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guilty 14. ヤバい女をからかってみた(Level 1)

 最近駅前に出来た大型ショッピングモールはアパレル関係のショップや雑貨店、大手家具店、スーパー、フードコート、スポチャ的なアミューズメント施設、果てには映画館まで入っており、老若男女が一日過ごすには困らない暇つぶしには最適な施設である。平日にも関わらず盛況していることから、毎日が日曜日を体現したような大きなお友達が沢山いるのだろう。

 

 偶にそこいらで住職のようなコスプレをした坊主マンや野生のエレマキトカゲが死んだように仰向けで寝そべっている姿はこの街の闇を感じられるが、まあ俺には関係のないことである。


 肛門もとい校門における保険医と男子生徒の事案行為に身の危険を感じた俺は自主的に休校したのである。そして、何の因果か不幸にも最近知り合った櫻井とかいうアタオカ女にエンカウントし、お願い事やらに付き合っているところである。


「先輩先輩、どっちが似合っていると思います?」


 櫻井は両手に青色とピンク色のヒラヒラした布きれを持ち、俺に見せびらかすように問いかける。


「ソ、ソチガイインジャナイデスカネ……?」

「何で明後日の方向に指差してるんですか? てか、声量が死にかけの老人レベルで何言ってるか分かんないですー、目を反らさないでちゃんとこっち見てくださいよー」


 グイッ


 制服のネクタイを引っ張られて無理矢理、櫻井の方向に向かされる俺。アアッ!ランボーはおよしになって!!奴の両手に持っている布きれが否が応でも視界に入ってしまう。


 やだ……とってもプリティです……。


 何故か俺は櫻井に女物の下着(ブラからはじまりジャーで終わるアレ)を選ばされるというある意味、私刑な罰ゲームを受けていた。そしてそれを平気な顔してやる櫻井の頭の中を俺には理解ができなかった。


「私的にはこのピンクが似合うと思うんですよね~」


 顎に手をやり、真剣に悩む櫻井さん。

いかん、本当にコメントを差し控えさせて頂きたいのですが。君の頭の中はピンクだし、似合ってんじゃない?とかちょっとジャブ的な冗談を言えば普通に切れられそうだし、真剣に『君にはこのドドメ色の下着が似合ってるよ(キラリン)』とかコメントすればなんか只の変態みたいだし、どう回答すれば正解なの?


 俺と櫻井のやり取りを見ていた周囲の奥様方は『初々しいカップルねエ』だとか『20年前に戻りたいわァ』とか割と悲惨な台詞を吐いていた。さめざめと泣いてもいい?


「……うん、ど、どっちも、似合ってるんじゃないですかね?」

「はあ、そういう八方美人な回答は求めてないですからさっさと決めてくれます?」


 俺が無難な回答をすると櫻井は不機嫌な顔をする。エェ、なんで?どちらか選ばないと帰れまテン!とかそういう縛りプレイなのこれ?


「え、エ~ッと……あの、君は羞恥心という感情が欠落してるんじゃないですかね?」

「は? どういう意味ですか?」

「いや、分からんか? 自分が身に着ける下着を男に選んでもらうなんてちょっとエッ」

「え? 私のじゃないですよ、先輩のです」


 おっ、おぉん……。


 何か斜め上の常人には理解しがたい回答が飛び出してきたんですけど。真顔でケロッとした顔でちょっと喰い気味で返事をされたものだから、何だか俺が変な質問をしたかのような錯覚に陥るんだが。


「エ~ッと、うん、ウェイトウェイト。いったん、落ち着こうか、櫻井さん」

「私はさっきからずっと冷静ですよ。ふな●しーみたいな動きで忙しない先輩の方が落ち着いて下さい」


 誰がふ●っしーじゃい。

そりゃ、目の前の女子が女子らしくない常軌を逸した行動や言動をしていたらつい高速反復横跳びや高速上下運動をしたくもなるわい。客観的に見ると、只の補導対象の変態だな。


「というわけで、ハイ! 先輩がいつまでもウジウジ悩んでいるのは時間が勿体ないので買ってきましたよ。四千円ですね、宜しくです」


 櫻井は下着が入った袋を手渡してくる。

エッ、時間が飛んだ?いつ買ったの?しかも、俺が払う流れなのこれ?中身が気になったので袋の中を覗く。


 すっげえ際どいワインレッドのハイレッグ下着が入っていた。


 おぉん……。


 ──フードコート──


 誰も得しない謎な買い物を済ませた俺と櫻井は小腹が空いたのでフードコートにやって来た。俺の胃はファストフード的な軽食を求めていたが、俺の意見はナガレソーメンのようにスルーされ、櫻井は勝手に食いもんを載せたトレーを持ってきた。


「まだお昼には早いですけど、ラーメンなら良いですよね? 朝ラーって言葉があるくらいですし、大丈夫大丈夫、ふふふっ、大丈夫、うん、大丈夫なはず……」


 虚ろな目をした櫻井はラーメンを載せたトレーをテーブルに置き、自分に言い聞かせるようにそう口にする。ラーメン好きなんだな、ラーメンは好きだがカロリーが気になるし何より贅肉が気になる、そして現実逃避といったところかな。別に太ってないし、寧ろ痩せてる方なんだから気にし無ければ良いのに。


