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心の奥が気持ち悪い5




三十分程ファイル整理をしていると、店長が二人分の皿を持って店に戻って来た。

「瀬川君はまた自分の部屋ですか?」

「そう、こっちに来て食べればいいのに」

店長はテーブルに皿を置きながらそう答えた。私はファイルを閉じると、カウンターから立ち上がってソファーに向かう。

私がソファーに座ると、店長は少し眉を寄せながら不思議そうにこう言った。

「ねぇ、何であんなに卵あるんだろう」

「知りませんよ。店長が買ったんじゃないですか?」

「使わないのに買わないって」

「店長、お店で買ったものばっかり食べてると身体に悪いですよ」

「残念、夕飯は自分で作ってますー」

「夕飯っていうか、夜食ですよね。太りますよ」

「そんな雅美ちゃんみたいにはならないって」

「失礼な!」

どうでもいい会話を繰り広げながらオムライスを口に運ぶ。何の変てつもないいつもの風景だ。

テレビでは料理番組が終わって次の番組までの空き時間を埋めるニュースが流れていた。ニュースキャスターが真面目な顔を作って記事を読んでいる。どうやら今日はあの有名映画監督の一周忌らしい、という何の役にも立たなそうな情報を得た。

「そういえば、深夜さんってどこに住んでるんですか?」

私の目の前のオムライスも残り三分の一。私はちょっと気になっていたことを尋ねてみた。

中学が同じってことは、店長と同じ地区に住んでると思ったのだ。なら深夜さんはこの店の近くに住んでいるだろうし、それなら私の家とも近い。

ここまで考えてふと気が付いた。そういえば、店長もここから学校に通ってた訳じゃないのか。今はこの店の二階に住んでいるが、中学生のときは別のところに住んでいただろう。

「深夜?県内だよ」

「その答えアバウト過ぎじゃないですか?」

店長はオムライスの最後の一口を飲み込むと、ちょっと考えてから答え直した。

「琵琶湖の向こう側。深夜は仕事仲間と団体で住んでるから。わかりやすく言うと寮みたいな」

「仕事仲間ですか」

「そ。あそこすごい上下関係厳しいらしいよ。僕は絶対混ざりたくないね」

「まぁ縦社会の国日本ですから」

「ご飯とかお風呂とか全部偉い人順なんだって」

「店長には絶対ムリですね」

「僕は自由を求めてるからさ」

「深夜さんは地位的にはどれくらいの所にいるんですか?」

とは聞いてみたが深夜さんまだ若い。確か二十二歳と言っていた気がする。ならやはり下っ端の方なのだろうか。そんな予測をしてみたのだが、店長答えは意外なものだった。

「深夜はあれで一応幹部だよ。僕らのとこでいう店長みたいなもん」

「すごいですね!まだ全然若いのに」

「まぁあそこは偉さイコール強さだからね。深夜は昔から鬼みたいに強いから」

店長はそう言ってから「だからなるべく怒らせないでね」と冗談っぽく付け加えた。失礼大魔神の店長じゃあるまいし、むしろ店長が気を付けるべきだと思う。

深夜さんの話をしているうちに、彼女についてもうひとつ聞いておこうと思った。実はずっと気になっていたのだ。仕事には全く関係のないことなのだが、店長が微妙なこと言うから喉に小骨が刺さったような気分だったのだ。

「ところで、深夜さんの本名って……」

そこまで言って、私の言葉は止まってしまった。目がテレビ画面から離れなかった。店長も私の切れた言葉を全く気にせずテレビを見つめていた。ニュースキャスターがさっきよりも慌てた声でしゃべっている。

《今、新しいニュースが入りました。最近再び犯行に及ぶようになった切り裂きジャックが、つい先程、滋賀県津島横市の人気のない路地で殺人を行いました。切り裂きジャックが昼間に犯行を行うのは初めてで、住民達の間には不安が広がっています。詳しい情報が入ってきました。被害者は勝俣梓さん二十二歳、大学から帰宅する途中だったようです。犯行時刻は今日午後十二時から十四時の間、警察はその時間に不審な人物を見かけなかったか住民に聞き込み調査をすると共に……》

犯行場所は津島横市……この近くだ。確かジェラートさんが通う聖華高校も津島横のすぐ隣だったような気がする。まさか本当にジェラートさんが……?

「切り裂きジャックまた出てきたね」

テレビを見たままの店長がボソリと呟いた。それは独り言なのか私に向けての言葉なのか判別に迷うものだった。

「……店長、一応確認しときますが、切り裂きジャックの正体知ってますよね……?」

「ジェラートちゃんでしょ?ネズミィーランドで会った」

やっぱり知ってたのか。ジェラートさんが切り裂きジャックだと私の口からは出していないが、店長ならもしかしたら知っているかもと思っていた。理由はないけれど、店長なら知っていても不思議ではないと思ったのだ、なぜか。

「ジェラートさん、何でまたこんなことするんでしょう……」

「さあ?本人に聞いてみたら?」

「私ジェラートさんの連絡先知らないんですよ」

仮に知つていたとしても、直接なんて聞けないと思うが。それに、ジェラートさんと同じ学校に通っている鳥山さんなら、校内でいくらでも会えるはずた。本人に聞いたのならいくら鳥山さんでも私に報告してくれるはずだろう。それをしないのは、やはり鳥山さんも聞けないからじゃないだろうか。こんなこと、正面から聞けるようなことじゃないもの……。

「連絡先くらいなら簡単に調べられるけど、どうする?」

店長はケータイを取り出すと、何でもないようにそう言った。だが情報収集は何でも屋の、朱雀店の十八番らしいし、きっと本当にすぐにわかってしまうのだろう。

「でも堂々と聞けるようなことじゃないですよ」

「そうかな」

普通はそうですよ、と返そうとしたが、店長の次の言葉に先を越された。

「じゃあ僕が聞こうか?」

「えっ!だって店長、ジェラートさんと真っ赤な他人に等しい立場じゃないですか!」

「一回会ったことあるし」

「名前も教えなかったくせに!」

「知りたかったら向こうが聞くはずだし、それにもしかしたらすでに知られてる」

それは初対面で名乗らない理由にならない気がするんだけど……。私が納得できずにもやもやとしているうちに、店長は何やらケータイを操作していた。ジェラートさんの電話番号を調べているのだろうか。

再びテレビに視線を向けると、ニュースキャスターはいつもの固い表情に戻って切り裂きジャックとは関係のない話をしていた。




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