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バッドエンドは好きですか?




しばらくして、私もトイレに行きたくなってきた。また二人とはぐれるのは怖いが、仕方ない。

「店長、ちょっとお手洗い行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「ここ動かないでくださいよ」

「わかってるって」

全然信用できない店長の返事を聞き、私はパーティー会場から出た。ちょうど目の前に料理の乗っていた皿を下げている使用人━━メイドさんがいたので、トイレの場所を聞くことにする。

「すみません、お手洗いはどこですか?」

メイドさんは皿の乗った盆を抱え直すと、ニコリと微笑んで答えた。

「階段を下って右手奥になります。一つしかございませんので、入る際にはノックをなさってください」

メイドさんにお礼を言って階段を下りる。下りきって右の方へ足を進める。と、奥の部屋から話し声が聞こえてきた。さっき聞いたばかりのこの声は……。

私は何となく気になり、客室の扉の方へと近づく。やっぱり。この声は長女の二葉さんとその婿の拓海さんだ。

「まぁ、本当なの?それ?」

「本当だよ。ついさっき絵里香さんに聞いたんだ」

「他のみんなは知っているのかしら……」

「三千流義兄さんにはまだ話してないって。幸一義兄さん達はわからないけど……四乃ちゃんは知らないんじゃないかなあ」

「四乃……あの子、本当に邪魔な子ね。あの子さえいなければ……」

「実の妹でしょ?そんなこと言っちゃいけないよ」

「拓海は本当に素敵な人ね。絶対に二人だけのお城を建てましょう」

「もちろんだよ。でも、それにはお金が足りないね……」

「何とかお母様を説得できないかしら。それか四乃を……」

そこで私は突然ポンと肩を叩かれ、思わず悲鳴を上げるところだった。

「何やってるの、雅美ちゃん」

「て、店長。驚かさないでくださいよ」

私はいそいそと客室から離れる。二葉さん達に気付かれなかっただろうか。何か、私は聞いてはいけない話をしていた気がする。

「店長は何しに来たんですか?」

「僕もトイレ行っとこうかなと思ったんだけど、もしかして雅美ちゃんまだなの?」

「わかりました、すぐ出てくるんでちょっと待っててください」

私がトイレから出て来ると、店長は客室の方からこちらに歩いてくる所だった。私同様二人の話を盗み聞きしていたのかもしれない。私も話の続きが気になったが、良心が盗み聞きを拒んだ。客室からは相変わらず二人の声が聞こえてくるが、ここからではよく聞き取れない。

店長がトイレから出て来て、私達は二階のパーティー会場へと戻った。柱時計を見ると、時刻は二時二十三分だった。

柱時計から視線を外し、振り返った私は誰かと肩をぶつけてしまう。私はすぐさま「すみませんっ」と謝った。

「いや、気にすんなや」

顔を上げると、そこには次男の三千流さんが立っていた。しかし隣で腰を抱かれている女の人は絵里香さんではない。こんなに堂々と別の女性に手を出すなんて。

「それより、あんた探偵なんだろ?ちょっと頼みたいことがあるんだけどよ」

「何ですか?」

店長を呼んだ方がいいかと迷ったが、どうやらその必要はないようだった。三千流さんはちょっと屈んで小声になったかと思うと、私にこう言った。

「あの婆さんから金借りてきてくれよ。ちょっとしたお小遣もくれなくてさ」

口をポカンと開ける私とは逆に、三千流さんの隣の女性は面白そうに笑った。

「やぁだー、三千流さんったら。お金のことばっかり」

「生きる為には金が必要なんだよ、なぁ嬢ちゃん」

女性の笑い方はこの場においては少々下品に感じた。私は嫌な気分を顔に出さないように細心の注意を払いながら、三千流さんに「お小遣なんてねだらなくても十分持ってるように見えますけど」と返した。私の返しに隣の女性が小馬鹿にしたような笑い声をあげる。

「経営不振ってやつさ。何せ今世の中は大不況だからなあ」

三千流さんはひらひらと手を振って私から離れて行った。私は人を見くびるような女性の笑い声にまだムカムカしていた。

しばらくまた店長達と三人でいる。途中で何度か知らない人に話しかけられた。三千院さんが私達の仕事ぶりを武勇伝として話してまわったらしい。ただ指輪を見つけただけなのに、おかげで私達はすっかり私立探偵扱いだった。

「私達は"何でも屋"なのに」

「細かいことは気にしない気にしない」

私が唇を尖らせて言うと、店長は本当に気にしていないようでそう笑った。




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