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形骸之内3




「おはようございます……」

翌日、いつも通り私はバイトに来ていた。しかし私の気持ちはいつも通りではなかった。瀬川君のことだ、昨日店長に言われた仕事はもうできているだろう。そうしたら、今日今回の仕事での私の役割が決まるのだ。

昨日から私の頭の中を「殺人」という単語と銃火器を持ったゴツイ男が占拠している。ゴツイ男は昨夜の夢にまで出てきて、銃を突き付けながら怯える私にこう言うのだ。罪を償え!この人殺し!。

いや、あなたが言えたことではないでしょう!と心の中で渾身のツッコミを入れるのだが、夢の中の私にそれを口にする度胸はなく、許してください許してくださいと懸命に命乞いをするのだ。

今日も夏休みなのに朝から学校に行っていた。時刻はもう夕方なのだが、相も変わらず店に入るときは朝の挨拶だ。引き戸を開け、一歩踏み込む。店内は静かなので誰もいないと思った。

てっきり店長がいると思ったのだが。店の裏に瀬川君がいるにしても、いささか無用心すぎやしないだろうか。まぁ店が無人なのはたまにあることなので、あまり気にせずに店の中を進む。

入口の目の前にある大きなカウンターの横を通ろうとしたとき、

「あ、荒木さん」

「うわああああ!?」

カウンターの下から瀬川君が現れた。完全に誰もいないと思っていた私は、驚きの混じった悲鳴を上げながら飛び諏佐る。瀬川君は立ち上がってその鉄仮面を私に向けた。

「せ、瀬川君」

「すごい声だね……」

瀬川君の顔には相変わらず表情はなかった。……いや、呆れている?いつもより若干呆れ気味か?でも私の「おはようございます」に無反応だったあなたが私を驚かせたんですよ。

それにしても瀬川君はカウンターの下でいったい何をしていたんだろう。

落ち着いた私はここでようやく瀬川君が手に何か持っていることに気が付いた。彼は丸めた新聞紙を持っている。私の視線に気付いたのか、瀬川君は新聞紙をごみ箱に突っ込みながら言った。

「カウンターの下にゴキブリが逃げてさ……」

ゴキブリ!あああああ、だから嫌なんだよボロい建物は!もう怖くて今日一日カウンターに座れない!

「荒木さん、ちゃんと殺したから大丈夫だよ」

青い顔をして固まる私に、瀬川君はティッシュを大量に取りながらそう言った。どうやら安心させようとしてくれたらしいが、それならもう少し抑揚と暖かみを込めて言ってほしい。

と、ちょうどその時、さっき私が開けたばかりの引き戸がガラリと開いた。ビニール袋を持った店長が姿を現す。

「雅美ちゃん、アイス買ってきたよー……あれ?リッ君もいる」

店長はカウンターの側で突っ立っている私達を不思議そうな目で見ていた。




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