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guilty 19. ボッチ委員長に声を掛けたら何やら闇を抱えていた

 異星界動物園から脱出した俺は教室の前までやって来た。


「ハッ、ハアハア、はあはあ、……こ、ここがハニーのハウス……どきどき、ドキドキ、た、楽しみデス」


 う~ん、ツッコミ待ちかな?


 薬師寺サンは俺の後を金魚のフンどころか守護霊のようにピッタリと憑いてきた。こんな背後ではあはあ喘ぐ不穏に服を着せたような守護霊はまっぴら御免である。『着いてくんな』とか不用意に言えば何か長物で刺されそうで怖いので黙っている。


 黙っているというか、この数時間で俺は学んだことがある。『相手にしない』。いちいち構ってやるからいつでもどこまでも薄い本にやたら登場する謎の液体にまみれた触手のように俺に絡みついてくるのだ。見たところというか見たままの感想と今までの挙動から薬師寺サンは間違いなく陰の者だろう。淫オブザキングである、あ、字が違った。櫻井のような陽キャラを下手に無視すればしっぺ返しが来そうだが、陰キャラである薬師寺サンを無視すればその内諦めてちょうちょでも探しに行くだろう。なあに、ちょっと後ろでブツブツとツイートするbot便所みたいなものだと思えば楽勝である。……楽勝、だよな?


「ヘヘッ、ヘッ……は、ハニーのご両親の挨拶は何がいいかなあ……フヒッ、『交尾を前提にお付き合いしていマス』」


 ご両親の挨拶が前代未聞過ぎる。

それ以前に何時まで教室が俺のハウスと錯覚しているのだろうか。ブラウン管のテレビみたいに斜め四十五度からシバいたら治るかな?


 お昼休み中なので普通に廊下に他の生徒が歩いている所為か変に注目を浴びている。ヤバいヤバい、マジで無視しよう、関わりたくない。ブツブツ呟く薬師寺サンを無視して俺は教室に入る。


「アッ、桂一郎! またサボったな~、ひどいぞ! 俺と約束していた乳首あてゲームはどうしてくれるんだよ!」


 教室に入ると昼メシを食っていたホモの者が立ち上がり、俺に近寄ってきた。俺に対するアンテナ感度がビンビン過ぎて何かキモかった。


「今朝も聞いたよそれ、いい加減にその変態ゲームの話題から離れろや」

「悪かったよ、今日は諦めるさ。じゃあ明日はギャランドゥを口で毟り取り合うゲームをしようぜ」


 何そのサイコパスも真っ青な狂気的なゲーム。悪魔祓いでも始めるつもり?


「ところで後ろにいるその子は誰だ?」


 折原は俺の背後にいる薬師寺サンを指差し、尋ねる。


「フへッ、フヘへへ……は、ハジメマシテ。わ、わたっ私は……ハニーのダッチワ●フデス……ヨロシクDEATH、フヒヒヒヒ」


 気味の悪い笑みを浮かべながら何か勝手に自己紹介を始める藥師寺サン。宇宙人のモノマネはやめて。


「あっはい、サーセン」


 関わったらいけない人物と判断したのだろうか、折原は薬師寺サンの地獄のような自己紹介に対して頭を下げ、何故か謝る。もうイヤダ。恥という文字にダイナマイトを無数につけて背負って歩いているようなものである。早くその辺の校庭に埋めてしまいたい衝動に駆られる。


「それより折原、メシを食いたいからそこどいてくれ。俺はお腹が減ったよ」

「あ、お前の昼飯の弁当なら頂いたよ、サンクス」

「なんでやねん」

「いや、なかなかお前が俺たちの聖域トイレから帰って来ないからさ、もう早退したと思って。腐らせるのも何だし俺がペロリと頂いちゃったよ、ごめ~んね?」


 折原は困惑したガチャ●ンみたいな顔して舌を出す。全然反省していない。寧ろ小馬鹿にされているようでイラッとした。


「俺たちの聖域とかキモいこと言うな。ペロリと頂いちゃったじゃねえんだよ。昼飯抜きかよ、どうしてくれんだよ」

「五千円で良いかな?」

「現金を出すな、怖いわ。しかも何か高いし」

「いや、手持ちがこれしかなくてな。学食で食べて来いよ、お釣りは身体で返してくれればいいよ」

「お前の両目をアイスピックで潰してもよろしいか、ん?」

「いやん、桂一郎キュンはイケずね。どうせなら金の玉でオナシャス」


 無敵の人かコイツ。


 嗚呼、こんな不毛な会話をしていたら昼休みの時間が無くなる。俺は仕方なく折原から貰った現金を握りしめ、学食に向かうことにする。


「いってらっしゃ~~い、ブリブリきばるのよ~~」


 折原は黄色いハンカチーフを振り、俺を見送る。

アイツは俺がナニをしに行くと思っているんだ……食欲が失せそうな折原の台詞にゲンナリしつつも空腹には勝てないわけで。


「わ、ワタシヲ食べて……? な、ナ~ンチャッテ……デュフ、デュフフフフ」


 さて、どうやってこの妖怪から逃げようか。


 一階の男子トイレ前で『ブリブリきばるから此処で待ってて』と藥師寺サンに告げると、『う、ウン……電気椅子で待ってる』と謎の返答を受けたので心置きなく俺は逃げ出すことにした。これでトイレの中まで憑いてきマスとか言い出したらどうしようかと思ったがホッとした。まず男子トイレに入り、奥にある窓口に一目散に駆け寄る。学校のトイレは窓の格子がなく、ちょっと狭めではあるが人一人分が通れる大きさであるため簡単に出入りすることが出来る。尚かつ内側に鍵がついているため余裕綽々で逃げ果たせるというわけである。


