悪さしてたら変態陰陽師に捕まった(鬼×陰陽師)
時は平安。魑魅魍魎が跋扈する時代である。都の外では妖や鬼が巣食い、都の中では妖だけではなく、人の嫉妬や怨念から生まれる生霊や怨霊が現れ、相手を呪う。それは無意識かもしれないし、自覚しているかもしれない。自覚している者は陰陽師を用いて気に食わない者を呪殺したりする。その気に食わない理由は恋愛がらみだったり、権力闘争だったり様々だ。そんな全然平安でない都がここ平安京。
その平安京の一角に屋敷を構える貴族の元にいま明石はいた。なぜそのような場所にいるかというと、明石は民間で活躍している陰陽師であり、その評判を聞きつけた貴族が彼女を召喚したのだ。理由は近くの山に鬼が住み着いてしまったので退治してほしいというものだった。
なぜ民間の明石が呼ばれたのかというと、ぶっちゃけると安く雇えるからだ。安いと言ってもそれなりの褒賞が支払われる。
宮中には陰陽寮という場所で、れっきとした官職についてる陰陽師が存在し、勤めてるが、その分高い。だが、民間であればそれよりもずっと安く雇えるので、よく貴族たちに重用されるのだ。
明石は貴族の依頼を受諾すると、すぐさまその鬼が住み着いてるという山へ向かった。
山の中腹くらいまでくるとあたりの雰囲気が変わった。
妖気を感じる。
明石は警戒する。
瞬間、上から勢いよく何者かが太刀で襲撃してきた。
すぐさま呪力を練って結界を張り、防ぐ。
「なに!?」
襲撃者は驚き、咄嗟に後退した。
「お前呪術師か」
「いきなり襲ってくるとはご挨拶ね」
振り向くとそこには虎柄の露出度の高い肌着を着た半裸の娘がいた。
ただの娘ではない。二本の角を生やした鬼の娘だ。
鬼の娘は太刀を構えて、明石と対峙する。
「俺を倒しに来たってところか」
「あたり。最近やりたい放題この辺りを荒らしまくってるっていうのはあなたよね」
「ああ」
「やめる気は?」
「無い」
「なら遠慮はいらないわね」
「やれるもんならやってみな」
鬼の娘が挑発的に嗤う。
「オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ!」
明石が不動金縛りの真言を唱える。
呪力の光が鬼の娘の元に飛来する。
鬼の娘はそれを太刀で弾く。
しかし、光は鎖型に変形し、鬼の娘の両手を拘束した。
「なに!?」
「なんだ弱いわね、この程度か」
明石がため息を吐いた。
しかし、鬼の娘から鬼気があふれ出し、不動金縛りが強制的に解呪される。
「へえ、少しはやるみたいね」
愉し気に明石は微笑する。
明石が木行符を数枚放つ。
符は無数の蔓に変化し、鬼の娘を襲う。
鬼の娘に鞭のように蔓が飛来。ほとんど防いだが、幾本かの蔓が彼女の体を鞭打つ。彼女の白い肌に幾本か赤い線が走った。
「いたッ!?」
鬼の娘が微かに顔を歪める。
「万魔調伏、急急如律令!」
息つく暇もなく、明石は攻撃を繰り出す。呪符から呪力が解き放たれ、鬼の娘に迫りくる。
鬼の娘は妖気を込めて、結界術式を構築した。
結界は明石の呪術を防いだ。
「む、これも防ぐか。なかなかやるわね……ちょっと本気出していくか」
不満気に明石が言う。新しく術式を練り始める。
「ノウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」
明石は不動明王の手印を組み、一字咒を放つ。
炎が鬼の娘のもとに襲い来る。
炎は紅音が霊力で生み出した結界で防がれるが、明石の圧倒的な呪力によって破壊される。
「ノウマク・サマンダ・バザラ・ダン・カン!」
明石が息を吐く間もなく、再び一字咒を唱える。
再び炎が紅音を襲う。
紅音が太刀に霊気を集める。
炎が紅音に向かってくる。
襲い来る炎を紅音が太刀で受け止め、その炎を霊気を纏った太刀に纏わせ、振った。
明石が放った呪術が明石自らに呪詛返しとして返ってきた。
「げっ!?」
さすがの明石もこれは予想外だった。
「オン・ヴァルナヤ・ソワカ!」
慌てて明石が水天真言を唱えて、水を放つ。
呪詛返しされた炎が水天法によって消火された。
紅音が太刀にさらに強力な霊気を纏わせ、振った。
膨大な霊圧が明石に圧しかかってくる。
「臨兵闘者皆陣列在前!」
九字を切り、襲い来る霊圧を祓う。
祓い終えた後、明石はさらに龍、巨猪の二体の式神を召喚。
「おいおい反則だろ……」
鬼の娘は巨大な二つの式神を見上げて顔を引きつらせた。
全力でその場から脱出しようとするも、正面を龍に回り込まれてしまった。
「オン・ビシビシ・カラカラ・シバリ・ソワカ!」
そして、とどめとばかりに不動金縛りの術を放たれ、逃げる術なく明石に捕まった。
「クソ、抜けねえ!」
「無駄よ、あなたの妖力では私の呪力には勝てない」
鬼の娘は縄抜けしようと身を捩るが、明石の強力な呪力で編まれた術式は解呪も破壊もできなかった。
「もう悪さしないって約束するなら命は助けてあげてもいいわ」
「ほ、ほんとか?」
明石の言葉に鬼の娘が食いついた。
「ええ」
明石は答える。
「妖とはいえ可愛い女の子を殺すのは個人的に気分が悪いしね」
「か、可愛い!?」
「ええ」
「こんな俺が?」
「そうよ」
