触れることのできないからだ(人×幽霊)
ボロボロの幽霊屋敷みたいな廃墟がある。いや、みたいなではなく本当に幽霊屋敷だった。
中学校の制服で廃墟の壁に腰かけたわたしの隣には幽霊がいた。
幽霊と言っても別に怖くない。
体は透けてるが、黒髪ショートボブのセーラー服を着た中学生くらいの可愛らしい女の子の幽霊だ。
わたしは人見知りで友達もいない。
でも恋人はいた。
その恋人は目の前にいるこの子だった。
でも幽霊だから、手も繋げないし、キスもできない。
しかもこの子、地縛霊なのでこの廃墟から動けないのでデートもできない。
それがわたしにとっては凄くもどかしい。
わたしはもっと好きって気持ちを体で感じたい。
「どうしたの?」
体育座りするわたしの左隣で少し高い位置からその幽体を浮かせながら彼女めいは言った。
「いや幽霊ってつらいなって」
「確かにそうかもだけど、それふつう私の台詞よね」
めいは口元を抑えて笑った。
「でもわたし、めいにわたしの好きだって気持ちを伝えたい」
「もう十分伝わってるよ」
優しい表情を浮かべてめいが言った。
「違う、そうじゃなくて……」
「わかってる。でも私は幽霊だから」
そんなことわかってる。
でも納得はできない。
わたしは奥歯をかみしめた。
「もうそんな顔しない」
「でも……」
暗い顔でしょんぼりしているとめいの顔がわたしの目の前にあった。
めいはわたしの左頬にその右手を添え、キスをした。
やはり人間やほかの動物にはある温かさは感じない。
でも感情は伝わった。
めいがわたしのことを好きていう感情が。
それが嬉しくてわたしは触れることのできない唇にキスをした。
「もしわたしが死んだら、その時はめいの温もりを感じることができるかな……」
「きっとできるよ。それが天国でも地獄でも」
「お互い別の場所にいたら?」
「私が迎えに行く」
めいが親指を立てて言った。
「なら安心ね」