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guilty 23. 俺の妹がたいへんな案件を持ち込んできた

「大変よ、兄さん」


 自分の部屋で漫画を読んでノホホンと寛いでいると詩織が当然のように入ってきた。上はキャミソール、下は水色のショーツという姿で。


「お前の格好の方が大変なのですがそれは。てか、ノックくらいしなさい」

「こん、こん、こん、こーん」

「何で狐の物真似をしてるの? ノック? ノックなのそれ? ノックのつもりなら既に何テンポも遅れてるよ?」

「童貞の兄さんには刺激が強かったかしら?」

「こらこら、自分の兄に向かって童貞とか言わない」


 事実だけど。

詩織が下着姿で家中を徘徊するのはコンビニに乗用車がバックでコンニチハするのと同じくらい自然な日常風景で俺にとっては差程違和感はない。違和感はないが、興奮しないとは言っていない。そこのところ宜しくお願いします。


「お前の姿は目に毒だから要件を言ってとっとと立ち去ってくれ」

「目に毒とかなかなか失礼なことを言いますね。内心は嬉しいくせに。やれやれ系主人公を気取らなくても良いんですよ。思い切り『めっちゃうれPー!! 45p

ー!!』とかシャウトして自分をさらけ出して下さい」

「何の話? それにここでお前にそんな世紀末な感情をさらけ出したら只のヤバいシスコンになっちゃうだろ」

「シスコンどころか犯罪者ですね、おめでとうございます」


 パンッ、パンッ、パンッ、パンッ


 詩織は突然にクラッカーを俺の部屋にぶちまける。エッ、どこから出したの?そんなの使ってるの漫画の中のパリピしかみたことないんですけど。


「やめて、陰キャな俺の部屋をパリピ色に染めないで。明日から諸葛亮孔明のコスプレ姿でウェイウェイ騒ぎながら登下校しなくちゃならなくなる」

「何を訳の分からないことを言ってるんですか。それより、可愛い妹の話を聞いて下さい」

「可愛い妹は俺の部屋にゴミをぶちまけない気がするが。もういいです、要件があるならさっさと言え」


 肝心な話に入る前にどうでもいいクソみたいな余計な話が必ず入るのもまた俺たちの日常風景である。


「大変です、クラスのイケメンにプールに誘われました」

「アッ、ハイ。解散解散ー」

「こん! こん! こん! こーん!」


 俺の塩反応に不快感を感じたのか詩織は頬を膨らませながら俺の頭をグーでしばく。


「いたいっいたいって! わかった、わかった、冗談じゃない、冗談じゃないのね? 話を聞くから攻撃はやめて?」

「まったくもう……あんまり妹に冷たいと女性用ショーツを頭に被せて町中を四つん這いで徘徊してもらいますよ?」

「女性用のショーツって……えっ、お前の?」

「ッ、あ、アホですか!? そんなことさせるわけがないでしょう!? HENTAI!!」


 さっきとは違って弱々しいよわよわパンチを俺の胸元に入れてくる詩織。お、お前が変態シチュを編み出したんだろうが!何で自滅して俺に当たってくるんだよ!!


「……こほん、まったくご乱心は程程にして下さい」


 ご乱心してたのはお前だよとツッコめばまた話が続かなくなるので放置する。


「で? なんだよ、イケメンにナンパされた? へー、すごいね。アホ~イ……エッ、自慢しに来ただけ?」

「違います。兄さんはご存知でしょう? 私は自分のことをイケメンであると自覚しているキラキラキラーンないけすかないイケメンが大嫌いなことを」

「いや、初耳ですが。成る程、じゃあ詩織はイケメンを毛嫌いしていると」

「いえ、イケメンは好きですが」


 どういうことだってばよ。


「本当はそのような蛆虫みたいな汚らわしいお誘いは下の口に高枝切りバサミをお見舞いして一蹴するところだったのですが……」

「お前、過激な思考の持ち主だったのな。俺を含めた全世界の健全な美男子がおぎゃあ泣きするわ」

「いちいち話の腰を折らないで下さい。その醜悪なお話に私の友達が乗ってしまって」


 何人来るのか分からないがどうやらグループで行動するようだ。まあその声をかけたイケメンが詩織を狙っている可能性はあるが、一対一よりかはずっとかよろしい。しかし、パリピの団体行動か……想像するだけで吐きそうである。