「男言葉使ってるし、不器用なのに?」
「むしろ萌え要素じゃない」
「初めて言われたよ、可愛いなんて」
「それで、どう? 約束する?」
「ああ」
「そういえばあなた名前はなんていうの?」
「紅音だ」
「へえ、可愛い名前ね。それ本名?」
「ああ」
「それじゃあ、これからよろしくね」
「へ?」
「なにを驚いてるの?」
「だって……え?」
「ああ、まさか人様に迷惑かけて、もう悪さしませんって言ったから、それで全部チャラになると思ってた?」
「ち、違うの?」
「ぷ、ばっかじゃないの?」
明石がおかしそうに紅音を嗤う。
「い、命は助けるって」
「ええ、命は助けるわ。でもあなたはこれからわたしの式神よ」
「は?」
「あなたはわたしが言ったらどんなことでも従わなきゃいけない」
「ふ、ふざけるな! そんなこと聞いてないぞ! 俺を騙したのか!?」
「紅音、名前っていうのはね、信頼できる者以外には名乗ってはいけないのよ。うっかり本名を名乗ろうものなら自分を恨んでるものから呪われかねない。そしてあなたはうかつにも本名を名乗ってしまった。その時点で契約は発動してるってわけ」
「このクズが!」
紅音が明石を罵る。
「っ!?」
その瞬間、紅音は左胸を押さえて苦し気に喘ぎ始めた。押さえた左胸には格子状の印章「九字」が浮かび上がっていた。
顔は死人のように真っ青だった。
「あなたは私の式神。従者が主人に逆らえるわけないでしょ」
「て……めぇ……」
明石は嗜虐的な視線で苦し気に呻く紅音を見る。
紅音は明石を鋭く睨んだ。
「いいわね、わたしは生意気な娘大好きなのよ。わからせたくなるの。まあ、人間でもいいんだけどね。ようはわたしの大好物は可愛い美少女というわけ。ただ対象は犯罪者だけだけど」
「変態……」
紅音がドン引きして言った。
「何と言おう構わないけどね、あなたに自由はないのよ」
うつ伏せで左胸を抑えながら紅音は痛みでそのまま気を失った。
☆
紅音は目が覚めた。見知らぬ天井が目に入る。
体を起こそうとするが金縛りにあったように体が動かない。
「あ、目覚めた?」
目の前には先刻戦った陰陽師の少女の顔があった。口と口がくっついてしまいそうな程の距離である。危機感を感じて紅音は跳びのこうとするも、手足は呪術で拘束されてて動かない。
「ひっ!?」
「そんなに怯えられると傷つくわ」
「無茶言うな。さっきお前が自分で言った言葉を思い返してみろ!」
「なんのこと?」
「俺を式神にするだとか、美少女が大好きだとか言ってたろ」
「うん」
「うんって……あっさり認めるのかよ」
「事実だし」
「そんなこと言うやつに至近距離で迫られて、怯えない方がおかしいだろ」
「わからないわよ。私と同じ性癖の持ち主がいるかもしれないでしょ」
「じゃあ、そいつを選べばいいだろ」
「でもあなた悪さしてたし」
「お前の奴隷になるほどの悪行を働いたつもりはない」
「あなたがそうでも都で迷惑を被った人たちからしたら、大したことなのよ」
「うぐ……」
明石の言葉に紅音は唸る。
「悪行を働いたなら、その行いの分だけの償いをしないと、今後ひどい目に会うかもしれないわよ」
「俺は鬼だ。元から地獄へ堕ちる身なので関係ないな」
「鬼でも転生後は極楽へ行けるかもしれないわよ」
「んな馬鹿な」
「まあ、どう思うが勝手だけど、これは強制なので断っても意味がないわよ。もし断ろうものなら術を用いて苦しませてでも従わせる」
明石が愉し気に笑う。
「はあ!? ふっざけんな!」
紅音が抗議する。
「オン・インドラヤ・ソワカ!」
明石が紅音の腹に手を当てて帝釈天真言を唱えた。雷撃が紅音の身体に直接伝わり、激痛が走る。
「ぎゃああああ!?」
紅音が痛みで表情を歪めながら絶叫する。
「……はあ……はあ……」
「わかった?」
「……」
「返事は?」
明石は紅音の腹部に置いていた掌をグーで握り、押し付けた。
「痛い痛い痛い!? やめて!! わかった! わかったから!!」
紅音は痛みで涙目になり、絶叫した。
「なら本当にわかったかどうか、確かめてみるわ、身体に」
明石は拘束されて身動きのできない紅音にうつ伏せで覆い被さる。そして、右手を紅音の豊かな乳房に置いた。そのまま揉みしだく。
「な!? なにして――」
紅音が抗議しようとした。しかし、明石に唇を奪われ、さえぎられてしまった。
「むう!?」
紅音が目を瞠って驚く。
明石は紅音に唇を食むように接吻する。そして、口の中に舌を入れ、紅音の口内をまさぐる。
「む~む~(嫌だ! やめろ!)」
紅音は無理矢理口づけする明石に抗議するも唇を塞がれていて声に出せない。
だが心の中で拒否反応しめしたにすぎずとも左胸に痛みが走った。
「ゔ~っ!? ゔ~っ!?」
痛みと恐怖で紅音は涙目になる。
紅音が拒否反応を示したことは主人である明石にも当然伝わっている。
「やっぱりまだわかってなかったみたいね」
明石が愉し気に嗜虐的な笑みを浮かべた。
「痛い! 痛い! 助けて! もう許して!」
紅音は自由になった口で明石に懇願する。
「ダメ♥」
明石は熱ぽい表情で紅音の懇願を拒む。
その後、紅音は明石に好き放題弄ばれ、もう二度と道を違えないと誓うのだった。