 しかし、このままでは昼飯を食い終わった後に教室で鉢合わせしてしまう可能性があるため逃げ出すついでに職員室にいた生活指導のチンパンに服を着せたような体育教師に『一階の男子トイレ前で電気椅子してプルプルしてるヤバめの女がいますのでどうにかして下さい』と告げ口しておいた。チンパン教師は『ナニッ、月に代わってお仕置きしてやる!』と竹刀を持ってはりきって走り去ってしまった。ふう、一仕事終えた気分である。さて、ランチタイムといきますか。


 ──学食──


「さあ、メシを食うぜ……今日は唐揚げの気分だ」


 唐揚げ定食(350円)と書かれた食券を買い、食堂のおばちゃんに手渡し、定食のトレーを受け取る。唐揚げの気分と言ったが、基本的に俺は学食では唐揚げオンリーである。


 昨今の原料高騰をモノともしないような価格設定の学食であるが、当然ながら安かろう悪かろうを地で行く学食で、乞食もマルチーズもギャン泣き脱糞する程のクオリティである。


「この唐揚げの肉もナニを使っていてもおかしくないぞ……っと、あ」


 席を探していると、知り合いと目が合ってしまった。我らが委員長の佐々木様である。


 しかも出会うタイミングが微妙に悪かった。委員長はウドンを啜り、俺と目を合わして硬直している。うわ、真面目な委員長に場末の食堂みたいな場所がまず似合わないし、しかも一番コスパの良いかけウドン(200円)を食べている。ウドンの隣には開封済みの豆パンが……何だか見てはいけないものを見てしまったような微妙な気分になった俺は目を逸らし、再び席を探す。


「ま、待ちなさいよ……こ、ここが空いてるわよ。座りなさい」


 背後から委員長の声が聞こえた。振り向くと邪鬼のような顔をした委員長は隣の空席を指差し、俺に着席を促す。怖い、視線で俺を殺しに掛かっている。選択肢があったら、『ハイ』か『YES』か『分かりましたsiri』しか表示されなさそうである。仕方なく俺は委員長の隣の席に腰を下ろす。なんだろう、女子に誘われているのに全然嬉しくないです…。


 5分後。


「…………」

「…………」


 何か席に着いてから黙々と飯を食っていると真横にいる委員長に無言でジッと見つめられている。何ですか?この地獄のような時間。飯の時くらいリラックスさせておくれよ。だいたい、委員長とは最低限の話しかしないし、前も言ったが折原がいたから何かと会話が続いていたのもある。


 無言で女子に見つめられるというこのシチュエーションは見ようによってはご褒美に見えるかも知れないが、陰の者である俺には一人でイタしているところを監視されているようで耐えがたい苦痛である。仕方ない、当たり障りのない会話で場を温めよう。


「きょっ、今日はボッチ飯なんですね」

「ボッチじゃないわよ、コロすわよ」


 場を温めるどころか、逆に急速冷凍してしまったでござるの巻。いや!委員長の周りに誰もいないじゃん!もしかして、委員長の周りには目に見えないこの世の人ならざる者が存在しているのだろうか……俺の困惑顔に気付いた委員長はコホンと咳払いする。


「あんたが来るちょっと前まで友達がいたのよ……部活のミーティングがあるみたいで離れちゃったのよ」

「あ、そうなの……」

「何よ、そのキョトンとした顔は……『あの生真面目な委員長である佐々木に友達がいたなんて! 意外~!』みたいな感じかしら。失礼ね、周りから真面目真面目って言われるけれど別に孤高を好んでいるわけではないのよ。息抜きに友達と遊びに行くし、家族の時間だって大事にするしね。文武両道の代表格みたいな目で見られるのは何だか癪だわ。私としては当たり前のことを当たり前のようにこなしているだけだし。それを優等生だの、生真面目だの、もてはやされるのはおかしいわ」


 急にめっちゃ喋る。

しかも自分で自分のこと真面目って四回も言ったよ。まあ、なんやかんやでこの間も櫻井と三人で遊びに行ったもんな。別に文系のお堅い乳、じゃなくてお堅い人だとはちょっぴりしか思ったことがない。あ、なんか日本語が変になった。


「へ~、意外と溜まってるだな、委員長」

「な、なに……? 昼間から下ネタかしら? こ、コ●スわよ?」

「ち、違う違う! 箸で俺の目を突き刺そうとしないで! そ、そういうピンクな意味でいったんじゃなくてさ、委員長も凡人の俺らみたいな俗物的な悩みがあるんだなって感心したんだよ」

「……。なんか、微妙に馬鹿にされているような気がするのだけれど?」

「いや、委員長ってさ。悪い意味ではないけれど雲の上の人というか、なんとなく俺らとは住む世界が違うというか、貴族的な気品を感じられるんだよな。だからそんな奴が俺らみたいな当たり前のような悩み事を抱えてるって分かって親近感が沸いちゃってな」


 あんまり他人に関心のない俺が他人のことを真面目に語る自身に驚いてしまう。しまった、踏み込みすぎたかな。しかし、委員長の本音聞いた手前、俺も本音で返したかったのは事実。俺の言葉を聞いた委員長は顎に手をやり、神妙な顔になる。


「……。そうね、でもそんないいものじゃないわよ」


 委員長は独り言のように呟く。どういう意味だろうか。意味は分からないが、何やら俺が思っている以上に委員長の抱えている闇は大きそうである。これ以上、聞き出すのは他人の家にタンクローリーで突撃するような行為であるので俺は口を閉ざした。


「ところで、私がうどんと豆パンを食べていたことは内緒よ……特に折原のバカにはね。チクったら……ど、どうなるか分かってるわよね?」


 頬を染めた委員長に脅迫された。

なんか新しい属性に目覚めそうである。

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