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神様のいたずらかもしれない2




放課後時のこの時間、ガヌトは学生でいっぱいだった。

おじいちゃんと並んで入った私はかなり浮いていたが、店員さんはにこにことした作り笑いで席に案内してくれた。おそらく周りからはおじいちゃんと孫だと思われているだろう。

「荒木さん、何にします?」

案内されたテーブルに座ると、おじいちゃんはさっそくメニューを開いた。私は心の中ではすでにチーズケーキと決めていたが、ここはおじいちゃんの意見を先に聞くべきだろう。

「おじいさんは何にします?」

そう聞くと、おじいちゃんは「私はお茶をもらうことにするよ」と答えた。それから、何も食べないことを私が不思議に思ったのがわかったのか、こう付け足す。

「実はさきほど孫のところで食べてきたばかりでして。あまりお腹が空いてないんですよ」

私はなるほどと頷いて、チーズケーキを頼んだ。お腹がいっぱいの人に無理に食べ物を勧めるのはいけないだろう。

「それにしても、あの時間は駅が混んでますねぇ」

「学校が終わる時間ですからね」

そのあとおじいちゃんはもう一度私にお礼を言って、私はまたブンブンと首を振った。

しばらく話をしているうちにチーズケーキが運ばれてきた。私は「いただきます」と手を合わせて、ケーキを一口食べる。

「美味しいかい?」

「はい!私、チーズケーキ大好きなんです」

そう言うと、おじいちゃんは嬉しそうに笑った。

「それはよかった。私の孫もどうしようもないくらい甘いものが好きでねぇ」

「さっきのお孫さんですか?」

「いやいや、それの弟です。兄の方は反対に、甘いものは滅多に食べない」

「正反対のご兄弟なんですね」

私とおじいちゃんは顔を見合わせてクスクスと笑った。

チーズケーキはあっという間に無くなった。おじいちゃんは「もう一ついりますか」と言ってくれたが、さすがにそれは遠慮する。

何でも屋の給料はとてもいいので、ファミレスのケーキくらいいつでも買えるし、定期を拾ったくらいでケーキを二つも奢ってもらうのはさすがに失礼だと思った。

話は進み、話題はいつの間にか私のバイトのことになっていた。

「荒木さんは何のお仕事をなさっているのですか?」

「うーんと、一言では言い表せないんですけど……人助け?みたいなことを……」

少しどころかかなり美化してそう言う。この仕事は人助けなんて美しいものではない。だいたい、人助けならお金をもらうなという話だ。

「ボランティアみたいなことなのですか?」

「いいえそんな!きっちりお金は頂いているわけですし」

私は本日三度目になるが、首と両手をブンブン振る。

一体お客さんからいくら貰って仕事をしているのか、私は知らない。しかし私達の給料から考えるに、相当の額を貰っているに違いない。

それをボランティアだなんて、口が裂けても言えない。

「私の仕事は物を売ってるわけじゃなくて、何て言いますか、労働力を売ってる?みたいな……」

自分の仕事を上手く説明できなくて、私は悶々とした。一言で説明できる仕事でないのはわかっているが、こうも上手く説明できないと背中がむず痒くなる。

しかし、「何でもやってます!」と言ったところで「はぁ?」と思われるだけだろう。いったいどんな言葉で説明したらいいのか……。

「荒木さんの仕事も面白そうですねぇ。私ももう一度、若い頃に戻りたくなってきましたよ」

私が上手く説明できなくて困っているのがわかったのか、おじいちゃんはしみじみとそう言った。私はこれをチャンスに話題を変えることにする。

「おじいさんは何のお仕事をしていたんですか?」

そう聞くと、おじいちゃんは少し答えに悩んでいる。まるで先程の私を見ているかのようだ。

「私の仕事も一言では言い表せませんなぁ。でも、荒木さんの仕事とよく似ていると思いますよ。そのせいかとても親近感が沸いて来るんです」

それからおじいちゃんは、私に「仕事は楽しいですか?」と尋ねた。

「まぁ、お店はだいたい暇なんですけど、楽しいです。ちょっと私には力不足なときもありますけど……」

自分でそう言ったくせに、私は少しがっくりと肩を落とした。私にも何かひとつくらい取り柄があればなぁ……。

私が落ち込んだのがわかったのか、おじいちゃんは優しい声でこう言った。

「力不足を歎く必要はありませんよ。一生懸命頑張れば、それでいいんです」

私はなぜか「ありがとうございます」と言っていた。口が勝手に動いたのだ。

おじいちゃんはそれを馬鹿にする事はなく、優しく微笑んだだけだった。






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