後編!
「はぁー、どうしよう」
私はベットの上で悶々としていた。なにせヒロインの決め台詞を奪ってしまったのだ。
「私って今はモブキャラだから、イアン様が私に惚れる事はない。それが唯一の救いかぁ」
ただ、ベルとイアンの関係が進まなかったのは明白である。
「何かイベントが起こればなぁ」
「ベル様、失礼します」
「どうぞー」
召使いを自室に招き入れる。何やら興奮しているようだ。
「どうしたの?」
「実は今、イアン王子がアリエス様を訪ねて屋敷にいらっしゃいました! お着替えを持って参りましたので……」
「なんですってー!!」
絶叫。なんでイアン王子が屋敷に!? まさかこの間の無礼で私に何らかの罰を与えに来たのかしら。ならこれ以上無礼を重ねないようにしないと。
私は急いで正装に着替え、客間に案内されているイアン様のところへ向かう。
「お待たせしてすみません」
「大丈夫ですよ」
今日もイケメンだー! っていうか思ったよりにこやかね。
「えーと、どういったご用件でこちらに?」
「はい、実は……」
イアン様は少し緊張した面持ちで言った。
「今度の休日、お出かけしませんか?」
へ? いや、嬉しいけどなんで? そこで私暗殺されるとか? いやいくら何でもそれはないか。
……待って。これはチャンスなんじゃない? 逸れたルートを修復するチャンスだ!
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私は昨日の密会を思い出していた。ベルを屋敷に秘密裏に招き、作戦会議を開いたのだ。
「まず、結婚を申し込む前に親密になりましょう」
「それは私も同意します。まずは晩餐に招待して……」
「何言ってるんですか!? 中年貴族との親睦を深める訳じゃないんですよ?」
「す、すみません。恋愛経験が全くないもので」
「ハッ! つい失礼な物言いを! 申し訳ありません」
「いや、もういいよ。私も自然体で話すから」
「……ではお言葉に甘えます」
この方が常に私に気を遣うより有意義な会議になるだろう。
「まず、お出かけに誘うのがいいと思います。場所は……湖を散策したり、別荘に招いたり」
「なるほど。ならば領地に湖がある」
「そこがいいですね。では早速、明日誘いに行って下さい」
「ええ、明日!?」
「何を尻込みしているのですか。アリエス様は貴族。いつ婚姻が成立してもおかしくないですよ。善は急げ、です」
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という訳で今日ここに来たのだ。
「今度の休日、お出かけしませんか?」
よし! 少し緊張したけどちゃんと言えたぞ。アリエス嬢は少し考えているようだ。
あっ、こっちを見てくれた! さて、返事は……。
「いいですね! ベル様も誘って三人で行きましょう!」
くそっ! 二人きりで行きたいんだよ!
ふぅ、落ち着け。慌てることはない。なぜならベル嬢はこちらの陣営だからな。
一先ず了承し、自分の屋敷に戻る。そして急いでベル嬢に手紙を書いて送った。文面はこうだ。
「アリエス嬢が君の事も誘うと言っている。とりあえず了承して、当日に急な腹痛だと理由をつけて断ってくれ」
これで完璧だ。当日に断れば出かけること自体が中止になることはないだろう。
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当日。
「なんで君がいるんだ!?」
開口一番、イアンにそう叫ばれてしまった。だって、せっかくアリエス様からお誘いをいただいたんですもの。断る理由がありませんわ。
「よく考えたらお腹、痛くなかったです」
「嘘なんだから当たり前だ!」
「あれ、お二人いつの間にそんなに仲良くなったんですか? そうですよね、私お邪魔ですよね!」
まずい。なぜかアリエス様がウキウキで帰ろうとしている!
