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bite the bullet6




それから四日後、七月十四日、火曜日。修理に出していた自転車がようやく帰って来た。昨日までは店長に送ってもらっていたのであの恐怖を味わうことはなかったが、今日はどうだろうか。ここ数日車で送ってもらっていたのでストーカーは私の姿を見ていないはずだ。諦めてくれただろうか。

夜八時三十分、私は本棚にハタキをかける手を止めると、くるっと店長の方に顔を向けて言った。

「店長、私そろそろ……」

「ああ、お疲れ。気をつけて帰ってね」

若干期待したが、さすがに今日はもう送ってくれないようだ。私は自室から荷物を取ってくると、ソファーの後ろを通り過ぎる時に「お疲れ様です」と挨拶して店を出た。

夜空を見上げると夏の大三角が輝いている。私は自転車のカゴにカバンを放り込むと、サドルに跨ってペダルに足をかけた。一つ気合を入れると、ペダルに乗せた足に力を込める。

ストーカーの待ち伏せポイントを避けて遠回りして帰るつもりだったが、気が変わった。いつもの道を通って、まだストーカーがいるのか確認してみようと思ったのだ。もしストーカーがいたとしても自転車なら逃げきれる自信があった。

私の家がある地区との境目が近付くにつれて緊張が増す。ストーカーがどの辺に隠れているのか、正確な場所に予想はついていた。暗闇の中目を凝らして空き地の中を見回す。

「い、いない……」

わざわざUターンしてもう一度空き地の中を覗いた。やはりストーカーの姿は確認できない。私はついに自転車を停めて、もっとよく空き地を見てみた。隅から隅まで見回してみたが、人どころか野良猫の姿も見えない。

私は自転車を発車させると、立ち漕ぎで家に帰った。ストーカーはもういない!ここ数日私が姿を現さなかったせいか、私をストーキングすることを諦めたのだ!やった!もうびくびくしなくてもいいんだ!

家に帰った私は、まずストーカー消滅を投げ付けるようにお兄ちゃんに報告し、にっしーにメッセージを送った。お母さんに「どうしたのそんなにニヤニヤして。何かいいことあったの?」と言われながら夕飯を食べ、いつもよりゆっくり風呂に入った。髪を乾かしてベッドにダイブすると、安心したせいかそのままぐっすりと眠った。

翌日、七月十五日、水曜日。放課後バイトに来た私は、勢い良く店の引き戸を開いた。

「おはようございますっ」

「おはよう雅美ちゃん。元気いいね」

久々にぐっすりと眠れたことで、今日は一日中テンションが高かった。学校の友人にも若干引かれたほどだ。

「そうだ、店長に報告するの忘れてました。昨日帰りに確認してみたら、ストーカーいなくなってたんですよ!」

「へー、それはよかった」

「そのせいで一日気分が良くて」

私は足取りがスキップ気味になりながら店の奥へ向かった。自分の部屋に荷物を置いて、腰にエプロンを巻くと店へ戻る。さて、今日からまたバリバリ働きますか!

「……と言っても相変わらずお客さんが来ませんね」

「いつものことじゃん」

来客用のソファーでバラエティー番組を見ながら、私と店長はポテトチップスをつまんだ。

「そういえば聞いてくださいよ。何かグループのメンバーが一人いきなり学校辞めて作業がすごく大変なんですよ」

「へー、何で辞めたの?」

「教授の説明だと青森の実家の仕事継ぐって言ってたらしいですけど、辞めるならもっと早く言ってほしいですよね。一応制作のスケジュールあるんですから」

それにしても、青森の家業ってことはもしかしてりんご農園?男子だからあんまりプライベートな会話をする機会はなかったが、もし仲良くなっていたらりんごを送ってもらえただろうか。

「だからここで作業しちゃダメですか?」

「えー、それ場所取るの?」

「スケジュール押してるんです本当に間に合わないんですよ。私リーダーなんです。締め切り迫ってるんです」

「別にいいけど、お客さん来たら片付けてね」

店長の許可も出たことだし、さっそく私は荷物を取りに部屋へ向かった。心の中で再び叫ぶ。よーし、今日からバリバリ頑張るぞー!仕事じゃなくて学校の課題だけど!




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