「そんなに体脂肪が気になるなら無理して食べなきゃ良いだろ。君のお得意のクレープにしとけよ」

「こっ、こっこんのデリカシーを子宮に置いてきた先輩はほんっっとに! ラーメンはっ、ある意味スイーツなんですよ!! ラーメンに始まり、ラーメンで終わる!! コレを食べないと私の一日は始まりません!! あっもちろん甘くて美味しくて幸せになれるクレープは主食ですからあとでいっしょに頂きましょうね」


 櫻井はテーブルを拳で叩いて、言い訳が得意な政治家のようにわめき散らかす。クレープも喰うんかーい。太るぞ、と言いたいところだがなんか目つきがヤバかったのでお口チャックする。てか、一日に二回はラーメン喰ってんのか、こいつ。コッッワッ。ラーメン中毒かよ、頭から足の先っぽまでラーメンに侵されてんじゃないの?


「てか、また勝手に俺の分まで注文を……お、今回はとんこつラーメンか。とんこつは野性味を感じる豚のようなクソみたいな味がしてうまいんだよなあ」

「褒めてるようで全然褒めてないですよね、それ。ラーメンに失礼です、ラーメンに謝ってください」

「とんこつラーメンさん、馬鹿にしてすいません」

「うわ……」


 目の前のとんこつラーメンに斜め四十五度でお辞儀して謝ると、それを見ていた櫻井さんはどんびいていた。な、何、見てんだYO!恥ずかしいだろうがYO!


「ん~、おいしい。田舎のボットン便所みたいな顔した底辺の目の前ですするラーメンは一際おいしいですねえ」

「もはや只の悪口でしかないんだけど分かってる? まあ、いいや。あ、そうだ。食べながら聞いて欲しいんだけどこれってさ、デートなの?」

「ラーメン、おいしい……ラーメンオイシイ……ラーメンオイシ」


 幸せそうな顔してラーメンを啜っていた櫻井は俺の言葉を聞いて、急に動作を止める。中途半端に笑顔でラーメンを口に含んだ状態で。え?なにこれ、時間止まった?瞬きも、笑顔も、止まっている。こわあ……。


「お、お~い、さ、櫻井さん?」

「」

「い、イエーイ……息してる?」

「…………ラーメンおいしい」


 そして、時は動き出す。

何事もなかったかのように櫻井はラーメンを咀嚼する。うっう~ん、何だったんだ今の空白の十数秒間は。もしかして、もしかすると、もしかしなくてもアレなのでは?普段、やられっぱなしの俺は少しからかってみたいという気持ちに駆られたので実践することにした。


「はああっ、ごちそうさまでした」

「なあ、櫻井。これって、デートなんか?」

「…………はっ、はああああああ?!」


 ラーメンを食べ終わるタイミングを見計らってもう一度、口にする。すると櫻井は柘榴みたいに頬を染めて、取り乱す。うおっ、いきなりエキサイトすんなや!てか、こいつこんな表情にもなるのだな。


「プッ……な、何を焦ってんだ、お前。もしかして、図星か?」

「やっ! な、ななな何を笑ってるんですか!! お、思い上がりもいい加減にしてくだされ!!」


 バンッと両手でテーブルを叩き、ますます取り乱す櫻井。渦巻きみたいな瞳で興奮する奴なんざ、漫画の世界にしかいないと思ってたわ。語尾も何か変になってるし。


「ウッ!!」


 心の中で嘲笑っていると、突然、両頬を右手で挟み込むように掴まれる。不敵な笑みを浮かべ、俺に視線もとい死線を送っている。ヤベッ、やり過ぎた!


「ふっ、フフフ……。そ、そう、そうですか、先輩はこういうのが好きなんですね? 仕返しですか? 私の情けない反応を見て楽しんでますよね? ゆ、許せない……こ、このエロス人……」


 俺の頬を掴み、小刻みに震えながら恨みがましい目で俺を睨みつける櫻井。ちょっ、痛い痛い……。めっちゃくちゃ激おこヴィンヴィン丸じゃん。


「ヒッ……い、いや、まあ、からかって悪かったよ。しかし、お前もそんな恋す乙女みたいな可愛い反応するんだな」

「っ!」


 やばい、殺される!

咄嗟に頭と急所(大事な部位)をガードする。


「……あ、ありがとう……ございます……」


 櫻井は地毛をクリクリと指先で弄り、俺から目を背ける。ウッソー、お礼を言われちゃった。割と今の女子という生き物を馬鹿にしている台詞だと思ったのだが。


「ですけど、私を辱めた罪は一生消えませんのであそこで清掃している年配のおぢさんに背後から忍び寄って痴漢してきて下さい」


 ヤ~ン、ナンデ?


 そして、何か微妙な雰囲気のままフードコートの食事を終えるのであった。

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