「アリエス様、イアン様と二人きりというのは気まずいので帰らないで下さい!」
「そ、そうですね。私もアリエス嬢にいて欲しいです」
アリエス様は少し驚きつつも、すぐに何かを理解したような表情になった。
「そうですね。最初はやっぱり緊張しちゃって会話も弾まないですよね。でもその空気もまた良いというか……」
何の話をしているのでしょう? まあとにかく引き留めることに成功しましたわ。
しかし、その後は何も起こらず作戦は失敗に終わった。
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ベルを屋敷に招き、再び作戦会議を開いた。
「先日はあまり上手くいきませんでしたね」
「君が来るという最大の誤算があったからね」
「面目ありませんわ」
「まあいい。次はどうする?」
「そうですね。ここは一歩進んでお茶会に誘いましょう」
「そうだな。でも次もベルが呼ばれたらどうするつもりだ」
「呼ばれたら行くしかないですね」
「なんでだよ!」
「その代わり全力でサポートしますわ」
まあ、それならいいか。まずはアリエス嬢を誘おう。
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「アリエス様、イアン様からお手紙が届いております」
「ええ、ありがとう」
召使いから手紙を受け取る。内容はお茶会の誘いだった。当然ベルも誘う。
そしてお茶会当日、私はイアン様の屋敷に来ていた。
「すごーい! 庭とか家具の配置がゲームのままだ!」
おっと、興奮している場合ではない。今日は秘策があるのだ。
「アリエス嬢、ベル嬢。今日はありがとう」
「こちらこそお招きいただきありがとうございます」
それから少し談笑した。そして1杯目の紅茶を飲み終わったあたりである提案をする。
「あの、ゲームをしませんか?」
「ゲーム? どんなゲームですか?」
「『愛してるゲーム』です」
「私、アリエス様とやりたいです!」
まだ、ルールの説明もしていないのにベル様が食いついてきた。まあ、いきなり異性同士でやるのもハードル高いしいいか。
「ではルールを説明しますね。交互に『愛してるよ』と言い合って、先に照れた方が負けです」
これで二人の距離が縮まること間違いなし! 完璧な作戦ね。
「じゃあ、私とベル様でやってみましょうか。イアン様は判定をお願いします」
「分かりました」
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なにかすごいイベントが始まろうとしていますわ。アリエス様から合法的に愛してるを摂取できるなんて……。生まれて初めて生の喜びを実感していますわ。
「私からいきますね。愛してるよ」
「ありがとうございます! 私もです!」
あっ、やっちゃったー!
「あのー、ルール分かってます?」
アリエス様が困惑してます!
「すみません。ちょっと勘違いしていましたわ」
そう、私の今日の使命はアリエス様とイアン様の仲を深めること。こんなことで動揺していてはダメです。気を引き締めないと。
「ではもう一回いきますね。ベル、愛してるよ」
尊死っ! (尊すぎて死ぬこと)
「ちょっとベル様大丈夫ですか!?」
ああ、体の力が抜けていく。アリエス様が心配してくれてますわ。もうこの世に未練はありませんね。
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ベル嬢が失神した。一体なにがあったんだ。いや、でもこれで二人きりか。ようやく訪れたこのチャンス、生かしてみせる!
「どうしましょう! 医師を呼ばないと……」
「きっと疲れただけでしょう。そっと休ませた方がいいと思います」
「そ、そうでしょうか?」
「それよりさっきのゲーム、私もやってみたいのですが……」
ここで、アリエス嬢を振り向かせてみせる!
「それは構いませんけど……。ではイアン様からお願いします」
よし、いくぞー!
「アリエス、愛してる」
どうだ?
「イアン、愛してる」
グッ、グワーッ!! 破壊力が強すぎる! ベル嬢が倒れたのも無理はないか。私ももう意識を保っていられそうに……ない……な。
「ええ、イアン様まで!?」
WINNER! アリエス!
アリエスはゲーム内で、ある程度耐性を習得していたので何とか耐えたのだ!
ゲームのシナリオにはない3人の恋愛バトル。果たして最後に結ばれるのは誰なのか?その行方は誰も知らない。
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