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形骸之内4



その五分後、私達三人はソファーに座ってアイスを食べていた。茹だるような暑さの中、アイスは最高の嗜好品だ。

「このスイカのアイスいまいちだね。なんかまずい」

店長はそう言って、一口だけ食べたスイカ型のアイスを瀬川君に突き出した。

「食べる?」

「遠慮しときます」

瀬川君はカップの抹茶アイスを飲み込みながら、間髪入れずに答えた。

「雅美ちゃんいる?」

今度は私にアイスを突き出す店長。いや、まずいって言ったものを人に勧めるなよ。

「私もいいです。店長自分でそれ選んだんですから全部食べてくださいよ」

私は呆れた声でその言動を咎めた。真っ先にそのスイカ型のアイスに手を伸ばしていたくせに。

「雅美ちゃん厳しー」

ぶつくさ言いながらも、店長は結局スイカ型のアイスを食べ続けた。

「店長」

三人ともアイスを食べ終わったタイミングを見計らって、瀬川君が店長に声をかけた。彼は数枚の紙をテーブルに広げる。

「笹原さんのスケジュールと見波さんの個人情報です」

「ありがと」

店長はテーブル上の紙を数枚手に取って視線を走らせた。

「ラオジェ?」

「はい。その日は笹原さんの誕生日なので数人の部下とその店で食事をするそうです」

「誕生日に殺されるのか。ご愁傷様だね」

店長は他人事のようにそう言った。だが瀬川君も私も他人事のような顔をしているだろう。

「ラオジェに事情を説明して店員として潜り込む許可をもらいました」

「さすがリッ君、仕事が早い!」

本当だよ。もう瀬川君店長になれるんじゃないかな。

自分の頭を撫でくり回している店長の手を面倒臭そうに払いながら、瀬川君は話を続けた。

「店長、デザート担当の料理人ならもう一人入れてくれるそうですが、入りますか?」

「そうだね。全部深夜に任せるのも怖いし、久しぶりに働きますか」

「じゃあそういうふうに連絡しておきます」

瀬川君はテーブルにノートパソコン置き、カタカタとキーボードを叩いた。その作業が終わると、脇に持っていたクリアファイルを私と店長に渡す。このファイル、さっきから気になってたんだよね。

「ラオジェの資料です」

「雅美ちゃん、ちゃんと読んでおいてね」

「店長もちゃんと読んでおいて下さいよ」

瀬川君の忠告に店長は「はーい」と間延びした返事をした。

私はもらったばかりの資料をさっそくめくってみる。ラオジェって、名前からなんとなく想像はしてたいたけど、やっぱり高級レストランのようだ。そういえばホールに潜入するのは誰なんだろう。瀬川君なのかな。

「じゃあ雅美ちゃん、ホールはよろしくね」

「え゛っ」

私は驚倒して変な声を上げてしまった。店長は意外だという顔をする私に、意外だという顔をしている。

私はもちろん店長の言葉に驚いた。さすがに今回は瀬川君が行くと思っていたのだ。だってこのラオジェってレストラン、どう見ても高級料理店だ。こんなレストラン入ったこともないよ!

「私ですか!?私そんな所の接客なんてわからないんですけど……!」

無理無理無理と必死に訴えたが、店長は困ったように言った。

「でもホールは女の人しか雇ってないらしいし。うちでは雅美ちゃんしか……あ、リッ君を女装させる?」

いいこと思い付いたという顔をする店長、瀬川君はそっと顔を背けた。店長はいたずらっ子っぽい笑みを浮かべている。

「そ、それならしょうがないので何とか頑張ってみます……」

心なしか瀬川君が安心したような表情をしている。いや、間違いなく安心しているだろう。店長だったら本当にやりかねないもんね……。

「大丈夫だよ。僕も厨房にいるし、リッ君もお客さんとして行くから」

私を勇気付けるように言う店長だったが、それについて私にはさっきから気になっていることがあった。

「厨房って、お店から見えませんよね……?」

「大丈夫みたいだけど……何で?」

資料をめくって店の構造を確認し、不思議そうに聞き返す店長。

……言う?言うか?いや、言おう。これはいつか言わなければならないことだったんだ。革口さんの尾行の時もずっと気になっていたことじゃないか。

私は意を決すると口を開いた。

「……店長、自分では気づいてないかもしれませんけど、その銀髪すっっごい目立ってますよ」

瀬川君は無表情の中にも「よく言った」という顔をし、店長は「そうかな」と言いながら自分の髪をいじっていた。





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