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guilty 11. 友人の妹が俺を偶像化し過ぎてヤバい

 翌日。


 言いだしっぺの折原の野郎がカラオケをドタキャンしやがった件で文句のひとつでも言ってやろうと折原の棲息するハウスに突撃した。まあ、偶に遊びに来ているから文句を言うのはそのついでってのもある。無論、ラインで事前に連絡はしているから突●!隣の晩ご飯のヨネ●ケ的なゲリラ突撃ではない。


 チャイムを鳴らすとドタバタと中から慌ただしい足音らしき音が聞こえ、扉が開かれる。


「お、お待たせしました!」


 何故か息を切らした一人の少女が出てきた。


 腰のあたりまで伸ばした金髪のロングヘアーに星型の髪飾りをしている。黒字のクマさんTシャツにフリルスカートという割と可愛らしい私服姿である。


 彼女は折原の妹の蒼海うみちゃんである。

兄の折原とは別の高校に通っており、俺も偶に折原の家に遊びに行くから顔見知りである。顔だけはイケメンの部類である兄の血を引き継いでいるのか、一つ一つのパーツは整っており、可愛さと美しさの両方を兼ね備えたハイブリッド女子である。


「あ、ああ……久しぶりだね、蒼海ちゃん」

「え、えっと……正確にいうと、7日と2時間17分ぶりですね」


 特殊能力でも使っているかのように記憶力がやば過ぎる。悪い子ではないのだが、実は俺は彼女のことがちょっと苦手である。


「ハハハ……相変わらずヒくぐらいに凄い記憶力だね」

「ハイ! 植木さんのことを忘れるなんて天罰が下りますから! 雷が直撃して折原家全焼! 疑心暗鬼で家族ギスギス! あげくの果てには一家離散! 川の下でホームレスルートに突入です!」


 蒼海ちゃんは胸の前で両拳を握り、ドヤ顔をする。俺は血も涙もない極悪な教祖様か?ていうか、なんでこの子は不幸な妄想を自信満々な顔で語れるんだ。新種のドMか?


「ま、まあ、今日は君の兄貴に用事があるんだ。お家に上がってもいいかな?」

「あ、も、もちろんです! 兄からは聞いています! 我が物顔で土足でズカズカとお上がりください!」


 蒼海ちゃんはその場で片膝を地面につけ、両手で扉を開ける。俺は庶民を虫ケラのごとく踏みにいじる貴族か?


「いやいや、床が靴の跡で汚れちゃうじゃない、知らん間に犬の糞とか踏んでるかも知れないし。普通に靴を脱いで上がるよ」

「え、でも只でさえ汚い家の床で植木さんのおみ足を汚してしまうのはなんだか気が引けます。床に足が触れないように床から3ミリほど宙に浮けますか?」


 ドラ●もんかな?


「う、浮けるわけが無いよね? じゃ、じゃあ、スリッパとかある? それなら直接足の裏が触れないからいいでしょ?」

「兄の中学生の頃の上履きならありますがそれでいいですか?」


 なんでスリッパがなくて中坊の頃の汚い上履きがあるんだよ。気持ち悪いけど、何かもう面倒くさいからもうそれでいいや。俺は薄汚れたサイズの合わない上履きを履き、ようやく折原家に入る。何で友達の家に入るのにこんな面倒くさい問答をしないといけないんだ。


「玄関の絨毯がペルシャ絨毯じゃなくて申し訳ないです」

「いや、別にいいよ、てか何の謝罪?」

「サバンナキャットとか飼ってなくてすみません……」


 申し訳なさそうな顔して頭を下げる蒼海ちゃん。


 イヤ、ドウスレバイイノデスカー(遠い目)。


 何に対して謝っているのか今いちよく分からないし、彼女は俺をお金持ちだと勘違いしてるんじゃないか。何でもかんでも謝るのはよくないとアドバイスしてあげたいが、そんな気軽に出来るほどの仲でもないし、年下の女の子にはちょっと言いにくい。結局、苦笑いしながら俺は彼女のあとをついていく。


