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それぞれの三日後2





四月七日、月曜日。野洲高校二年二組教室前。

「先日はお世話になりました」

「誰だ貴様は?」

北野玲那は内心の戸惑いを見せないよう、毅然として言った。

午前の始業式が終了し、時は昼休み。クラスメイト達は思い思いの場所で思い思いの友人と弁当を広げているが、あいにく玲那に友人と呼べる存在はいない。さらに、今日は弁当を持ってくるのを忘れてしまっていた。

仕方がないので自分の机に突っ伏して眠っていると、いきなりクラスの名前も知らないような奴が玲那を叩き起こし、「き、北野さん、あの人がなんか呼んでるよ……」と言ってた教室の入口を指差したのだ。自分役目は終わったと、すごすご玲那から離れるクラスメイトを無視して、教室の後の入口に目を向ける。するとそこには一人の男子生徒が立っていた。

面倒臭いので無視して二度寝しようかと思ったが、その男子生徒は「早く来い」という無表情で玲那を見ている。暴君と人々から敬遠されている自分にそんな顔をするなんて、いったい何の用だと気になった玲那は立ち上がって入口へと向かった。するといきなり先程の台詞だ。

目の前の男子生徒は雰囲気的に三年生だと思うが、玲那にとってそんなことは関係ない。人が気持ちよく寝ていた所を叩き起こして呼び出すなんて。くだらない話だったら承知しない。

そう思いながら、威嚇するように視線をキツくして男子生徒を見る玲那。しかし相手の男子生徒は玲那の脅しなどまるで気にもせずに話し始めた。

「三年の瀬川です。先日はあなたのおかげで無事任務を遂行することができ、従業員もたいした怪我なく帰ってくることができました。ありがとうございます」

相手が話す様子を観察しながら、玲那は「無表情な奴だな」と思っていた。彼女自身表情豊かな方ではないが、この男子生徒は玲那の百倍無表情だった。

それにしても、この男子生徒がいったい何の話をしているのか、玲那にはちんぷんかんぷんだった。しかし玲那はわからないからといって詳しく聞いたりしない。こういう訳のわからない話をする奴は、さっさと帰らせるに限る。

「何の話か知らないが、私は忙しいんだ。もう帰れ」

「お忙しいところお呼びしてすみませんでした。何かお困りのことがありましたらこちらへ」

どうやら相手も長居するつもりはなかったらしく、玲那が「帰れ」と言ったら、玲那の手に小さな紙切れを押し付けて帰って行った。

勝手な奴だと玲那は少し腹を立てる。が、帰れと言ったのは自分だったかとすぐに思い直した。

自分の席に戻った玲那は、先程押し付けられた紙切れを眺めてみる。それはシンプルな名刺だった。

表には【南鳥市二丁目五番地十三号 何でも屋 朱雀】とだけ書かれている。裏返してみると、細い線で地図が書かれていた。

いかにも怪しそうな店だ。「何でも屋」とは、いったい何を売っている店なのだ?まさかジェラート・トライフルのような危ない仕事をしているのではないだろうな。そんな奴等の世話をしてやった覚えは自分にはないぞ。

そこまで考えて、玲那は名刺をスカートのポケットに突っ込んだ。考えるのが面倒臭くなったのだ。なにせ玲那はついさっきまで寝ていたのだから。

しかしこの名刺が後々……約十ヶ月後、まさか役に立つときが来るなんて、玲那はまだ知らない。





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