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guilty 1. ヤバい女に痴漢者と認定されてしまった

 夕暮れの車窓の眺めを横目に、お気に入りのアニソンをウォークマンで流しつつ、スマホで低俗なスケベサイトを巡回するのが俺のルーチンワークである。


 ガタゴトと赤さんの揺り籠のように揺れる電車内の座席は既に死んだ目をした社畜戦士で埋め尽くされている。俺はドア横の一人分くらいのスペースを扉を背にもたれ掛かるように立っている。もっとも、座席が空いていたとしても座るつもりなど毛頭ない。代わり映えのしない汚い街を眺めたいだの、足腰を鍛えるためだの、年配の方に譲りたいだの、そんな高尚な理由などではない。スケベサイトを巡回している姿を人に見られたくないという割と思春期にありがちな理由である。


「すげーな、このエロ漫画。いったい、どの層をターゲットに書かれてんだ」


 エロサイトを巡回していると何気なく見つけたエロ漫画をまじまじと見ていた。その漫画には血反吐を吐いて倒れている主人公の近くでベビー服を身に纏い、妖怪の生まれ変わりみたいな義母が『オギャー』と叫びながらオムツを持ったコブダイみたいな面した半魚人に赤ちゃんプレイを強要されているシーンが描かれていた。オカルトかな?


 一応誤解無きように言っておくが、俺は煩悩全開な思春期スケベボーイの男子高校生である。スケベボーイであるが、自らの性癖を人様に晒せるほど図太い神経はしていないし、する予定もない。性癖というか、義母で興奮しているとか勘違いされたら俺は高層ビルの屋上から元気にダイブしてしまうだろう。


『キャー!! この人、とっても痴漢ですっ!!』


 トラブルが俺から避けて通ると言われてるくらいに平々凡々な俺にはありえないことだが、JKにこんなセリフを言われたら、俺は忽ちショックのあまりその場でカニのように泡吹いて大の字でぶっ倒れてしまうだろう。そして、いきなり倒れ込んだ俺を見知らぬレースクイーンが『大丈夫ですか?』とか言いながら太ももの上で介抱してくれるのだ。


『はあぁあぁ、えぇ~、次は~次はぁ~~……ときわ台、ときわ台でぇ~~ごじまぁす……お出口は左側にぃなぁりやぁああす』


 しょうもないことを考えていると、目的地の駅名を気怠そうな野太い声で車掌がアナウンスする。はい、妄想終了。妄想の中でむっちりと太ももの上で介抱してくれていたレースクイーンがいきなりV系のガチムチ筋肉マンにシフトチェンジしたので俺は即座に妄想をシャットアウトした。


「キャー!! この人、とっても痴漢ですっ!!」


 突然、近くで若い女の耳を劈く様な悲鳴が車内に響き渡る。

オイオイ、このご時世に痴漢かよ。いやご時世は関係ないが。誰だよ、エーブイみたいなシチュに憧れる薄汚れたオッサンはよ。いくらJKにときめいても痴漢はダメだぞ、痴漢は。もっとも痴漢を見つけたところで漫画やアニメのように彗星の如く現れて、助けに入ることなどするつもりは無い。するつもりは無いというか、出来る勇気が無い。いや、だって怖いじゃん?ぶっとい凶器を持ってるかもしんないし。敷かれたルートから大きく外れず、予め用意されたルートに沿って平々凡々と人生を過ごすのが俺の基本方針である。


「どうされましたか、お客様!?」


 すげー、秒で現れたぞ、駅員さん。

あらかじめ客に紛れて待ち構えていたの?まあ、こんな物騒かつ破廉恥な世の中であるからそれくらいの警戒はしていてもおかしくはない。


 ちなみ昔の話だが、俺が通う高校で風俗街に通う変態DK共がいたらしい(ちなみにDKとはゴリラではなく男子高校生の略)。普通に風俗街を見回りしてもなかなか捕まらないのである手を打ったのだ。


『捕まらないなら罠に嵌めればいいじゃない』


 うちの教師が風俗嬢のコスプレをして風俗街で飴ちゃんを配るという暴挙に出たのだ。しかもこの話の笑えるところが、それをやったのが女性の教師ではなく、男性のゴリラ体育教師である。そしておめおめと飴ちゃんを受け取った馬鹿なDK共は捕まり、それ以降トラウマでハメルことができなくなったとかなんとか。そんな世紀末な噂話を先輩から聞いたことがある。


「あっ、駅員さん! ほらっあそこにいるあの人です!! あの人が痴漢行為をした人です!!」


 若いセーラー服を身に纏った茶髪少女は何故か俺を指差し、駅員さんに話しかけていた。鎖骨付近まで伸びた髪は微妙なエロスを感じさせる。ごめん、意味わからんな俺。しかし成程、JKか。企画ものにありがちな設定だな。ごめん、ますます意味わからんこと考えていたな俺。しかし、おいおい指差す相手を間違えてますよ。

 

 あ、そうかもう一つの可能性を考えていなかった。

いくらなんでも展開が唐突過ぎるし、指差しJKも駅員のおじさんもリアクションが激しすぎる。この二つの不可解な現象から考えうるにこれはドラマの撮影なのだ。ドラマの撮影でロケにこの電車内を撮影現場に使っているのである。予算の都合的なアレで……。だとしたら変質者みたいなカメラマンやめちゃんこ居丈高な監督が紛れ込んでいるに違いない。


「こらっそこの君、ちょっとこっちに来なさい!」

「ははは、俺はエキストラじゃないですよ。どうしてもっていうなら日当一万円で請け負いますよ。意外と俺は殺陣が得意なんです」

「さ、殺人が得意とか……公衆の面前で何を怖いことを言っとるんだ君は! ちょっ、そこのJKの君! 本当にこの男が痴漢を働いたところを見たんだね!?」

「はい、私は見ました! この人があそこにいるおぢさんに痴漢行為をしていました!」


 ……うん、うんっ?


