト状態で。卵を割ったら簡単に目玉焼きの出来上がり。嗚呼、神様。なぜわたくしがこの様な苦行を味合わなければならないのでせうか。


「ヒャー、アリンコのように人がわんさかいますねー。先輩、今日はどんなおぢさんをロックオンしますか?」


 そして、懺悔室にいる罪人のような気持ちで目の前の光景を眺めていると水着姿に着替えた櫻井が警官のように敬礼しながらプールの様子をまじまじと眺めていた。そうだ、俺の地獄はまだ続いていた。


「何がロックオンだよ、いつものルーティンみたいに言うな」

「エェ~、そんなこと言って実は流れるプールでおぢさんの水着が流されちゃうラッキースケベを期待してるんじゃないんですかー? やだー」


 口許を両手で隠しながら、流し目で俺を見つめる櫻井。いや、なんだよそのラッキー地獄。誰得ですか?『おぢさん』を『美少女』に変えたら只のラブコメになるのもまた性質が悪い。


「お前、俺の顔を見るたび鬼のようにおぢさんおちざん言ってんな。そんなに好きならおぢさんと入籍してこい」

「いやですね、私は先輩とおぢさんが良い感じの良い具合でくんずほぐれつするのが見たいだけですよ」


 櫻井は腕を組み、ウンウン頷く。いや、そんな真面目な顔して答えてもらわんといて。何だろう、目的はわかったが意図が分からないような?いや、狂人の考えていることを理解しようとするのがそもそもの間違いかな。てか、何で市民プールサイドでこんなエグい会話をしてんだ俺達は。


「そ、そうですか頑張って下さい……。と、ところで、委員長もとい佐々木はどうしたんだよ」

「さあ……? もうすぐ来るんじゃないですか? 更衣室で着替えているときに『植木に半裸を只で見られるのは癪ね』とか伊勢海老の体表色みたいな顔して意味不明なことをブツブツとツイートしてたのでほっといきました。変な人ですね」

「半裸て。ていうか、はやく佐々木も来てくれないと困る……」


 いや、待てよ。

いっそのことこれはある意味チャンスじゃなかろうか。もうすぐ詩織とその連中が来ると思うが、まだ俺と櫻井なら誤魔化せるのでは無かろうか。そもそも、委員長が櫻井を俺の妹と認識しているのが問題であって、ホンモノの妹である詩織と委員長が出会えば委員長に嘘がばれ、そして当然詩織にも伝わり阿鼻叫喚な未来が予測できる。だが、俺と櫻井だけならどうだろうか。詩織には嘘はついてないし、櫻井は……まあ、委員長と遊ぶという名目だったが、なんとかなるだろう。異常に元気な委員長の姿に怖がってたみたいだし。……うーん、何だかその場しのぎの保身のことしか考えられない俺は我ながらクズではなかろうか。


「……よし。そうと決まれば今日は思い切り遊ぶぞ櫻井! あれか? 流れるプールで流されてきたスク水でも物色するか?」

「は、はあ? な、何を急に元気になっているんですか気持ち悪いですね……てか、なんなんですかその気色悪い遊び。私を犯罪に巻き込まないで下さい」


 櫻井は苦虫を噛み潰したような表情で後ずさりながらそう言う。いや?さっき君が言ったことなんだが?いや、ちょっと冷静でなかったな俺。水着より中身の方が重要だもんな、うんうん……。あれ、なんかこれもおかしいような気もしたが気のせいか。


「て、ていうか! 先輩、一応私も……その、先輩の前で……な、なんか言うこと無いんですか?」


 櫻井は胸元の前でてを組み、どもりながら小声で呟く。うん……あれか、まあ俺は別にそこまで鈍感でないし、難聴でもない。だから今の今まで櫻井とイカれた会話しかしていなかったから意識の外に思考が飛んでいたが、櫻井も一応、生物学上は女子なんだよね……。


 花柄のセパレートタイプの水着はどことなく幼さを残しつつある櫻井には正直似合っている。出るとこ出過ぎず、引っ込み過ぎず、正直俺好みのグラマーレースクイーンとは程遠いが、イ●スタに載せれば百万くらい『いいね』がつくレベルだと思う。うっすい本でオカズに使われてもおかしくないよね……みたいなことくらいは考えている。でもそのままこのことを櫻井に伝えるのは只の変態みたいだったので簡略して伝えることにする。


「オカズに使えるよな!」

「は? 警察呼びます?」


 元気に素直な気持ちを伝えると冷酷な表情で死刑宣告する櫻井。いや、簡略し過ぎたのであった。


「早くない? いや、待て俺は別にお前に対してそういうつもりで言ったわけでは」

「言い訳は結構です。続きは絞首台でお聞きします」

「極刑確定なの俺? いや、ちょっと待ってよ。だったらお前は俺になんて言って欲しかったわけ?」

「そ、それは……って、その罠には引っ掛かりませんよ。残念でしたね、私から『可愛い』って言葉が出ると思ったら大間違いですよ……あっ」


 いや、語るに落ちてますやん。


「そうか、櫻井は自分の水着姿を『可愛い』って言って欲しかった訳なんだな。なんだ、前からヤベー奴だと思ってたけど、ちゃんと女の子してるじゃん」

「…………」

「普段からそうしてりゃ、もてるだろうに。いいか、この際だから言っておくが俺みたいな陰キャ男子にオヤヂガーとか痴漢ガーとかいつまでも言ってると一生彼氏のひとつやふたつ出来やしないぞ」

「…………ッさい」

「俺をからかってるつもりなんだろうが、もう限界なんだよ。悪いことは言わんからいつまでもこんな変な関係を」


「うるさい……うるさい、うるさい、うるさい、うるさいっ、うるさい、バーカッ!!」


 バチンッ


 いきなり、櫻井のヒステリックな声とともに頬に衝撃が走る。え?何?ビンタ?今、ビンタされちゃったの俺?ママにもされたことないのに?


