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頭に乗せたメガネのようにはいかないことばかり




別のファイルの整理を初めて約三十分。本棚の向こう側からドンドンという音が聞こえてきた。私は書庫のドアの方を見て、ソファーにいる店長に声をかける。

「あ、瀬川君戻って来たんじゃないですか?」

「雅美ちゃん開けてあげて。僕今手が離せないからさ」

手が離せないって、あなた今テレビ見てるじゃないですか。どうやら対戦式のクイズ番組を見ているらしい。立ち上がる気はさらさら無いようだ。

私はため息をつくと、仕方なくカウンターから出た。本棚の前に立ち、どうやって動かそうかと考える。とりあえず本棚に手をかけてみた。

体重を使って思い切り押してみる。しかし、ぱんぱんにファイルが詰まった本棚はかなり重たい。どうやら床に細いレールが埋め込まれており、本棚は移動させやすいように設計されているようだが、それでも重たいものは重たい。私はその結果を如実に受けとめ、顔を右に向けてありのままを告げた。

「店長、本棚全然動かないんですけど」

「えー、ほんと?押したら動かない?」

私は手伝う気ゼロの店長を思いきり睨みつけるが、彼は私の方など全く見ておらずそれはまるで意味のないことだった。どうやらテレビから流れるクイズ番組は今一番盛り上がりを見せているらしい。

私は店長を睨むのを諦めた、もう一度本棚を押してみた。本棚は数センチ奥へ引っ込んだ。だが、やはりそれだけだった。

確かに、確かにね、少しずつ押していったらあのドアは現れるだろうよ。でもさ、だからといってそこまでやらすか!?手伝えよ!

「もー、ほんと頭悪いよねこの芸人。最近の芸人には学力も求められてるっていうのに」

間違いを連発する芸人に店長が文句を言う。私は今にも唾を吐きつけんばかりの形相でそちらを振り返った。だったらその芸人に代わってクイズ受けてこいや。ピカピカ光る台に立ってクイズ受けてこいや!

「荒木さん、大丈夫?」

本棚の奥から瀬川君の控えめな声が聞こえた。私は無理に元気な声をだして答える。

「大丈夫!もうちょっと待ってて!」

「う、うん……」

私が肩から押そうと本棚にくっついた時、エプロンのポケットに入っていたケータイが鳴った。これは電話の着信音だ。私は心の中で瀬川君に謝りながら、本棚から手を離して通話ボタンを押す。

「もしもし?」

《あ、あっらー?》

「にっしー、どうしたの?」

電話の相手は友人のにっしーだった。何の用だろう?メッセージ派のにっしーが電話なんて珍しい。

通話に集中すると、ケータイの奥からにっしーの困り声が聞こえてきた。

《実は家の鍵をなくしちゃいまして……。それで何でも屋さんに相談しようと思って》

家の鍵なくすって、まじか。相変わらずにっしーは抜けていr……おっちょこちょいなんだから。

「今どこにいるの?私行こうか?」

《今学校の近くです。一応通った道探してるんですど、今日結構ぶらぶらしちゃったので……》

「わかった、じゃあその辺にいといて。三十分で行くから!」

《ありがとうございます~》

私は通話を切り、素早く取り去ったエプロンをカウンターの下に投げ込むように置く。それから壁の向こう側の店長に向けて叫んだ。

「店長!急用ができたんで行ってきます!」

「え、リッ君は?」

私は店から飛び出しながら叫んだ。

「たまには自分でやりなさい!」





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