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guilty 18. メンヘラ女と行かず後家の闇を垣間見た

「ふぅ~、で? YOUは何しにここへ?」


 セーラー服を身に纏った世紀末DE破天荒先生もとい大沢先生は竹刀を百戦錬磨の猟師のごとく猟銃のように右肩に構える。そして、咥えていた煙草にライターで火をつける。いや、おばさん、ここ禁煙……その姿は白衣の天使でも何でもなく、一昔前のイカレたスケ●ンみたいな感じであった。どうしよう、こんな保険医はいやだ。


「あの……」

「あー、待て待て。落ち着いて話がしたいから椅子に座るわ……どっこらせっくる」


 大沢先生は駄菓子屋のお婆ちゃんみたいな声を出しながら足元に亀甲縛りで寝転がっていた見知らぬボールギャング男子生徒の顔面に腰を掛ける。いや、椅子ってそこ?


「おヴッ♡」


 椅子呼ばわりされたボールギャング男子高校生は発情期の豚のような卑猥な声を上げて悶絶していた。いや、世界観……この世の終わりか?こんなミラクル☆異星界保健室には関わりたくはないが、隣にいる頭を打っておかしくなった(?)メンヘラ女もとい薬師寺サンを放置しておくわけにはいかない。危ない保健室に危ない女を連れて行くのは火にガソリンをぶち込む行為ではあるが、怪我人を見捨てるほど落ちぶれていない俺である。いや、保健室に放置しようとしたしたやんけーみたいな天の声が聞こえてきそうだが気のせいである。


「ふ、ふ~~ん……エッチぢゃん」


 薬師寺さんは物欲しそうな瞳で地獄の保険医である大沢先生を見つめていた。その感想もよく分からないです。エッチじゃなくてエッジの効いた光景ではあるが、そんな十八禁要素は皆無である。いやある意味、汚れていない青少年には見せられない悲惨な光景って意味では発禁ではあるか。俺みたいな青少年にはね?


「で? 私に何の用だい? 精巣を潰して欲しいって相談かい?」


 紫煙をくゆらし、アサシンのようなギラギラした目で俺を射殺すように見つめる大沢先生。あ、まともに相手しちゃだめな人だこれ。恰好もぶっ飛んでいれば発言もぶっ飛び過ぎである。


「いや、違います……」

「トンカチ? 高枝バサミ? 歯で喰い千切られたい? どんな方法でもいいぞ、トイチでな」


 話を聞いて、おばさん?

そして、性少年が発狂しそうな言葉の凶器で心を抉りにかかるのはマジでお止めになってくださいませ。しかも金取るのかよ……よゐ子もポメラニアンもギャン泣き脱糞して逃げ出す悪魔の所業である。


「おっオッオッおっとせい……おネエちゃん」


 おっとせい、本日二撃目。

薬師寺サァン?お願いですから俺の股間を見ながらおっとせい言うのはやめてあげて?


「ん? おお、誰かと思ったらセミ丸じゃん。元気にしてたか?」


 誰?セミ丸って……ああ、薬師寺蝉子でセミ丸か。

もうちょっと可愛いあだ名にしてあげてよ。ていうか、お姉ちゃんって大沢先生が薬師寺サンの?苗字が違うし、大沢大先生、孤高の独身貴族だし。訳アリか?それとも親しい間柄で呼び合う意味での『お姉ちゃん』?別に詮索するつもりは無いし、興味も特には無いから聞くつもりもないが。変な事聞いて、女の子にされちゃ敵わない。藪をつついて蛇を出すようなことはしないヘタレな俺である。


「そ、その、あだ名はやめてっていったじゃん……! 私のことは『ハニー』って呼んでっていった!」


 薬師寺サンはフグのように頬を膨らませながら、興奮する。

エェ、それ俺だけじゃなく大沢先生にも呼ばせようとしてんの?人類皆ハニー?うわあ、とってもキモいです……。


「うわあ、とってもキモいです……」


 大沢先生はしかめ面をし、ドン引きしていた。

何か変なところでシンクロした。とっても嬉しくはない。


「き、キモいってゆうなあ……! ねっ、ハニー! ハニーがひどいこと言うの、ハニーもハニーに何か言ってやってハニー! ハニー!」


 薬師寺サンは俺の制服の裾を掴み、涙目で抗議する。

ハニーハニー言い過ぎて何が何やら訳が分からない。ハニー(18)とかハニー(37)とかそんな感じで年齢で分かるように区別してもらえませんかね。


 ……だめだ、カオス過ぎて会話に集中できなさそう。


「いい加減にしろ、ゼニ丸。私のおもちゃが迷惑そうな顔してるだろ、いい年してお前はまったく……」


 今、俺のことおもちゃって言いました?