「ふーん、ソロでデートのお誘いじゃなかったんだな、いいじゃん一人じゃないなら」

「良くないです。私の大切な女友達が振り向いたら次の瞬間にいけすかないイケメンとお馬さんごっこをしている可能性もあるんですよ? 嗚呼、なんておぞましい……」

「うんうん、あるあるあ…ねーよ。出来の悪い三流ポルノビデオでもそんなシチュ見たことねえわ」

「ですから、私が大切な百合……女友達の貞操を守らなきゃならないのです」

「なんか不可解な単語が聞こえてきたような気がするが。へえ、頑張って守ってやって下さいよ」

「ええ、ですから兄さんにナイト役をお願いしたいのです」

「いやだ」

「即答ですね、その心は?」

「イケメンの陽キャと行動なんかしたくないいい……あいつらなに考えてるか分かんなくて怖いもおん」

「な、情けないナイトですね。あ、陽キャと言えば兄さんのお友達の折原さんとかいう顔だけは良い変態さんがいたじゃないですか」

「アイツはある意味分かりやすい陽キャだからな。奇抜な発言でドン引きさせることはあるが、それが心地良いというかなんというか。ぬるま湯に浸かってるような気分で居心地が良いんだよ」

「キッッッショ……良いお友達関係が築けているようで何よりです」

「おいおい、正直な気持ちがオブラートに包めてないですよ?」


 まあ、自分でも言い過ぎた感は否めないが。

それにしても苦痛に満ちた禍々しい顔で言わなくても良くない?


「とにかく、兄さんには参加をお願いしたいんです。今度の日曜日の10時に市民プールに集合ですので宜しくお願いします」

「おい、勝手に話を進めんな。まだ了解してないぞ。てか、市民プールかよ。いけすかないイケメンくん陽キャにしてはチョイスが残念すぎるだろ」

「陽キャグループに入りにくいのでしたらエア彼女役に誰か連れてきても良いですよ。それなら参加しやすいですね」

「何でやねん、余計に難易度が上がったわ。あのな、お前が言ってるのは何のスキルも与えられていない異星界転生した宇宙人にいきなりダイコーンひとつで魔王に挑めと言っているようなものだぞ、辛すぎる」

「兄さんの例えが下手くそで今一何が言いたいのか良く分からないのですが、ちょうどいいじゃないですか。兄さんにはいま、懇意にしている女友達さんがいらっしゃるみたいですから」

「…………」

「…………」


 何、この空気。無言の間が重すぎる。


「そ、それでも俺は嫌だ。陽キャの顔を見ていると蕁麻疹が出る体質なのだ」

「どんな病気ですか。もし、このお話をお断りするならこの姿で両親のいるリビングに突入して兄に慰めものにされたとカミングアウトするしかないですね」

「こ、こら、そんな嘘のカミングアウトはやめてもろて」

「たとえ、嘘であったとしても嘘も方便と言います。嘘を本当にする力が私にはあるのですよ」

「きょ、脅迫はずるいぞ」

「なんとでも言ってください、どうします?」

「はい、憑いていきます……」

「憑かれても困りますが、兄さんは賢い選択をしましたね、それでは今度の日曜日は宜しくお願いしますね」


 今日一番な笑みを浮かべながら俺の部屋から出ていく詩織。くっそお、知らない陽キャグループとプールデートなんて地獄過ぎる。しかも、知り合いの女子を連れてこいとか死神と貧乏神に同時に痴漢されているような気分になるぞ。


「し、知り合いの女子かあ」


 俺は自分のスマホを見つめながら頭を抱えるのであった。

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