 蒼海ちゃんに先導されるように2階へと続く階段を登る。彼女はスカートだから俺が後に続くのは配慮が足りなかったかな。なるべく上を向かないようにしよう。


「兄の部屋は2階の一番奥です」

「何度か来てるから知ってるよ」

「ちなみに両親のにゃんにゃん部屋は2階をあがってすぐ左です」

「その情報はいらなかったなあ」

「ちなみに兄はコンビニに行って今は留守中です。帰ってくるまで兄の部屋で待ちますか?」

「その情報は早めに欲しかったなあ」


 折原の部屋の前に到着する。

何だろう、東京から大阪間を夜行バスで何周も往復したようなしんどさを感じたな。


「あ、兄の汚染された部屋で待つのが嫌でしたら、その……わ、わた、私の部屋で待ちますか?」


 蒼海ちゃんは俺から目を反らし、頬を染めて提案する。汚染された部屋って……確かに、熟女で汚染されてるかも知れないけど。


「いやいや、余計に気まずいしいいよ。蒼海ちゃんだって嫌でしょ。男に自分の部屋に入られると」

「うっ……た、確かに秘密の交換日記を見られるのは嫌ですけど! で、でも、クローゼットならギリイケます!!」


 この子は何を宣ってるの?


「な、なんの話? とりあえず君の兄貴の部屋で待たせてもらうよ」

「あ、待って下さい! わ、わた……私のブラを顔面に装着して、赤いショーツをマフラー代わりに服の上からブルマを履くぐらいならばっちこいです!!」


 何その令和の変態仮面ライダー。誰も救えないどころかブタ箱行きだよ。


「ちょ、ちょっと落ち着きなよ。さっきから支離滅裂なんだけど、自分が何を言ってるのか分かってる?」

「うう、すみません。取り乱しちゃって……私、大統領とかCEOみたいな人の前になると極度に緊張しちゃうんです……」


 蒼海ちゃんは申し訳なさそうに俯く。

そうか、俺は最高権力者だったのか。怖がられているのかな?あまり彼女を刺激するような行為は控えよう。


「と、とりあえず、兄の汚部屋で待っていて下さい。飲み物とお菓子持ってきますから」

「いいよ、気を遣わなくても」

「いいえ! お客様には礼節を持って、礼儀正しく接しろと父に教わりましたから! 飲み物はコピ・ルアクとシャテルドンのどっちにしますか?」


 なんか聞いたこともない正体不明の飲み物きた。


「な、なあにそれ? プテラノドンの親戚的な恐竜のこと?」

「あとあと、お、お菓子はキャビアの塩漬けとかフォアグラとか鹿の睾丸とかあります、エヘヘ」


 頭のネジが外れすぎて取り返しがつかなくなってんじゃないの、この子?