ていうかさっそくこの人、あだ名間違えているよ。守銭奴みたいな嫌らしい感じになっちゃった。


「うう~……私はセミ丸でもゼニ丸でもないもんっ! 薬師寺ハニーだもん!!」


 いや、君の名前は薬師寺蝉子でしょ、現実見てもろて。

ハニーに固執する意味がよく分からないし、何の話をしようとしてたっけ。ああ、そうだ、薬師寺サンの頭がおかしい、じゃなくて頭を診てもらうつもりだったな。ん、同じかな。


「大沢先生、この娘、頭が可笑しいんです」

「いや、知ってたわ」


 知ってたわ、入りました。

『私を無視しないで!』という声が隣から聞こえてきたが、このメンヘラ女の話に付き合っていると何時まで経ってもこの安らぎの魔境(※保健室)から逃れられない。


「間違えた……この娘、階段で転がり落ちて頭を打ったんです。心配なので診てもらってやっても良いですか」

「ハッハニーが私を心配してくれている……とっても嬉しい、とっても優しい、とってもしっぽり」


 とってもしっぽりってなあに?

一瞬、頭の中で嫌な光景を思い浮かべてしまった。吐きそうである。こんな時は自分の好きなものを思い浮かべて記憶の上書きをするのだ。


 レースクイーン、レースクイーン、レースクイーン……。


 何故かレースクイーンを身に纏った折原が頭の中に出現した。オエエエ、何で股の食い込みがエグイねん。そして誘うような官能的な瞳はヤメロ。勃起するな。何の罰ゲームだよ、せめて女の子にしてもろて。


「そうか、頭を打ったのか。よし、分かった。とりあえずその履いているズボンとTバックを下ろして下半身を曝け出しな」


 何でやねん。

そしてサラッと、絶望的な嘘を吐くのはやめてあげて。


「…………」

「泣きそうな目で私を見つめるなよ。私の中の嗜虐心が沸き立つだろ。お茶目な冗談だよ。ヤニ丸、頭見てやるからこっちにこい」


 大沢先生は薬師寺サンを自分のところに来るように手招きする。ヤニ丸はお前だ。しかし何だな、改めて思うがボールギャングを身に纏った亀甲男子生徒を椅子にセーラ服姿で誘う保険医……いや、こんな保険医がいてたまるか。保健室だからかろうじで保険医だと分かるが、暗くて怖い場所に移れば忽ちただのSMクラブに様変わりである。『私は保険医だヅラ』とか言われても只のアレな人と思われるだけである。


「セミ丸でもゼニ丸でもヤニ丸じゃないもんっ」

「分かった、分かったよ、蝉子。落ち着け」


 大沢先生は口元を緩め、薬師寺さんの頭を撫でる。う、うーん。俺の気のせいかな?大沢先生が一瞬、何か近所の優しいお姉さんの表情になったような。もう一度顔を見ると……うん、今は黄泉の国から追いかけてくるイザナミのような表情になっているからきっと俺の気のせいなのだろう。


「痛いの痛いの、トンでけ~~」


 大沢先生は薬師寺サンの頭を高速でナデナデする。

おい、ふざけてんのかこのおばはん。


「うわあい、痛くない! なおったー、ありがとう、おねっ……ハニー」


 もうお姉ちゃん呼びでよろしいですやん。

頭を撫でられただけなのに元気ハッスルになる薬師寺サン。幼稚園かな?しかし、心なしか大沢先生と絡んでいる薬師寺さんはどもっていないし、いつもと違って自然体な感じがする。知らんけど。


「おう、もう派手に転ぶなよ。おい、お前も良かったらチン●を撫でてやるから何時で来いよな」


 洒落にならない悪質な冗談を口にしながら手のひらを振る大沢先生。じょ冗談じゃないぞ、こんな保健室二度と来てやるものか。用が済んだ俺と薬師寺サンは保健室から廊下に出て行く。


「はっハニー……ウへへ、つ、次はどこに行く?」


 女子とは思えない声を出しながら俺の後を憑いてくる(誤字)薬師寺サン。やだあ、付き纏わないで……。

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