表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/378

それぞれの三日後




四月七日、月曜日。

「あ」

「あ♪」

私立聖華高等学校東塔二階の廊下で、三年A組十七番鳥山麗雷と、二年C組十五番ジェラート・トライフルは偶然出くわした。麗雷は相手に雑談に興じる意志があるとわかると、足を止めて話しかけた。

「あんた怪我は?」

「もう治っちゃったよ★」

あの住宅街での死闘から、わずか三日後のことである。麗雷の記憶が正しければ、ジェラートは刀で手を深く切っていたはずだ。それに、北野の蹴りでブロック塀に叩き付けられたあの怪我も、いったいどこに消えたというのだ。

「早くない……?」

「フツーフツー★」

彼女達の隣を歩いていた友人達は、二人が知り合いだと知ると「先に行ってるね」と離れていった。そんな彼女らに、麗雷は「ごめん」と謝り、ジェラートは「すぐ行くー★」と恐らくは果たされることのないだろう約束を口にした。

「麗雷ちゃんは怪我なかった?」

「散々人の腹踏み付けといてよく言えたわね」

「あはは★だって麗雷ちゃんなかなか負けてくれないんだもん♪」

一体何がそんなにおかしいのだろうか、ジェラートのテンションは先程からかなり高い。麗雷がその事を尋ねると、ジェラートは「いつも通りだよ♪」とまた笑った。

「よくそんな馬鹿みたいに笑ってられるわね。私夜仕事あるから昼はいつもテンション低いの」

「そうなんだぁ★ねぇねぇ、お仕事って大変?☆」

「まー大変っちゃ大変だけど……給料いいし……」

ジェラートは麗雷の給料という単語に反応する。

「あ!私日波さんからお給料もらってない!」

「あー……。捕まっちゃったからねー」

「ただ働きかぁ」とうなだれるジェラートを、麗雷は少し意外に思った。

「あんた給料目当てでやってたのね」

てっきりただの戦闘狂だと思っていたのだが、給料にこだわる辺り、わりと普通の感性を持っているのだろうか。もしかしたら、この道に進むしかなかった理由があるのかもしれない。

麗雷のそんな想像とは裏腹に、ジェラートは笑顔でこう答えた。

「うん、お金ないと生きていけないからね♪だからこの仕事は私にとって天職なの★」

「天職」という言葉を聞いて、前言撤回、麗雷はさっきの考えを投げ捨てた。やっぱりジェラートはどこか狂っていると思う。

結局予鈴が鳴るまで話し込み、風紀に厳しい教師に 「廊下は走らない!」と怒鳴られながら慌てて教室へ向かった。

麗雷が三年A組の教室に戻ると、先に戻っていた友人の一人が「次数学だよ」と教えてくれた。麗雷は自分の席に座って、机から数学の教科書とノートを取り出す。そのあとすぐに、少し頭の薄くなった数学教師が教室に入って来た。

「えー、ですから、X軸とY軸の交点を求めるためには……」

数学の授業が始まって十分。麗雷は窓際の席で頬杖をつきながら、教師の眠りの呪文のような授業を聞いていた。ふと窓の外を見てみると、二年生が体育でソフトボールをしていた。ジャージのラインが黄色いから、すぐに二年生だとわかる。

数年前に共学になったばかりの元女子校なので、やはり男子より女子の人数が多い。それでも男子生徒も年々増加傾向にはあるらしいが。だがやはり、まだまだ女子が優位に立っている現状だ。

男子がでかい顔をしないのは過ごしやすいけど、と、そんなことを考えながら、何の気なしにグラウンドの二年生を眺める。すると見知った薄い緑色のツインテールを見つけた。あの後ろ姿は……。

バッターボックスで思い切りボールをかっ飛ばしているジェラートを見て、

「運動神経も抜群ですか……」

麗雷は思わず呟いた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