前編!
後編も今日投稿します
煌びやかな装飾、天井から吊るされたシャンデリア、豪華な食事。そして色とりどりの衣装を着た男女が楽しそうに踊っている。私、元アリエス・ウェリントンはこの光景に見覚えがあった。
これは、私がプレイしていた乙女ゲームの始まりの舞台、王宮で開かれた舞踏会そのものだ。
この光景を見たことで、私は前世の記憶を取り戻したのだった。
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私が500時間以上プレイしていたこの世界のもとになったゲームその名も『7人の王子様』は中世ヨーロッパ風の国が舞台の乙女ゲームである。
ゲームプレイヤーはヒロイン「ベル・マーシャル」となり、様々なイベントを通じてイケメン王子たちと恋を育んでいく。タイトルにもあるように、このゲームには7人の攻略対象が存在する。
なのでかなりボリュームのあるゲームになっているのだが、……正直500時間もプレイする人はそうそういない。
ではなぜ私がそんなにこのゲームをプレイしているかというと、推しているカップル(通称推しカプ)が存在するからである! その二人というのがヒロイン「ベル・マーシャル」とこの国の第一王子「イアン・ローゼン」だ! 私はこの王道カップルが尊すぎてプレイ時間のほとんどをイアン攻略ルートに費やしている。
ヒロインのベルは少し強気な貴族の令嬢。ゆえに王子たちに怯むことなく、正面からぶつかっていく。
そんなベルに心動かされる王子の一人がイアンだ。
彼は生まれつき体が弱く、武芸において第二、第三王子に劣っていた。その劣等感ゆえ、ベルと出会うまでは他人に心を開かずただ王子としての職務をこなすのみだった。
だが、ベルと出会いイアンは少しずつ変わっていくのだ。この過程がよい! 特に第三章でのイアンが初めて嫉妬心をむき出しにするシーンとか……いけないいけない。つい語り出すと止まらなくなっちゃうのよね。
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とにかくここはベルとイアンが初めて出会い、イアンがベルに興味を持つ大事なシーンだ。絶対に邪魔なんかしてはいけない。ここは大人しくモブに徹しよう。
……でも後ろから推しのイアンを見るくらいはいいよね。私はカニ歩きという何とも怪しい動きでイアンの背後のテーブルに移動する。
はぁー、うなじたまらん! ハッ、確かこの辺で貴族の相手に疲れたイアンが移動してそこでベルと……ってこっち見た!? やばっ、隠れないと!
私は急いでテーブルの下にしゃがみ込む。というかこんなことしたら逆効果なんじゃ……。
「大丈夫ですか?」
ギャー!! 生推しー!! 私はバクバクする心臓を必死に抑え、平静を装う。
「ええ、少し立ち眩みが。で、でも、もう大丈夫ですわ」
「そうですか? しかしアリエス嬢、汗がひどいですよ」
これは推しが目の前にいるからで……、ってなんでモブの私の名前を?
「イアン様がどうして私の名前を?」
「王子として貴族の名前と顔を覚えているのは当然です。お会いするのは初めてですね」
さっ、流石ね。ゲーム内の設定通り貴族付き合いは兄弟の中でも一流だ。
「はいっ! ア、アリエス・ウェリントンと申します」
「体調が優れないようなら、私が休憩室まで送りましょうか?」
そ、それはまずい! こんな展開ゲームには無かったし、今ここを離れたらベルとイアンは結ばれない!
「いえ、本当に大丈夫です。それより私と少しお話して頂けないでしょうか?そうすれば気分も晴れると思うのですが」
「ええ、いいですよ」
待って、勢いですごいこと言っちゃった。推しとの会話って何話せばいいのー!?
沈黙が流れる。やばい、どうしようこの空気!
「やっぱり私と話すことなんてありませんよね。お疲れのところ引き留めてしまいすみませんでした」
「お疲れのところとは?」
「貴族との会話にという意味で……、あっ!」
しまったー! これゲームをプレイしてないと分からない情報じゃない!絶対怪しまれた!
「あなたがなぜそれを……」
誰か助けてー!
「イアン様、私もお話に混ぜて頂いてもよろしいですか?」
こっ、この声は!
「これはベル嬢。もちろん構いませんよ」
きたっー! 推しその2―!
「そちらの方は?」
「お初にお目にかかります。アリエス・ウェリントンと申します」
「ベル・マーシャルです。私は王族じゃないから畏まらなくていいわ」
やはりゲーム通り、誰にでも分け隔てなく接している。
「ベル嬢はどうしてこちらに?」
「それは、そちらのコソコソしていたアリエス嬢とお話してみたいと思いまして」
ええ、私!? というか全部見られてた!