「も、もういいから! 俺に気遣うのはおよしになって?」

「は、はい……かのクレオパトラ御用達の静岡最高茶葉の」


 バタン


 何か最後に意味不明なことを言っていたが、キリが無いので折原の部屋から追い払った。フー、前はあんな気を遣う子じゃなかったような気がするんだけどな。


「さて、漫画でも読んで待つか」


 本棚から適当に漫画を見繕い、折原のベッドにもたれ掛かるように座る。ま、あとちょっとしたら来るでしょ。


 ──3時間後。


「グッモーニンッ、ディア桂一郎よ。元気かいっ?」

「何がグッモーニンッだ、馬鹿野郎。もう夕方だよ」


 折原は陽気な声で自分の部屋に入ってくる。

事前に連絡したのに人を待たせておいて、平気な顔してのこのこと帰ってくる折原にちょっぴり殺意が芽生えたが、漫画で暇を潰せたのでプラマイゼロにしておこう。


「まあまあ、怒るなって。その代わりお土産買ってきたからさ」


 折原はDVDを俺に手渡す。


「ふざけんな、俺をもので懐柔する気か。そんな単純な手が通用するとでも──」


『麻呂の僕がレースクイーンになっちゃったでござる?! ~くっ殺せ! パコパコ女戦士の蜜月の365日』


「ワアアアアイ!! お前、すっげええ良い奴だな!! 家宝にするよ!! うちの神棚に飾って毎日お祈りするよ!!」

「人格が入れ替わったかのように悦んでくれるのは嬉しいけど、神棚に飾るのはまずくない?」


 それくらい嬉しいってことだよ、察してよね、ぷんぷん。レースクイーンには目がない俺である。


「ところでさ、桂一郎。ラインで話があるっていってたけど、どんな話?」

「あ~……。何だったっけ? 何だか可哀想になるくらい気遣いの押しが激しいお前の妹さんを相手にしてたら忘れちまった」


 まあ、忘れる程度の話なんだからそう大した話では無いのだろう。


「エッそうなんだ……。俺なんか、『待て』『お手』『お座り』『ちん●ん』くらいしか言われないけどな」


 それ完全にペットに接するときの対応じゃねえか。ていうか、『ち●ちん』って……。


「まあ俺は別にシスコンじゃないし、妹ジャンルに興味ないから別に良いんだけどね。それより、せっかく来てくれたんだし、なんか遊ぼうぜ」

「そういう問題か? 遊びの選定はお前に任せるよ」

「じゃあ、エロゲーでもする?」

「お前、団地妻調教系のしか持ってないだろ。ていうか、男同士でディスプレイの前でポチポチやってるの想像するとなんかキモいからいやだ」

「そう? じゃあ、乳首あてゲームは?」


 何そのヤバいゲーム。


「いや、何でそんな大学のヤリサーみたいなゲームを男のお前とやらなきゃならないんだ?」

「女ならやってもいいみたいな言い分だな。まあ、良いじゃん。ものはためしにさ、一回だけ! ね? ばっちこい!!」


 折原は上半身裸になり、カモンと手招きする。

ルールってなんだっけな……。


「全開じゃねえか、ていうかお前の汚い乳首なんざ触りたくねえんだよ」

「いいじゃん、いいじゃん、先っぽだけ、ね! 先っぽだけチョーンって感じでいいから!」

「だあああ! お前の先っぽはもうもろ見えなんだよ!! 何がチョーンだ、ヤメロ! 迫ってくんな! お前は熟女専門だろうが、何でいきなりホモの者になってんの!?」

「桂一郎を仮想熟女と見立てての練習かな、決しておホモ勃ちとかそういうのではないです」


 最悪だ、そもそも何の練習?

自覚がない分、余計に怖いんですけど。


 ガチャリ


「植木さん、母が晩ご飯を食べて帰ってねって言ってますけどどうします?」


 扉が開かれ、蒼海ちゃんが折原の部屋に入ってくる。蒼海ちゃんから見れば上半身裸の変態が俺を押し倒し、淫らな行為を及んでいるように見える図であろう。いや、あながち間違っていないが。


「ツイスターゲームですか?」


 蒼海ちゃんは無表情で呟く。軽く現実逃避してない?


「ちぇっ、蒼海に邪魔されたから今日はこれくらいにしとくけど、続きは学校で頼むよ」


 まだ、あの凶行をやるつもりなの?イカれてるだろ、なんか変なキノコでも喰ったじゃないかこいつ。


「あ、植木さん、晩ご飯どうします?」

「い、いや、いいよ、うちも用意してると思うし」

「お母さんが『食べて帰らないと猿轡して監禁しちゃうぞ☆』って言ってましたけど……」


 怖すぎだろ、この家族。


「あ、ご、誤解しないで下さいね! 母は植木さんのことが性テ……好きなんですよ」


 今、性的にって言おうとしなかった?


 ていうか、一、二回くらいしか会ったことのない友人の母に好かれてるとか何か余計に怖いんですけと。怖くなった俺は晩ご飯をご馳走になった。

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