「えっと? あの、誰が誰に痴漢したと……もっかい言って?」

「ですから! 貴方があの油ソバみたいなテカテカおぢさんに痴漢をしました!」


 指差しJKは俺の斜め向かい側の端席に座っていた百貫という文字を体に表したかのような肥満の中年に指差し訴えた。


「エエエえええ!? チョッ、待って!? 俺はやってない! 俺は何にもあのおぢさんにやってないよ!?」

「やってないヤッテない……痴漢者トー●スは皆いつもそう言うんです!! 本当にやってないのならあの被害者のデ……貴方の性の捌け口にされた方の円らな瞳を見て訴えるのです!!」

「モキュ~ん……」


 今、デブって言いかけなかったこの娘!?

JKに指差されたおやぢはハムスターのような目をして俺を上目遣いで見つめていた。きめえ!モキュんとか存在しない謎の声を上げるな!


 ていうか、痴漢者トー●スってなに!?性の捌け口とか言うのもやめて!?男子高校生がおぢさんに痴漢とか地獄絵図で誰得なんですけどって言うかソレデモ俺はやってない!とりあえず、俺は被害者らしき肉塊もといハムスターおぢさんに俺が無実であるという事実を訴えることにする。


「俺はやってません」

「好きなのだ。前世から恋してましたのだ」


 酔っぱらってんのか、このおっさん。


「ほら! これで貴方が痴漢者であると証明されました!」


 指差しJKはほれ見ましたかと言わんばかりに小さな胸を張り、シャウトする。どこがだよ!?この漬物石みたいなおっさんがイカれてることしか証明されてねえんだわ!ていうか、何でこの娘はさっきから必死なんだよ!!自分が痴漢されたわけでもないのにこの必死さは何なんだ!


「も、もしかして、あんたこのおぢさんの娘とか?」

「身の毛もよだつこと言わないでください! 不潔が服を着て歩いているようなこのおぢさんの親族なわけがないでしょう!? 馬鹿です? もしかして馬鹿なのですか貴方は!?」


 おい、この女滅茶苦茶、辛辣なこと言ってるぞ!


「馬鹿はお前だ! 俺が何時何処でこのおやぢに痴漢を働いたよ!? 1ペソたりともこのおやぢに触れてねえぞ!」

「頭の中で薄い大人の絵本みたいにあのおぢさんを滅茶苦茶にしていたのでしょう!」

「何だその言い掛かり!? 立派な冤罪だぞこれは!!」

「もう滅茶苦茶にして……なのだ」

「おっさんはもう黙ってろよ!」


 そうだ!俺が痴漢をしたという証拠がない!

冤罪でこの馬鹿女子を訴えたいところだが、基本的には厄介事には巻き込まれたくない俺はとりあえずこの騒ぎを収拾することにした。


「ほら、駅員さんも言ってやってください! 俺が冤罪だという事実を!」

「う、う~ん、どうやら直接的な性的行為は無かったみたいだが、そこの少女の話では其処のデ…男性に血走った眼でハアハア言いながら視姦していたと聞いたが」

「間接的にも無いんですけど!?」

「うひゃあ、駅員さん! 見て下さい、この男こんな義母ジャンルで興奮している変態さんなんです! うひゃあ……」


 指差しJKは俺のスマホ画面を口を押えて見つめていた。

じゃ、ジャンルとか言うのやめろ!ていうか、うひゃうひゃ言ってるけど平気な顔してまじまじとそのモンスターエロ漫画を見つめているのはどゆこと?


「い、いつの間に……お、お前は何を勝手に人様のスマホをパクってんだよ! ち、違うこれはその! 保健体育の勉強で使うと思っているのですか?!」(←錯乱)

「う、う~む? 私にはホラー漫画のように見えるのだが、違うのかね? まあ、あまり紛らわしいことはせんでくれよ」

「そんなっ、そんなのあんまりです!!」

「あんまりなのはお前だろ!」


 一連の騒動が面倒くさくなったのか、駅員さんは苦言を言い残し、その場を立ち去る。な、なんで何もやってない俺も一緒に怒られてんだよ。納得いかねえ!こんな不幸な展開になっているのは、いきなりキチ●イのようにシャウトしたそこにいるJKのせいだ!と、文句の一つどころか二つ、三つくらい言ってやろうとするが。


「ううっ、畜生です! 今度こそ必ず貴方の尻尾を掴んでやるから覚悟しやがれです!」


 既に件の指差し少女は既に駅のホームに降り、俺を指差し、出口に繋がる駅の階段を降りて行くのであった。エェ、掴むも何も俺君、冤罪なんですけど。今の俺の気分は両サイドから宇宙人に両腕を抱えられて連れていかれるMPをもってかれた犬のような気分であった。あ、ていうかドア締まってんじゃん。はあああ、仕方ない。次の駅で乗り換えて引き返すか。そして、その場に残されたのはエロ被害者のおやぢと俺。え、何で二人だけ?さっきいっぱい人いたじゃん。かなり、いや、とってもいやです……。


「ジジ活、するのだ?」


 頬を染め、股間を抑えてモジモジするおやぢ。

ゾッ……あ、悪夢かな?俺は丁重にお断りし、隣の車両に移動するのであった。

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