輝く星はひどく綺麗だ3
きらびやかなパレードを目の前にして、しかし私の目にはパレードなど映っていなかった。やはり店長と離れたのは失敗だったかもしれない。このあとちゃんと合流できるのか心配で私はパレードどころではなかった。
目の前の道をライトアップされた馬車に乗ったミラが通り、私達観客に手を振った。しかし私はそれには目を向けず、キョロキョロと落ち着きなく辺りを見回していた。パレードが始まって四十分経った。ゾウのランドール兄妹のところにはあまり客はいないだろうし、そろそろ店長が帰ってきてもいい時間だ。
パレードも最終段階に入り、一際輝く神輿の上で本日のスペシャルゲストであるシマリスの二匹がダンスをしている。パレードもあと十分もしないうちに終わるだろう。周りの観客達に揉まれながら何とかスマホを取り出し確認してみるが、メッセージも着信もなかった。まさか店長、最後の最後で花音ちゃんに捕まったりしてないよね?
おそらくこの喧騒では電話をしても着信音に気付かないだろうし、もし気付いても話し声は聞こえないだろう。私は現在位置を店長にメッセージで知らせることにした。幸いすぐ近くに先程休憩したレストランがある。一生懸命文字を打ってメッセージを送信したが、さすがに周りに人が多すぎる。どうせパレードも見ていないし、私は人だかりから出ることにした。
両隣の人に迷惑そうな顔をされながらも、なんとか方向転換する。振り返っても人だらけだ。私は「すみません」と何度も頭を下げながら人々の間を通り、ようやくパレードに群がる人だかりからスポンと抜け出した。
「あれっ、雅美ちゃん」
「えっ!店長!」
人と人の隙間からようやく顔を出すと、聞き覚えのある声が。何と目の前には探していた店長が立っていた。店長もかなり驚いているようなので、どうやら狙ってここにいたわけではなく全くの偶然らしい。
「すっごい偶然。実は雅美ちゃんエスパーとか?」
「店長こそ、どうしてここにいたんですか?」
「ここちょうど真ん中辺りだし……雅美ちゃんに場所聞いたらどっちにも行けるかなって」
そういう店長の手にはスマホが握られていた。どうやら私にメッセージでも送る直前だったらしい。店長はスマホをポケットにしまった。
「パレードはもういいの?」
「はい。一人で見てもつまんないですから」
私の答えに店長は不思議そうな顔をした。
「何で?今二人で見てるじゃん」
私はそれもそうかと妙な納得をした。振り返ってみると、パレードの最後尾が通り過ぎて行ったところだった。端の方の観客達がもう帰り支度を始めている。
「終わっちゃいましたね」
「帰ろっか。この人数に紛れたら花音にも見つからないだろうし」
パレードが終わり、ドリームランドの大きな時計塔はもう九時過ぎを指している。お客さん達はぞろぞろと出入り口に移動していた。私達もその流れに加わる。
駐車場につき車に乗り込むと、身体が疲れきっていることに気付いた。長時間動き回ることを想定してスニーカーを履いてきたが、それでも両足は棒のようだった。
店長が車のエンジンをかけた。私は隣の運転席を見ると、右手をぐっと延ばして店長の頭のカチューシャを取った。どうせまた付けてること忘れてるだろうから。
「雅美ちゃん疲れてるんなら寝てていいよ」
「ダメです。店長が居眠り運転しないように見張ってなきゃいけないんですから」
店長が車を発進させた。駐車場から道路に出て、どんどん加速する。私が疲れているということは店長も疲れているはずだ。そんな状態で七時間も運転するんだから、いくら途中で休息を取るといってもどこかで居眠りしてしまうかもしれない。高速道路で事故なんて起こしたら間違いなくあの世逝きだ。そうならないように私が見張っていなくてはいけない。
店長の声で目を覚ますと、そこはもう私の家の前だった。私は口からヨダレが出ていないか慌てて確認する。よかった、そんなだらし無い顔にはなっていなかったようだ。
「見張ってるって言ったくせに結局寝てたね」
「しょうがないじゃないですか」
腕時計で時刻を確認すると午前四時過ぎだった。家族はみんな寝ているだろう。親には一昨日の夜は友人の家に泊まり、昨日の夜はカラオケで一晩過ごして明け方帰ってくると説明してある。親がこの説明を信じたかどうかはわからないが、両親は━━特にお母さんは私の仕事を快く思っていない。もしかしたら今日の嘘も疑われているかもしれない。
店長に別れの挨拶をして車から降りた。去り際、今日の仕事は休んでいいと言われた。よかった、さっきまで寝ていたとはいえ、もうくたくたなのだ。とても仕事をする気分ではない。今回の仕事の報告書も店長が書いておいてくれるとのことだ。二人とも同じ行動をしていたのだし、二枚書く必要はないだろう。
私は家に上がり手洗いを済ますと、二階の自分の部屋に向かった。荷物を床に投げ置きベッドにダイブする。と、頭に違和感を感じた。
「あ、そっか……」
どうやら私はシェミーのカチューシャをつけっぱなしだったらしい。私はズレたカチューシャを頭からはずすと、枕元に置いてあるぬいぐるみの頭に付けた。腕を延ばして床のかばんからフィースのカチューシャを取り出すと、それも別のぬいぐるみにつける。
その作業が終わると、私はまるで電池が切れた人形のように深い眠りに落ちた。