「コソコソしていた?それはどうして?」
「えっと……イアン王子に憧れていまして。そのっ、すみません」
何言ってんだろ私。全然ごまかせてない。
「私に憧れている? でも武芸などは弟たちの方が優れているじゃないか。私はそんな人間ではないよ」
え? このセリフって何回も聞いた。この後ベルが反論してイアンがベルに興味を持つことになるセリフ。そう、確かベルは……
「そんなこと……」
「そんなことないです! イアン様は武芸に優れていなくてもそれを言い訳にせず、学問や貴族との交流に向き合っている。その努力する姿勢に私は憧れているのです!」
イアンとベルがあっけにとられている。私は我に返り、自分が今行った行為を噛みしめる。
やっちゃったー!! どうしよう、これはベルのセリフなのに繰り返しプレイしてたせいでつい言ってしまった。
「す、すみません! 体調が優れないので私はこれでっ!」
逃げるようにその場を立ち去る。どうしよう、絶対変な女だと思われてるし大事なイベントを潰してしまった。なんとか軌道修正しなければ。
そうだ、転生前とやることはなんら変わりはないではないか。私はベルとイアンが結ばれるように正しいルートを選ぶだけだ。私は夜の月に向かって一人決意したのだった。
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私はイアン・ローゼン、この国の第一王子だ。私には弟が二人いる。そして私は生まれつき体が弱く武芸の才がなかった。せめて他の部分は負けないようにと学問と貴族との交流は積極的に行ってきた。
だがそれでも、弟たちがそれらの分野がてんでダメという訳ではない。私はどうやっても勝てないのだ。
だからこの舞踏会も楽しくなかった。そんな時こちらを見ている令嬢がいることに気づいた。退屈しのぎになればと話しかけた。
「大丈夫ですか?」
「ええ、少し立ち眩みが。で、でも、もう大丈夫ですわ」
なら、休憩室まで送ることを口実に舞踏会を抜け出してしまおうか。そう考えたが断られた。そして自分と話したいという。
「お疲れのところ引き留めてしまいすみませんでした」
私が貴族付き合いにうんざりしていることを見抜いていたのか。何故と聞こうとしたときにベル嬢に話しかけられた。
「イアン様、私もお話に混ぜて頂いてもよろしいですか?」
そう見抜いていたならば何故私をこの場に引き留めたのか。おかげでまた1人話しかけられたではないか。そう考えると少し意地悪をしたくなった。
「コソコソしていた? それはどうして?」
「えっと……イアン王子に憧れていまして。そのっ、すみません」
「私に憧れている? でも武芸などは弟たちの方が優れているじゃないか。私はそんな人間ではないよ」
大抵こういう意地悪をしたときは、答えに詰まるか学問ができることについて褒められるかのどちらかだ。
「そんなことないです! イアン様は武芸に優れていなくてもそれを言い訳にせず、学問や貴族との交流に向き合っている。その努力する姿勢に私は憧れているのです!」
でもその返答は意外なものだった。彼女は私の努力の過程に憧れていると言った。こんなことを言われたのは初めてだ。
気付けば私は彼女をダンスに誘おうとしていた。しかし、彼女は足早に行ってしまった。
私は初めて、結婚したいと思える女性に出会ったのだ。
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アリエス様かっこよすぎる~! 王子に対してあんなにスパッと言えるなんて。
なんだろうこの感情。これが娯楽小説で読んだ恋という感情でしょうか?
はぁ、どうにかしてお近づきになりたい。でもどうすれば……。
ふと、となりを見るとイアン王子が呆けた顔でアリエスが去った方をじっと見ていた。
これはイアン様も私と同じなのでは? そうに違いない! 同性である私が惚れているのに、異性のイアン様が惚れないはずがない。
ならば……。
私はイアン様に話しかける。
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「イアン様、私にイアン様とアリエス様がお近づきになるお手伝いをさせて下さい」
急にベルが話しかけてきた。私は我に返る。
「なんですか、急に。意図が分かりません」
正直とても魅力的な提案だ。だがいきなり飛びつくのも怖い。一先ず様子をうかがう。
「いえ、イアン様がそう望んでいるのではないかと思っただけです」
「……見返りに何を要求する」
「(アリエス様と)お近づきになりたいだけですわ」
「そうか、分かった」
なるほど、俺との繋がりが欲しいのだな。そういう人間は逆に信用できる。これまで何人も同じような貴族と出会ってきた。対処も容易だ。二人は固い握手を交わす。
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こうして若干嚙み合っていない奇妙な同盟関係が結ばれたのだった。
さて、
推しカプをくっつけたいアリエス
VS
アリエスと結婚するために自分に取り入るベルを利用するイアン
VS
アリエスとお近づきになるためにイアンとアリエスを結婚させたいベル
相手を想うばかり周りが見えていない三人の恋愛バトル、その行く末はいかに?
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