「いった……お前、なにすん」

「うるさいんですよ! わたしのこと何も……何も知らないくせに! わかったようなこと、もっともらしいこと言って! バカッッ!!」


 そして、俺が反論する前に言いたいことだけ言って俺のもとから離れていく……と思ったらUターンして。


「おやぢに掘られて溺死しろ!!」


 そして、また去っていく櫻井。

エエ、ワザワザUターンして言う捨て台詞がそれ?

う、うーん、まいったなあ。言い過ぎたかな?ちょっと、泣いてたような気がしたが。もう今日は戻ってきそうにないからあとで謝りの連絡でもしておこうかな。


「お待たせしました、兄さん」


 そして、入れ替わるように詩織がプールサイドからやって来た。白のビキニ姿で清楚風な詩織には一応外向きには似合っているような気がする。しかし、詩織の本質を知っている俺にとってはなんとも微妙な気持ちにさせられる。


「よう……ようこそ、おち●ちんランドへ2名様ご招待……」

「はあ? いきなり、実の妹に対してセクハラですか? 脂まみれのおぢさんに揉まれて溺死してください」


 しまった、意気消沈して思わず意味不明なことを呟いてしまった。


「まったく……あら? 嫌々罰ゲームで兄さんの恋人役に任命された哀れな少女はどうしたのですか?」

「いや…余計な修飾語が着きすぎだろ……ていうか、『役』とか言うな。悲しくなるだろ。あれだ、ドタキャンされたんだよ」


 都合良く櫻井も委員長もいない今、適切な誤魔化し方が思いつかないため、咄嗟に嘘を吐いてしまった。


「まあ、それは。奇遇ですね、兄さん。私も実は友達にドタキャンされまして。ナカーマですね」

「ん? じゃあ、チャラ男くんは?」

「沈めました」

「…………ヒエッ」

「……。お茶目な冗談ですよ、ドン引きしないでください。同じくドタキャンされただけですよ」


 いや、ホントにドタキャンなの?

しれっと嘘を吐いた時の目力がヤバかったんですけど。拳に血糊にみえた赤黒い何かがついていてもおかしくないというか、信じてしまう自分がいるんですけど。


「とにかく独り身同志、折角ですから今日はプールを楽しみましょう」

「独り身て。ていうか、市民プールで実の妹とデートかよ」

「デートとか気持ち悪いこと言わないでください。それにしても喉が渇きましたね、兄さん。マンゴーパッションティーフラペチーノをお願いします」

「マン……え、今なんて? なんかの呪詛?」

「はあ、低脳の兄さんには分かりませんか。いいです、売店でコーラをお願いします」

「罵倒する上にたかりかよ。まあ、良いけど。迷子になると困るからここで待ってろ」

「子供ですか。三分以内にお願いします、達成できたら新記録ですよ」


 ヒラヒラと手を振り、俺を見送る詩織。

え?いつの間にRTAが始まったんです?俺ものどが渇いたので、財布…は更衣室に取りに行くとして、とにかくとっとと行動に移そう。


 五分後。


「財布を持ってくるのに意外と時間がかかってしまった……急いで飲み物を買お、?!」


「ばくばくばくばく!!」

「うっ、うううう~……」


 プールサイドの売店の前に設置しているガーデンテーブルで空腹状態の野犬のようにかき氷にありつく櫻井とその向かいの席で何故かタオルで全身を隠すようにして唸っている委員長がいた。えっと、どういう状況?


「お前らなにしてんだよ……」

「みて分からないですか? 腹いせにかき氷を爆食いしてるんです。誰かさんのせいですね!」

「いや、それは分かるが……お前、しれっと」

「え? 拗ねて帰ったとか思いました? 残念でしたね! 普段からもてる私はそんな単純な女じゃないですよ」

「めっちゃ根に持ってるじゃねえか……あー、しかし、さっきはさすがに言いすぎた。すまん」

「まあ、もてる私は器が大きいのでさっきのことは不問にしてあげます。そうですね、ゴキブリのように這いずり回りながら『俺は世界でいちばんおやぢが大大大大しゅきだああああ』ってシャウトしてください」


 仲直りしたと思ったらいきなりそれかよ。

たとえ、世界が明日滅ぶとしてもやりたくないんですけど。只のバケモンじゃねえか。


「……で? そこでタオルにくるまってる方は何をしているんだろ?」

「さあ? しきりに『半裸が恥ずかしい』とかツイートしてたので先輩に水着姿を見せるのが恥ずかしいんじゃないですかね?」

「ッ、は、恥ずかしくなんて、ない!! い、いい度胸ね、植木……私を辱しめるなんて」


 相も変わらずタオルで身体を隠しながら俺を睨み付ける委員長。いや、俺はナニもしてないんですが。ていうか、市民プールに入る前はあれだけあんた達は私が守るとか怖いこと言ってた割にはそういう感じなんだな。委員長も意外と……ってこれも薮蛇になりそうだからよそう。


「……。飲み物を買いに行くにしてはやたらと帰ってくるのが遅いと思ったら……兄さん? これはいったいどういう状況かしら?」


 遅れて地獄はやって来た。 

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